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ナンカヨウカイ~化け猫まひるの便利屋生活~  作者: スギヨシ ハチ
「折る」
1/26

1 緋山まひる

 やれやれ、今日も暑くなりそうだ。


 ショッピングモールの屋上。立ち入り禁止なので、当然誰も入ってこない。

 俺は柵に体を預けて、早朝の町を見下ろしていた。


 バサ、と羽音がして、カラスが一羽、舞い降りて来る。


「おはようございます、赤虎の旦那」

 そう言いながら、カラスは俺の側へと降り立った。

「よう、クロノスケ」

 俺がそう声をかけると、奴はカアと一声鳴いた。


「今日もまた暑くなるんですかね。あっしら黒い連中は、ことさらお天道様に嫌われてるもんで、そろそろ本当に焦げちまいそうですよ」


 クロノスケはうんざりした顔で、ぷるぷると身震いしてみせた。

 けれど、その翼はコゲるどころか深い闇色に輝いて、夜にかかった虹そっくりの艶まで浮かんでいる。


 あんな毛並みになれるなら、俺は太陽に嫌われたっていいんだけどな。

 ないものねだりだろうか。そんな俺の髪は、レンガみたいな赤茶色。


「ところで、旦那がこんな時間にココにいらっしゃるってことは、今日はお仕事でござんすか?」

「そ。所長から呼び出し」

 俺はため息をひとつついてから、仕方なく体を起こした。


 町を見下ろすと、アスファルトの上をガキどもが駆けていく。

 もうすぐラジオ体操が始まる時間なんだろう。これももう、見慣れた光景だ。


「さて、俺もそろそろ行くとしようかね」

 ぼやきながら柵に飛び乗ると、クロノスケが、カア、と一声鳴いた。

「行ってらっしゃいまし。お気をつけて」


「おう、またな」

 俺は柵の外へと飛び降りた。




 景色はあっという間に遠ざかる。

 耳元で風がごうごうと鳴る。落ちる。落ちていく。加速する体。アスファルトが迫る……!


 そして地面に激突する、その直前。


 ――トプン


 一足先に落ちていた自分の影へと、俺の体は吸い込まれた。




 子供たちは驚いた様子もなく、そのまま通り過ぎていく。

 ま、当然か。俺の姿が見えてないんだもんな。


 俺は再び、ずるりと影から這い出す。


 その時にはもう、俺は人の姿をしていない。

 どこからどう見ても、ただの野良猫だ。


 レンガ色の虎猫へと姿を変えた俺は、一度ぶるっと身震いをしてから歩きだした。


 遅刻なんかしたら、どんな目に合うかわからない。

 俺はビルの隙間に体をすべりこませた。




 さて。

 事務所に着く前に、簡単に自己紹介をしておこう。


 俺の名は緋山ひやままひる。


 クロノスケからは「赤虎」なんて呼ばれている。

 正真正銘の化け猫だ。


 本性は身の丈4メートルほどの赤毛の虎猫。

 ふだんはどちらかというと小柄な、ハタチ前後の男の姿をしている。


 言っておくが、これでも300年ぐらい生きてるんだからな。


 そんで、俺が今向かっているのが、便利屋『ナンカヨウカイ』。

 迷い犬の捜索から買い物代行、荷物運びなど、依頼は多岐にわたる。


 くだらない名前から想像がつくと思うが、ここの社員はほぼ全員妖怪だ。

 ひとりだけ人間がいるけど――まあそいつも妖怪みたいなモンだ。


 え? なんで妖怪が働いてるのかって?

 俺らだって、できたら働きたくねーけどさ。


 でもさ、『これは絶対に勝てねえな』ってくらいチカラに差があるヤツに

「俺様に喰われるか、社員として働くか選ばせてやる。どっちがいい?」

 って聞かれたら、オマエどうするよ?


 ……働くしかないだろ?


 そんでもって、俺の職場がここ。

 この路地裏の、薄っぺらい雑居ビルの4階。


 あ、窓が開いてる。まだクーラー直ってねえのかな。


 俺は猫の姿のまま、狭いビル壁をポンポーンとジャンプして、開けっ放しの窓まで上っていった。

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