作戦と潜入と
雲深く、星明かりさえ届かない夜。
俺達は事前の作戦通りに暗殺対象の屋敷へと忍び込んでいた。
二人一組となっての侵入。
俺の相棒として宛がわれたのは、幼なじみのクイだ。
他の仲間も二人ずつ組んで、
この屋敷のどこかにいる目標を探すことになっている。
俺たちのチームが指示されたのは、
庭からの侵入だった。
庭はただでさえ侵入に厳しい見通しの良い空間だ。
さらには日が沈むとともに警報装置が動き始め、
番犬代わりの魔獣も解き放たれる。
普通の神経であれば、
ここから侵入しようとなんて絶対に思わないだろう。
『だからこそ、侵入にもってこいだ』
作戦会議の場で、夜狼と呼ばれた男は皮肉げに笑った。
『定期的に術を走らせるだけの機器も、飼い慣らされた獣も「ザル」そのものだ。
見た目を立派にしてもそれぞれ穴が空いたままの通路だと思え。
むしろ相手の警戒を逸らしてくれる味方だ。
人間相手よりよほど容易い』
こうした作戦を聞いて、
俺は確かにこの男が有能なのだろうと感じた。
俺たちがもし無事に通過できれば、屋敷の無防備な中枢に直接入れるため、この作戦をかなり優位に進められる。
それに加えて、おそらく俺たちが見つかって殺されたりしても構わないのだ。
むしろ騒ぎになれば囮として都合が良いと思っているのだろう。
どのみち拒否権はない。
できるなら任務からも施設からも逃げられないかも検討したが、
今回の任務にミニが加えられているのは、人質としての意味もあるのだろうと思い当たって、諦めた。
俺にできるのは、
クイとともに庭からの侵入に挑戦する事だ。
「行こう」
クイには要所に張られている探知術式の相手を任せ、
俺は光、音、温度、匂い、魔力など、
こちらの手がかりになる要素を魔術の並列実行で隠蔽する。
普通の魔術は一度に一つしか使えないが、
前世の記憶を元に「複数の魔術を呼び出す」という魔術を作り、
いつかこの施設を抜け出す時に使えないかと、隠れて制御の訓練をしていたのだ。
本来なら切り札として隠しておきたかったのだが、
俺かクイか、どちらかが失敗すれば、
自分の身長ほどもある腹の空いた魔獣の群れの中で餌になるしかない状況だ。
隠しきるというのは選択はできなかった。
魔獣や警報装置の隙間を縫うように駆け抜け、
屋敷の廊下を薄暗い魔導灯の並ぶ廊下の影に滑り込む。
なんとか身を隠せたときには、
大きなため息をついて、
らしくもなく座り込みそうになったほどの緊張感だった。