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ナンカヨウカイ~化け猫まひるの便利屋生活~  作者: スギヨシ ハチ
「折る」
5/26

5 夕飯

 俺が家に着くころには、太陽もすっかり山影に隠れてしまっていた。


 7階建てのマンションの、5階の角部屋。

 カギをあけ、少し重いドアをぐいっと引く。


「あっ! おかえり、まひるくん!」


 廊下の向こうからひょっこり顔を出したのは、小学2年生の加賀谷みゆ。

 ひよこのマークのエプロンをつけて、手にはおたまを握っている。


「なんだ、みゆ。今日はお前が料理当番?」

「うん。パパ、徹夜明けだからヘロヘロなんだって。だから交代したの」


「そっか。なあ、今日カレー?」

「うん! もうちょっとでできるからねー」


 そう言って、みゆは奥へとひっこんでしまった。

 俺は靴を脱ぐと、うまそうなにおいに誘われるまま、リビングへ向かった。




「まひる、おかえり」


 ぼさぼさの頭でふらふらと起きてきたのが、加賀谷 まもる

 みゆの父親で、俺の親友だ。


 年を取らない妖怪の俺と、人間の子供だった衛。

 なぜだか妙に馬が合って、もう30年近い付き合いになる。


 出会った頃はまだあどけないガキだったのに、今やすっかりヒゲ面のおっさんになっちまった。

 今は大学で民俗学を教えているとか。


「はい、パパの分」

「おー、おいしそうだね。ありがとう、みゆ」


 丸メガネの奥の目が、きゅっと嬉しそうに細められる。

 あの目だけは、ずっと昔のままだ。


「どうかしたの? まひるくん、食べようよ」

「……ああ、ありがと」


 俺はみゆからスプーンを受け取ると、いただきますと声を合わせた。




「……でね、新しい先生はちょっとおとなしいの」

「そうかー。仲良くしてあげるんだよ」

「うん!」


 俺がぼーっとしている間、加賀谷親子は楽しそうに話している。


「まひる、どうかしたかい?」

 急に衛がそう言った。


「え、なんで?」

「なんだか疲れているようだし、目が赤いよ」


「ああ、今日プールで溺れて……」


 しばしの沈黙。しまった、と思ったときにはもう遅かった。


「だーっはっはっは! そうか、まひるは泳げないのか!」


 衛が涙を流して笑い転げている。


「なんだよ、そんなに笑うことじゃねーだろ」

「いやいや、悪い。ただ、いつも飄々としてるお前に、そんなに苦手なものがあるのかと思うと、なんだかおかしくてさ……ッ、くくっ!」


 あー、くっそ!


「まひるくん、みゆが教えてあげよっか?」

「いい。俺、絶対もうプールなんか行かない」


「まあまあ、拗ねなさんなって。そもそも、どうしてプールに? 所長さんの命令かい?」

「そ」


 それで思い出した。

 俺はポケットから例の紙くずを取り出す。


「なあ、これ何だと思う?」


 俺の手のひらの上。

 濡れて折れ曲がった紙を、ふたりはじっと睨んでいる。


 ふたりとも、決して手を触れない。

 これが危ないものかもしれないと、ちゃんと分かっているのだ。


「文字は何も書かれていないようだね。材質からすると、すこし繊維の荒い……和紙のようだが」

 メガネを上げつつ、衛が言う。


 みゆがはっと目を輝かせた。


「ねえ、これ、折り紙じゃない?」

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