司祭と騎士剣術と
「朝、か」
窓の向こうの、そのまた向こう。
わずかに白く染まり始めた空を見て、
二度寝を諦めて起き上がる。
隣のベッドを見れば、
子供らしい豪快な寝相で毛布を蹴り飛ばしたらしいミニがお腹を出して眠っていて。
「ほら、風邪引くぞ」
起こさない程度の声で叱ってから、
服を直して毛布を被せ直してやる。
そろそろ起床の鐘が鳴る時間だが、
後少しだけ、この現実を忘れて眠れるように。
「・・・おにいー」
「起きて、は、いないか」
どうやら夢の中でも俺と一緒らしい。
恥ずかしいような、気になるような。
でも、あいにく夢の中を覗くような魔法は知らないし、
兄と呼んでくれるこの子にそんな真似はしちゃいけないだろう。
ミニの頭をなでてから、部屋を出る。
「ーーっ、さむっ」
思わず自分の体を抱き締めるように縮こまり、
冷えきった空気の廊下を歩く。
普段のように、気配を消したまま。
すると中庭の方から空気を切る音が聞こえて、
誰がいるのかと覗きこみ、少し驚いた。
普段の司祭服を脱ぎ捨て、上半身を露にしたあの男が、
剣を手に、汗を浮かべて鍛練していたのだ。
俺たちが普段の訓練で教えられる、
暗殺や不意討ち用の「殺せれば殺されてもよい」ような邪道の剣ではない。
魂を研ぎ澄ませるような、
一刀毎に真っ直ぐな熱意のこもった剣。
子供をいたぶり、殺し合わせ、
歪んだ教育で「神の遣い(あんさつしゃ)」に育てようとする姿とはまるで違う、
清廉無私の騎士のような剣だった。
「覗くだけか?」
そうして、自分の訓練を終えたのだろう。
汗を拭いて司祭服を着直した男が、
いつも通りの温度を持たない視線を俺に向ける。
騎士のような剣術の持ち主だが、
同時にここの子供の監視と教育を担う暗殺者でもある。
俺が覗きこむ前から、俺の存在自体には気付いていたのだろう。
問題は、俺に覗かせて何を期待していたのか。
「・・・そろそろ鐘を鳴らす。朝食に遅れるな」
ただ、その答えを得られるより前に、
司祭は俺に背を向けて鐘楼の方へと立ち去ってしまった。