文化祭って本当にあったんだろうか
文化祭に参加した記憶もないので当日の事は書けません
ちょっと長めだけど、相変わらず事件とかは起こらないっぽい
「セミファイナルも嫌だけど、死骸が転がってるのも普通に嫌だよな」
ずぶ濡れの若葉がだるそうに呟く。
「いや、そもそもの論点がずれてると思うよ」
甲斐甲斐しく若葉の頭を拭きながら ゆたかが答える。
「死骸が転がっていると嫌だから、片付けようと思うと動き出すのがヤバいんだって」
朝から大雨に降られたある日の事だった。
教室の中は全体的に湿っぽかったが、あからさまに濡れている一角があった。
「そのタオルってやっぱ自分を拭くためってより、若葉ちゃん用だったりするの?」
エリナが尋ねる。
「まあ、そうかな」
「自分はほとんど濡れてないもんね」
もかが机の影から現れる。
実際小さいといえば小さいのだが、物陰から現れることが多い。
「朝練あったし、防水のパーカーを雨がっぱ代わりに着てきたから」
「若葉ちゃんはそう言うの着ませんの?」
ほとんど もかのお目付役になってる椎名が来る。
「そもそも傘を持ってこなかった人間にそれを聞く?」
一時的に小降りになっている時に家を出たらしい。
「朝練無ければ一緒にくるんだけど」
「…それはそれで2人ともびしょびしょになってそうな気がする」
「…」
「ところで、その靴の中敷って、やっぱあれ?」
机の下に靴の中敷が3セット6つ並んでいる。
「靴のサイズが合わないんだよ」
「相変わらず足もちっちゃいよね」
「足だけ大きくはならないだろ」
「て言うか、骨?」
「これは骨じゃなくて筋じゃないかなぁ。知らんけど」
足の甲に足首から指にかけて5つの山が出来ている。
「舐める?」
「…舐めないよ」
「その間は何?…」
尋ねる もかの後ろの椎名の鼻息がちょっと荒い。
「なんか、卓球アニメのネタでしょ? 足舐める?って言うの」
「卓球で足舐めるの?」
「運良く足の長手方向が合うのが有っても、幅とか厚みがガバガバなんだよな」
「分かる、日本製あるあるよね」
体がヨーロッパ規格のエリナが同意する。
「なんで顔だけ日本人なんだろうな」
「ところで若葉ちゃんは文化祭はどうするの?」
「出来れば休みたい」
「おい」
「なるほど…」
「何か、企んでますの?」
エリナはすまし顔なので、別に悪い事を考えているわけではなさそうだ。
昼休み、他のクラスどころか違う学年の生徒まで若葉のクラスの教室の前に集まっていた。
「御手洗さんは?」
「若葉ちゃんは?」
口々に呼ぶが既に教室にその姿は見当たらなかった。
「小さすぎて見つからないとかじゃ無いよね」
冗談に誰も反応しなかったのは冗談に聞こえなかったのかなんなのか。
「と言うわけで、御手洗さんには文化祭実行委員の仕事をして貰うことになりました」
「どういうことかしらん?」
英語っぽい発音で若葉が尋ねる。
「御手洗さんを放置すると仕事が増えると言う噂なので、それを防ぐためです。ドゥーユーアンダスタン?」
「若葉ちゃん、漫画の主人公みたいに自分で解決してくれるんなら良いけど、周りに丸投げするから」
「そもそも、私は巻き込まれているだけで、私が面倒事を増やしているわけじゃないんですけども」
「と言うか、今回は私が巻き込まれている気がするんだけど」
なぜか一緒に生徒会室に連れ込まれた ゆたかが愚痴る。
「一豊さんには御手洗さんのお世話掛と言うことで手伝っていただきます」
「かずとよじゃないんですけど、こだまちゃん」
「誰がこだまちゃんですか」
こだまちゃんと呼ばれた男子の制服を来た後輩は、エリナのお気に入りの1年生で男子だ。
ユニセックスな美少女ゆたかと並べると、性別って何だろうってなる程度には美形男の娘だ。
服装も仕草も普通に男子だから男の娘と言うのはかなり酷い言いがかりだが、油断するとどっちだか分からなくなる。
ゆたかのエリナに対する当りがキツイのが気に入らない児玉と、男子にコンプレックスがある ゆたかは相性が悪い。
生徒会室は教室とは構造が違う部屋のある一角にあり、普通の教室の1/3くらいの広さでロッカーや本棚に囲まれていて、ホワイトボードの前に会議室のように机が置かれている。
生徒会役員も過半数が若葉を気に入っているようで、来訪するとお菓子やお茶が出てくるが、今は昼飯持参なのでお茶だけ出してもらっている。
「はい、あーん」
ゆたかが若葉の口におかずを放り込む。
若葉は食が細くて菓子パン一個とかなので、無理やり食べさせているのだ。
「あ、良いなそれ」
生徒会の子が冗談半分で食べ物を差し出す。
「食べさせ過ぎると逆にダメだから、餌を与えないでください」
「餌って、私は鳩か」
「そんで具体的に何をしたら」
「フェイクなのでかき回さないように逃げ回ってもらえれば」
「それはありがたい」
「にのまえさんは、面倒事を持ち込む人から庇ってもらえれば」
「私が一番大変なのでは…」
「当日は2人で回ったりしててもらえれば良いので…」
「こだまちゃん!」
ゆたかが目をキラキラさせている。
「私は楽できてありがたいが、何かしようと考えている人間から機会を奪うのはどうなんだ。ま、私に相談する程度のことじゃ大したことないと思うけど」
「うぐっ」
「そうねぇ。準備期間に入る前にある程度拾えればこちらで何とか出来ると思うけど」
エリナはわりと余裕顔だ。
なんだかんだ言いつつ若葉経由で持ち込まれた企画がねじ込まれたりしつつも文化祭も終了した。
「はーい、みなさんお疲れ様でした」
実行委員会の打ち上げだ。
「当日、講堂で開いた穴に謎のピアノ演奏があったり、予定外のメニューを出す店があったり、酔っ払って来場した父兄を取り押さえる騒ぎがあったりしたようですが、概ね成功ということで、かんぱーい」
目が笑っていないエリナの音頭で、それぞれ手にしたコップのジュースを飲み干す。
「いやぁ、今回の文化祭は平和だった」
「そだね」
「…」
若葉と ゆたかの言葉に静まり返ってしまった。
「ま、ま、打ち上げだから、楽しくいきましょう」
なんとなく疲れ果てた人たちの宴は長くは続かなかった。
生徒会メンバーとか考えだすと大変だよね(
涼しくなってきたので、なんかもうちょっと書きたい気もしたりしなかったり




