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戦前昭和生まれの祖母

作者: 若松ユウ

 俺のばあちゃんは戦前昭和の生まれ。

 孫想いで、アーティストとしてなかなか芽が出ない俺を何かと気に掛けてくれてたんだけど、ジェネレーションギャップや、ちょっと抜けてるところなんかがあったんだ。

 俺が都会に染まってしまったせいかもしれないし、ばあちゃんが田舎じみてただけかもしれない。

 まっ、どれくらいズレてるかは、俺がばあちゃんに送ったハガキの一部を紹介するから、そこから推測してくれ。


  *


 ばあちゃんへ

 この前、そっちに忘れて行った物を届けてくれてありがとう。

 外れかけてるボタンを付け直してくれたのは嬉しいけど、破れてるところまで繕ってくれなくていいからな。

 こいつはビンテージ加工っつって、わざと傷つけてある奴なんだ。

 古い着物を割いてまで当て布をしてくれたっていう優しさは、受け取っておくけどさ。

 カズキより


  *


 ばあちゃんへ

 正月用の餅を送ってくれてありがとう。

 一人では食べ切れないと思って事務所のみんなに配ったら、すごく喜んでくれたよ。

 そうそう。糊付けされたものすごく幅の広い布が入ってたんだけど、ひょっとして、置いてったストールをアイロンがけしてくれたのかな?

 これ、あえてシワ加工にしてあるものだったんだけどなぁ。

 カズキより


  *


 ばあちゃんへ

 このあいだの荷物は、大いに役立ったよ。

 あのドテラとカイマキが無かったら、電気を止められた三日間で凍死してたかもしれない。

 今度、改めてお礼に行くよ。

 箱の中に紛れ込んでた回覧板も携えてな。

 カズキより


  *


 ばあちゃんへ

 外食ばっかりな俺のために、畑で採れた野菜や米を送ってくれてサンキュー。

 料理の得意な先輩にも手伝ってもらって、美味しくいただいたよ。

 やっぱ自炊した方がいいって実感したから、もっと稼げるようにならないとな。

 食材が届くたびに、先輩の家のキッチンを借りるわけにもいかないし。

 カズキより


  *


 ばあちゃんへ

 せっかく電話をくれたのに、出られなくてゴメンな。

 前日のスタジオ収録が遅れて、終電に間に合わなかったんだ。

 留守電に入ってたメッセージなら、ちゃんと聞いたから安心してくれ。

 それと、あの声は機械による自動音声であって、生身の人間でもなければ、彼女でもないからな。

 カズキより


  *


 ばあちゃんへ

 ばあちゃんの言う通り、アレはあわてて振り込まなくて正解だったよ。

 自分の車も持ってないのに、通勤途中に交差点で女の人をはねたなんておかしいもんな。

 金に困ってるのはたしかだけど、ばあちゃんに泣きつくほど落ちぶれちゃいないから。

 絶対に成功してみせるから、もう少しだけ待ってて。

 カズキより


  *


 ばあちゃんに送ったハガキは、まだまだたくさんあるんだ。

 なにせ、売れるようになるまで十年近くかかったからな。

 ハガキの束の数と厚みが、下積み生活の長さを物語ってるってわけさ。

 遺品整理の時に箪笥から出てきた瞬間は、全部取って置いてあることに驚いたよ。

 ばあちゃんの世代の人間には、物を直す、使い回すという発想はあっても、捨てるという概念は希薄なんだろうな。

 

 最後に〆のひとこと? そうだなぁ……

 生きてる時は恥ずかしくて言えなかったけど、俺がここまでやって来れたのは、ばあちゃんのおかげだと思ってるよ。

 ばあちゃん、本当にありがとう。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ∀・)温かい。そんな読み心地が何とも気持ち良かったです。こういうスタイルの作風だからこそ若松さまのお得意としている「語り」がすごくよく活きてるのかなと感じました☆ [気になる点] ∀・)若…
[一言] ほっこりしました。 最後は売れて良かったですね。
[良い点] ほんといい話ダー(TдT) 孫もとてもいい子で。 いつか「俺のばあちゃん」という大ヒット曲を作るに違いない。
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