偽装?
ゆたかと若葉ちゃんの出会いとかその辺はどっかに書いた気がするけども
「これが にのまえさんの彼女らしいです」
バスケ部の面々が教室でスマホを囲んでいる。
「…」
「…」
「…」
「小学生?」
「いえ、着ている制服が西校のなんで、おそらく高校生です」
ゆたかが小さな女の子とイチャイチャしている写真が表示されている。
「盗撮?」
「盗撮ですね」
「盗撮か?」
「はい、盗撮です」
「開き直った」
「西校の友達に貰った画像なのでグレーです。私個人は」
「白じゃないんかよ」
パラパラと画像を切り替えていく。
「おお、良く撮れてるね、私にも頂戴」
「…? おわーっ!」
いつのまにか ゆたかが混ざっていた。
「彼女、なのかなぁ」
部活の終わりも相変わらずそんな話をしていた。
「違うんですか?」
「どっちかと言うと、向こうが彼氏っぽいって言うか」
「にのまえ氏よりイケメンって、それほんとに女?」
「どう言う意味か」
中学の入学式当日。
学校に向かう ゆたかの前には小さな女の子が歩いていた。
同じ制服を着ているからおそらく今日入学だろう。
信号待ちで立ち止まったその子が何かに気づいて突然振り返った。
一瞬、自分がジロジロ見ていたのがバレたのかと思ったが、こちらを見ている様で見ていない目に、違うと感じた。
自分も立ち止まると、その子が抱きついて来た、と言うか、タックルして来た。
視界の隅に自転車を漕ぐ男の姿が通り過ぎていく。スマホを見ていてこちらに気づいていない。
ゆたかを押し除けた女の子はその勢いを使って回転し、手に持っていた学生鞄を自転車の男に叩きつけた。
突然のことに転落する男。
自転車は乗り手を失ったまま前進、交差点を直進して来たトラックに跳ねられて激しい音を立てて吹っ飛んで行った。
「と言う様なことがあって…」
「命の恩人…」
「あの体格じゃん? 結構派手に怪我をしてしまって…」
「しかも身を挺して…」
「なんか申し訳なくて、身の回りの世話くらいさせてもらえないかと付き纏ったら」
「もし君が、私に救われたと思うなら、君は自分のために時間を使う義務がある。でなければ、私は君を救えなかったことになるだろう?」
「って」
「…」
「…」
「と言うか「好きな人がいる」みたいな反応だったのに、なんか変わりました?」
「まあ、ちょっとね」
ゆたかは駅に急いでいた。急いだところでこの辺りの電車は10分に1本しか走っていないのだが。
久しぶりのメール。地元の駅で待ち合わせだ。
電車の中でも落ち着かない。そもそも待ち合わせの時間がまだなのだから焦っても居ないかもしれないのに。
周りの迷惑にならない様に気をつけながらそそくさと改札を抜ける。
駅ビルを抜けて、バスターミナルの外れ、待ち合わせの場所には既に若葉の姿があった。
両手を前に広げておいでおいでのポーズをしている、様に見えた。
思わず抱きつく。いや、172cmのゆたかが140cmの若葉を抱くと完全に持ち上がってしまうので抱き上げると言う表現の方が正しいだろう。つい頬擦りしてしまう。顔がにやけて自分でも誰だよって顔をしている気がする。
急に我に返って固まってしまう。冷や汗がダラダラ垂れてくる。
そっと若葉を下ろす。
「えっと、ごめんなさい」
「いや、大体合ってる」
「?」
「なんの冗談か分からんが、交際を申し込まれたりするのが面倒でな」
「それで私と付き合っている事にしたと…」
「まあ、そんな感じだ。たぶん今も覗いてる奴が居るから、さっきのはむしろありがたい」
思わず周りを見回そうとして、手を掴まれて止める。
「…まあ良いですけど、それで、偽装彼女特典とかなんか付くんですか?」
「すまん、特に考えてなかった」
「…」
ですよねー
「ただ、私が確認したかっただけだからな」
珍しくニヤリと笑った気がする。
言葉の意味を図かねていると、制服の帯を掴んでひっぱり顔を近づける。
「まあ、ゆたかが望むなら恋人っぽい事やり放題で良いよ」
「んんんんんんんん」
いや、しないけど
本当は今の学校でのアレやコレやをとっとと片付けて、ゆたかも同じ学校に合流して日常系にしようかと思ったんだけど、もうちょっとめんどくさい話になるかも(未定