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ナンカヨウカイ~化け猫まひるの便利屋生活~  作者: スギヨシ ハチ
「折る」
6/26

6 鶴

「折り紙? なんだそりゃ」

「みゆ、学校でいっぱい折ったの!」


 そういうが早いか、みゆは自分の部屋から紙の束を持ってきた。

 いろんな色の、正方形の紙束だ。


「見ててね」


 みゆは紙を三角に折り曲げると、ひっくり返して折り、またひっくり返して折り……何度も何度もその動作を繰り返す。

 俺の見ている前で、紙はひし形に折られ、半分になり、そして。


「ほら!」

 みゆの手が離れると、そこには羽を広げた鳥のような姿があった。


「へえ、器用だな。これは鳥か?」

「鶴だよ、折り鶴」


 鶴か。あの頭の赤い、首の長い奴だな。

 確かにそう言われれば、そんな風に見えてくる。


「学校でたくさん折ったということは……誰か入院でもしているのかい?」

「うん。クラスのシュウ君が、肺炎だって」


「なんで入院したら折り鶴を作るんだ?」

 俺が首をかしげていると、衛が教えてくれた。


「千羽鶴というものがあってね。折り鶴をたくさん、それこそ千羽、折ってつないだものなんだ」

 衛は両手の指を組むと、その上に顎を乗せた。俺と話をするとき、いつも衛はこうする。


「古くから、鶴は長生きの象徴だった。だから、病気やけがが早く良くなって、長生きできますようにという願掛けの意味があるんだよ。早く元気になりますようにという願いを込めて、鶴を折るんだ。昔からのおまじないだね」


「ふーん」


 人は本当によく祈る。

 消えそうな希望をつなぎたくて、あるいは、無駄だと分かっていながら、それでも人は祈る。


 バカバカしい。願いが天に届くだって? そんなワケあるかよ。

 天の上の誰かさんも、そんなお人よしじゃねえだろうよ。


 俺なんかはそんな風にしか思えないんだけど。

 だけどさ、どうしてかな。


 そういう人間の愚かさが、俺たち妖怪にとってはどうにも愛おしく見えるんだ。


 ――衛も、何かを祈ったことはあるんだろうか。


 目の前に置かれた折り鶴を眺めて、俺はそんなことを思っていた。




「まひる、どうかしたかい?」


「いや、別に。何でもねえよ」

 俺はテーブルの上の鶴をつまみ上げた。


「みゆ、この折り鶴もらってもいいか?」

「いいよー」

 みゆはまた別の一羽を折り始めている。


 俺は手の中の紙くずと、みゆの作った折り鶴を見比べてみた。


 濡れて折れ曲がって、ちょっと破れた紙くず。

 確かに、広げる前の折り鶴に近い形をしている。


「なあ、衛」

「何だい?」


「鶴の鳴き声って、聞いたことあるか?」

 ふと思いついた。あのラッパみたいな音は、鶴の鳴き声だったんじゃないかって。


 衛はにこりと笑った。

「実際に聞くとびっくりするよ。『鶴の一声』なんていうけれど、まさにそれだね」

「どういうことだよ」


「鶴の鳴き声というのは、他の鳥に比べてかなり大きいんだ。喉の筋肉が発達しているためだと言われているね。雪景色の中に響く鶴の声は迫力があるよ。思わず手を止めて、息を飲んで見入ってしまったくらいにね」


「どんな感じの声なんだ?」

「そうだな、かなり強く、パァンと響く声だね」


「ラッパの音みたい、とか?」

「ラッパか……そう言われればそんな感じかもしれない」


 鳴いた折り鶴と、プールの怪異、か。


「ったく、面倒なこった」


 俺がそうぼやくと、衛とみゆが顔を見合わせて笑った。

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