てとてとりあって
短い話とか、ちょっとキャラ紹介的な
「ちょっと手を貸して」
昼休みの教室、唐突に若葉が ゆたかの手を取る。
「ちゃんと返してね」
「…」
ゆたかの手を甘噛みする。
「食うな」
「いや、返せって言われると返したくなくなるじゃん?」
「天邪鬼か」
若葉が ゆたかの手を揉んでると他の子たちも集まってくる。
おかっぱの生徒、もかは若葉ほどではないが小柄な少女だ。
ニュースやネットでのデマなどをかなりの確率で言い当てる事が出来たためゴシップが嫌いで、噂話などの裏を取るのが趣味だった。何かと噂が絶えない若葉のところに良くきていた関係で最近は何もなくても一緒にいる事が多い。
もかのお目付役的な感じでいつも付いて来ていた椎名は黒髪の姫カットでいつも真面目な顔をしているので、付いたあだ名が「委員長」
わりと成績も良い事もあって周りの人間にはまじめな生徒だと思われている。
実際のところは「百合豚」
女の子同士が仲良くしているのを見ては妄想しているタイプだった。
いつも気難しそうな顔をしているのは、にやけたり涎を垂らさないように堪えているからなのだが、それに気づいている人間はほとんどいなかった。
「何をなさってますの?」
椎名が硬い表情のまま尋ねる。
この教室の中で椎名がニヤケそうなのを堪えている事に気が付いているのは本人と もかだけだろう。
「手のツボを押すと言う名目で ゆたかの手を揉んでいる」
「隠す気なしか」
ゆたかが突っ込む。
「てゆーか、バスケとかやってるから疲れてるんじゃないかと思ったけど、全然効かない」
「ちゃんとケアしてるからなぁ。どっちかと言うと、不健康な若葉ちゃんの方が効くんじゃね?」
逆に若葉の手を取って親指でグリっと押す。
「あふぅん」
誰も予想できないような声が出たので全員一瞬固まる。
確かめるようにもう一度ツボを押す。
「いっ、あっ、あう〜」
悶え苦しむ若葉を囲んで微妙な顔をすると言うおかしな空間がしばらく続いた。
「お、おのれー」
「ところで、ゆたかちゃんの左手のそれはなんなのかな?」
ゆたかは薬指にいかにもおもちゃという感じの透明でラメの入った指輪をしている。
「指輪だが」
「…」
「UVレジンがマイブームだった頃に私が作ったやつだ」
若葉がポケットから指輪を取り出す。
「二つでセットになってるんだけど、サイズが違いすぎて私はぶかぶかなんだよね」
椎名がプルプルし始めたが、気付く者は少なかった。
こう言う、短い話も好きなのです。はい




