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ナンカヨウカイ~化け猫まひるの便利屋生活~  作者: スギヨシ ハチ
「折る」
3/26

3 怪異発生

 逃げるように事務所を飛び出した、その1時間後。

 俺は、プールサイドにぼんやりと座っていた。


 今回の仕事は、ここ『花咲プールアイランド』の監視員だ。


 プールといえば「長方形の水たまり」という俺の認識は、いつの間にか古臭いものへと変わっていたようだった。


 ドーナツ形のプールではぐるぐると水がめぐっているし、海みたいに波が立っているプールもある。

 おまけにジェットコースターよろしく、信じられない高さからうねうねと続く滑り台まである。


 そして一番驚いたのは、それらがすべて屋内にあることだった。

『真夏の強い日差しを遮ることができる』のがこのプールのウリなんだとか。


「だったら水遊びなんかしてないで、家で寝てりゃいいのになー」


「ちょっと、まひるっち! ふてくされてないで、真面目に仕事してよね」

「べつにふてくされてませんー」


「嘘じゃん! もー、これでクーラー直るんだから、気を取り直してしっかり見張っててよ」

「分かってますぅ」


 それにしても妙だ。渡をからかっている間も、俺はずっと違和感を覚えていた。


「おい、渡。今って世間は夏休みだよな」

「そうだよー。小学生から大学生まで、絶賛夏休み中」


「その割にココ、ずいぶん人が少なくねえか?」


「ホントだ、確かにそうだね。この時期は毎年人でいっぱいのはずなんだけど」

 渡も首をかしげている。


「……なあ、所長から聞いてる依頼って、タダの監視員のバイトなのか?」

「うん。それ以外は何も聞いてないよ」


「やっぱり変だよな。そもそも、何で俺がつき合わされなきゃなんないわけ?」

「はいはい、文句言ってないで仕事仕事!」


「仕事ったって……俺、泳げねーんだけど」


「えっ?!」

「えっ、じゃねーよ」


「いやいやいや、マジで?」

「俺は猫だぞ! 泳げるわけねーだろ!」 


 渡はすっと顔を背けた。が、しっかり肩が笑っている。

 この野郎!


「まあまあ、心配しなさんな。この渡クンがいる限り、水辺の平和は約束されたようなものだよ」


「おー、よろしくな。俺はここに座っててやるから、お前はしっかり働けよ」

「おっけぃ! まかせといて」


 奴は意気揚々と歩き出した。




 家族連れが3組と、カップルが6組。

 あとは学生のグループがいるくらい。


 貸し切り状態だけあって、来場者もみんなのんびり過ごしているようだ。


 俺は、海辺みたいに波の立つプールのそばで、監視台に座ってボケーっとしていた。


 なんでも、プールは夜まで営業しているらしい。

 やれやれ、あと何時間くらい座ってれば終わるだろうか。


 俺がうーんと伸びをした、その時だった。



 ―――クァォン!



 突然、大きな音が聞こえた。


 ぬるい空気の中で、パンと張ったような響き。

 ラッパの音? なんかそんな感じだ。


 でも、一体どこから?

 客も皆、きょろきょろしている。俺もあたりを見渡した。

 

「きゃあああ!」


 突然、派手な水着の女が叫んだ。

 見開かれたその目は、俺の目線から少し外れている。


 俺は女の視線を追って、後ろを振り返った。


「は?」


 バカでかい水の塊が、もう俺の目の前まで迫っていた。




 音か衝撃かわからないものが俺を押さえつけ、押し流していく。


 俺は水にまかれ、上か下かわからない方向にめちゃくちゃに振り回される。

 体を動かそうにも、水の塊が全身を押しつぶして動けないし、もう息がもたない……!



 ――クゥァン!



 目の前で、またあの音がした。


 俺は苦しまぎれに手を伸ばす。

 その指先が、水とは違う何かに触れた。


(なんだ、これ)


 けれど次の瞬間、ものすごい水圧が俺の胸にぶつかってきた。

 思わず肺の空気を吐き出してしまう。息が吸えず、俺はがぼがぼと水を飲み込むしかなかった。


(もう、だめか)


 最後の抵抗とばかりに、俺は指先に触れたものにツメを立て、鷲掴みにした。


 ――水圧が消えた。


 けれど俺の意識も、そこで途切れてしまったのだった。

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