夢と執事と
反転する。
反転する。
ココは天国であり、地獄そのものだ。
天頂には太陽が暗く輝いて、
大地は蠢きながら断末魔を叫び続け、
空を泳ぐ魚からは「地面に向かって立ち上る」棟が伸びて、
俺はその中の一つから、歪んだ世界を眺めている。
これは夢だ。
現実のように見えるほど克明だが、
俺は何度となく「眠る」事でここに来て、
ここから「目覚めて」施設に戻る。
だから夢だ。
「おはようございます、あるじさま」
ニタリと、俺の現実を反転させるような言葉で、
いつの間にか隣に立っていた執事服の女が嘲笑した。
「すまないが、夢の中で目が覚めた時の挨拶は知らないんだ」
「つれないお方。我があるじさま。支配者ごときのくせに、無礼でございますね」
反転する。矛盾する。
何一つとして正気らしいものがない。
見ているだけで狂気に陥りそうな空間と、
俺を主と呼びながら見下す女。
普段なら、
この後はもう女も話しかけてこないので、
正しく目が覚めるまで待つだけ。
繰り返し見るおかしな夢。
それだけのはずだった。
ただ、どうやら今日は少し違うらしい。
「ーーそうそう、あるじさま」
女が再び話しかけてくる。
「通算一万回目の無意味な死亡、おめでとうございます」
それはいったい、どこからわいてきた数字なのか。
一瞬だけ、この八年でそれだけ「死んで」いたのかもしれないと思ったが、
八年と言えばだいたい三千日くらいだ。
さすがにその数には届いていないだろう。
まあ、とはいえ、
それに近い回数死んでいるのも間違いない。
「そろそろ諦めて楽になりましょう、なんて話か? なら、お断りだ」
「さすが◼️◼️◼️◼️◼️と讃えられた◼️◼️。そのしぶとさには心底、哀れを感じます」
女の言葉の一部が、何かによって伏せられる。
音として聞こえる。
ただ、意味だけがそこから奪われて届かない。
「とはいえ、あるじさまでもこのままでは埒が明かない事は理解していただけるでしょう」
「・・・・・・」
「そこで、取引の提案です。私があなたに一つの力を授けます」
普段の夢とは、明らかに違う展開。
ただの夢であるはずなのに、
気がつけば俺はその提案に食いついていた。
「どんな力だ」
「そうですね、名前を付けるならーー」
ああ、確かにそれは魅力的なチカラだ。
それがあれば、きっと。