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ある後家さんのお話  作者: 中村文音
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ある後家さんのお話

 あくる日、後家さんのこれからのことを、さて、どうしたものか、と考えながら村長さんが村の道を歩いていますと、田んぼを持っているお百姓さんが大きな袋を運んでいました。


「やあ、ご精がでますな」

「これは、村長さん、今日は見廻りですかな。いや、いつもありがとうございます」

「いやいや、恐れ入ります。ところで、何を運んでいらっしゃるのかな?」

「これはもみがらですわいな。米をとった後の、稲のからでございますよ。

 いやはや、あんまり量が多いので、余った分は捨てるしかないんですわ」

「もみがらですか。すいぶんたくさんですな。……そうだ!」

 

 そのとき、村長さんの頭に、ある考えがひらめいたのです。


 そこで村長さんはお百姓さんに頼んで、もみがらをゆずってもらうことにしました。

 お百姓さんは、大切なお米を守ってくれたもみがらをそのまま捨ててしまうことが忍びなかったものですから、村長さんの申し出を喜んで、捨てるはずだったもみがらを全部ゆずってくれました。

 

 村長さんは、大きな袋を背負って、後家さんの家へ向かいました。

 とても大きな袋でしたが、中身はもみがらでしたから、ひとりで軽々とかつぐことができました。


「まあ、村長さん、こんな大袋一杯のもみがら、いったいどうされたんです?」


 袋をかついでやってきた村長さんを見て、おかあさんは驚きました。


「まあまあ、わたしによい考えがあるのだよ。

 さあ、これからいっしょに村の家を何軒か廻ろう。

 そのときこれが役に立つから」


 それでふたりは大袋一杯のもみがらを持って、村の家を廻ることになりました。


 ふたりはまず、りんごの木のたくさん植えられた家に行きました。

 その家の人は、木からもいだりんごを、大きなおぼんに乗せて運ぼうとしているところでした。


「りんごを急いで運んでおくれ。

 傷つかないように、乾かないように、腐らないように」


 けれど、いくら大きなおぼんでも、りんごはそんなに乗りません。

 転がってしまうので、重ねることもできません。


「やあ、こんにちは。ご精が出ますな」


 村長さんは家のご主人に声をかけました。


「ああ、村長さん、こんにちは。

 きこりの後家さんも、こんにちは。

 ……ご主人は残念でしたねえ。力持ちで立派な方だったのに。

 うちも、古くなったりんごの木を伐り倒すとき、何度かお世話になったもんです」


 りんご園のご主人は、夫を亡くしたおかあさんにお悔やみを述べてくれました。


「今年は、りんごの出来はどうですかな?」


 村長さんが尋ねると、ご主人は、


「今年は出来が良くて、ありがたいことです」


と、嬉しそうに応えました。


「でも、いつものことですが、運ぶのに難儀をしております。

 一度におぼん一杯ずつしか運べなくて。

 家の者もくたびれます」


「それは大変ですな。でも、これからはもう大丈夫。

 今日はそのことで来たんですよ」


「へえ、それはありがたいことで。

 何かよい案でもありますかいな」


「これを使うのですよ」


 村長さんは袋を開いてもみがらを見せました。


「これは、もみがらですわいな。

 一体こんなもん、何の役に立つんですかい」


 立派な道具でも出て来るのかと思っていたご主人は、がっかりしたように言いました。


「箱の中にもみがらを詰めて、その中にりんごを埋めるのですよ。

 そうすれば、りんご同士がぶつからないから傷つかないし、そこから腐ることもない。

 もみがらのおかげで、りんごが乾いてまずくなることもない」


「なるほど! それは確かによい考えですな。

 それでは早速、りんごがたくさん入るような、丈夫な木の箱を作りましょう!」


 うんうんと村長さんはうなずきました。


「そこでなんだが、このもみがらお好きなだけと、お宅のりんごを少し、交換してくださらんかね」


「もちろんですよ。

 村長さんにはいつもお世話になっておりますし、きこりの後家さんはこれからが大変でしょうし。

 うちのりんごでよければ、お安いご用ですよ。

 いくらでも、お好きなだけお持ちください」


 村長さんは喜んで、りんごを小さな袋に一杯もらうと、


「さあ、これでりんごが手に入ったよ。

 次に行くのは卵屋さんだ」


と、言いました。





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