音が楽ちんと書いて音楽
思いつきで書いた短いやつです
薄暗い音楽室にピアノの音だけが響いていた。
「ピアノって楽しい?」
「ふぁーーーーーっ?!」
夕暮れの音楽室、ワンレンの長い髪で半ば顔を隠すようにして1人黙々とピアノを弾く痩身の学生…。
彼女のあだ名は「音楽室の亡霊」
驚かれることは日常だったが、まさか自分が叫び声を上げて驚く事になるとは思わなかった。
「電気ぐらい点けてくださいよ」
混乱して変な文句をつけてしまう。
「いや、それこっちのセリフだからね」
そう言いながら入り口に向かう、急に話しかけて来たのは小さな少女だった。
と言っても同じ学校の制服を着ている。
ノイズを立てながら部屋に明かりが灯された。
壁のスイッチの高さは120cmくらいの位置にあるはずだから、一応それよりは身長があるから140cmくらい?
小さいだけでなく細く華奢な感じで歩いても足音がしない。
いやいや、普通これだけ静かな空間だったら少しは音がするだろ、と言うか、戸を開けて入って来た、よね…。
「ゆ、幽霊とかじゃ、ないんだよね?」
恐る恐る聞いてみる。
「それ、貴方が言うの?」
明るいところで見ても高校生には見えない目つきが悪いちびっ子だった。
近くの机に寄りかかる。
小さすぎて机に腰掛けようと思うと上に登らないといけないようだ。
「いつも音楽室でピアノ弾いてるから、楽しいのかなって」
「楽しい、と言えば楽しいのかしら。もう、習慣? だから…」
この音楽室は正面にピアノがあって、後ろに行くにつれて高くなった机と椅子が一体になったものが固定されているタイプの教室なので、部活などでは使いづらく、放課後はいつも使わせてもらっているのだ。
「漫画とかアニメとかで、音楽やってる人ってなんかみんなすごく辛そうだし、正気を失ったりするじゃん? 音楽は音を楽しむって書くのにね」
「どっかの小学校の先生みたいな事を言うのね」
「まあ、たぶん先生に聞いた言葉だと思う」
「才能ある主人公が演奏楽しい、つて周りからも絶賛されて、音楽って素敵、じゃ3話くらいで終わっちゃうからじゃないかな」
「確かに…」
なぜかちょっと寂しそうに見えて申し訳なくなる。
「ぶっちゃけ、ずっと弾いていると楽しいとか辛いとかそう言う感覚はなくなってくるし、物語にはしにくいよね」
そう言いながら自分でも気づかないうちに演奏を再開していた。
楽しいとかそう言うことではないのだ。なんとなくピアノがあるから弾いている。
逆にピアノがないと手持ち無沙汰になる。
「吹奏楽とか、学生時代にやると2度と楽器見たくない、みたいになると言う話は聞いたことがあるから、競技系演奏部は大変なんじゃないかな、実際」
「競技系…」
「バンドなんかもプロ目指してますとか言う人は血反吐吐く思いしてコンテストとか回ったりするらしい」
「血反吐…」
「音楽に限らず、私は楽しいとかそう言う気持ちがよく分からなくて、聞いてみたかったんだ」
「そう…」
「また、来ても良いかな?」
「良いですよ。別にダメって言う権利もないですけど…」
ふと静かになったと思ってそちらに目を向けると、音楽室には自分1人だった。
「ふぁーーーーーっ?!」
若葉ちゃんは別に幽霊でも忍者でもないです




