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0.プロローグ

 その男はとことん善人だった。

 あまり裕福ではない農家出身で、自分たちが生活していくのにも困る状況なのに、それでも男は人助けを優先していた。


 それも全ては自分を育ててくれた母親の言葉を忠実に守っていたからだ。


『困っている人を助けたらね、それが巡り巡って自分をも助けてくれるのよ。逆に悪いことをしたら、自分の身にも悪いことが降りかかるのよ』


 その言葉を聞いたときは一体何のことを言っているのかわからなかった。

 ただ、子供のときに虐められていた子を助けたときに言われた『ありがとう』の言葉。

 それを聞くと心の中が満たされるような気がした。


 人を助けたら良いことがある!


 それを信じて、男は人を助けるのを生きがいとしていた。

 もちろん、そんな男を騙してくる人間はいた。


 それでも困っている人を助けるのはやめなかった。

 人を助けたら自分も救われる。

 そう信じてやまなかった。

 しかし、それは過ちだったということに気づいたときには全てを失ったあとだった。



 男は今日も畑で農作業をしていた。

 すると、やたら豪華な服を着た恰幅の良い男が数人の部下を連れて近づいてきた。


「ふむ、ここはなかなか良いな。良い別荘になりそうだ」

「さすがは地主様。目の付け所が違いますね」


 部下たちが恰幅の良い男を褒めたたえる。

 ただ、自分はそのとき、地主がこの辺りに引っ越してくるのかな、くらいにしか思っていなかった。


「では、ここに別荘を作るとしよう。おい、そこの人間!」


 ――俺のことか?


 まさか地主に呼ばれると思っていなかった男は、自分の方に指を向け、確認する。


「私のことでしょうか?」

「あぁ、お前のことだ! 早く来い!」


 ――何か用だろうか?


 農作業もほどほどに、男は地主の下へと近づく。

 すると、地主は嫌らしい笑みを浮かべながら言ってくる。


「この地はこれより私の別荘になることが決まった。早々に明け渡すが良い」

「……っ!?」


 あまりにも突然のことで男は声に詰まってしまう。

 確かにこの地は地主のもので、農家の人間はそれを借り受けて畑を育てていた。


 しかし、今回のそれはあまりにも突然のことだった。


「じ、地主様。この畑を失ってしまうと、私の家族はこれから食べていけません。どうか考え直してくれませんか?」


 必死に地主へ懇願する。

 すると、地主は嬉しそうに笑みを浮かべながら言ってくる。


「飯が食えないのか? その程度のこと、簡単に解決できるであろう?」


 もしかして、自分に仕事をくれるのだろうか?

 そんな期待を抱いたが、地主の答えはもっと最悪なものだった。


「飯がないなら、代わりに肉を買えば良いだろう?」


 ――はぁ? 普段の食事ですらギリギリの俺たちが肉を買えるほどの金を持っているとでも思っているのか?


 さすがに腹を立てそうになるが、ぐっと堪えて、なんとか思いとどまってもらおうとする。

 それを迷惑に思ったのか、地主がなにやら指示を出す。

 すると、突然後ろから硬い棒状のもので殴られ、男は気を失っていた。


 そして、次に目を覚ますと、畑は火の海に包まれていた。

 あと、もう少しで収穫だった作物たちもその中で、地主が笑い声を上げていた。


「はははっ、これで余計なものはなくなった。別荘の準備を始めるぞ!」


 去っていく地主。

 全てを奪い取る悪としか思えない行動。

 そんな理不尽な理由によって、男は全てを奪われてしまった。

 それを悔しく唇を噛みしめながらも、ただ見送るしかできなかった。



 畑がなくなっては生活ができない。

 もうすぐ収穫だったタイミングで作物を失ったので、食べ物もほとんどない。


 さすがに人を頼らざるを得ない状況。

 しかし、男にはまだ希望があった。

 今まで助けてきた人たちに応援を求めよう。


 母親の言葉を信じるなら、他の施しようがない今の状況なら自分を助けてくれるはずだ。

 そう思っていたのだが――。


「ま、まさか全滅……」


 片っ端から声をかけたのだが、今の自分を助けてくれる人はいなかった。



 それから数日が過ぎた。

 もうすっかり食べるものもなくなり、道端の野草を食べて生きながらえていた。


 しかし、生きる気力もなくなり男は藪道の真ん中で力付き、倒れていた。

 そこで悟っていた。


 この世は善だけでは回っていない。

 むしろ、世の中は悪に満ちており、か細い善の炎は一息で簡単に消し飛ばされてしまう。

 結局は良いことをする人間ほど馬鹿を見るのだ。


 それを男が知ったとき、既に手遅れだった。

 命の灯火が消えそうになる瞬間、薄れゆく意識の中で男は固い決意を抱く。


 ――もう、人に騙されるのは嫌だ! 容赦なく奪われるのは嫌だ! この世が悪で満ちているというのなら、生まれ変わったら俺は悪人として生きてやる!


 そして、善人として生きてきた男の人生は幕を閉じていた。



 いや、終わると思っていた。

 理由はわからないものの、男はすぐに目が覚める。


 ただ、そこは見たこともない広い部屋で、そこに置かれた天蓋付きのベッドに寝かされていた。

 少し青みがかった白い大理石が使われた床や壁。

 今までだと考えられないほど、豪華な建物だった。それこそ一国の城みたいに。


 ――俺は確実に命を落としたはず。もし、奇跡的に助かったとしてもこんなところに寝かされている理由がない。それに体がどこかおかしい。なんだか縮んでいるような……。これはどういうことだ?


 まずは体の違和感を調べるために部屋に置かれた姿見の前に移動して、自身の姿を見る。

 するとそこに映っていたのは見たことのない少年の姿だった。


 肩ほどまでの黒髪。琥珀色の鋭い目つき。

 背丈は低めで、まだ幼さが残った顔立ち。

 おそらくは十歳前後だろう。


 生まれ変わったのか、それとも前世の記憶を取り戻したのかはわからない。

 でも、一つだけ言えることがある。


 ――どうやら俺は新しい生を送ることができるようだ。


「ふふふっ。そうか、新しい人生か……」


 思わず笑みが溢れてくる。

 良いことをしても自分には返ってこない。

 この世は悪が得するようになっている。ならば自分は――。


「次は悪人になってやる!」

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