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闇と神父と

注意、暴力描写があります

魔法の気配を感知したという孤児院の大人に拾われて、あれから8年。

普通なら命の危機を脱してひと安心と言えるだろうが、

俺は今でも、相変わらず命の危機の中にいた。


闇の中から、

艶消しの黒に塗られた刃が俺の首元に迫る。

振るってくる相手の動きに躊躇いはない。

このままでいれば、間違いなく首が飛ぶ一撃だ。


「はっ!」


その進撃に沿わせるように、構えていたナイフを当てて攻撃を流す。

金属のぶつかる音と共に火花が散る。


火花のお陰でわずかに見えた相手の姿は、

俺と同じくらいの年齢の少女だ。


「わっ、きゃっ」


渾身の一撃を避けられて、彼女の上体が泳ぐ。


その隙を見逃す俺ではない。

ナイフを離して相手の腕を掴み、

勢いを加速させて腹部に膝を叩き込む。


彼女の体から押し出される、言葉にできない音。

悲鳴すら上げられずに、その体が崩れ落ちる。


「・・・ちょっと、やり過ぎたか?」


呟いた俺の言葉に応えたのは、

いつの間にか近寄っていた別の影による攻撃だった。

相手を無力化して気が緩んでいた俺にとって、

本来ならば避けられない一撃。

それはやはり艶消しされたナイフであり、

俺の背後から腰に突き刺さって、

腹部を貫かれてから気付くほど静かな一撃だった。


しかし

【◼️◼️◼️◼️による運命の干渉。

 ーー成功しました】

どこからともなく声が響いて、わずかに時間が巻き戻る。


目の前で再び少女が崩れ落ち、

本来ならばそこで一息ついていた俺は、

しかし今度こそ気を抜かずに気配を探り、

タイミングを合わせて身を伏せながら足払いする。


「え、まさかっ?!」


狙いは悪くなかったらしい。

俺よりもさらに小さい別の幼女が

全身を使って刺しに飛び込んできていた。


とはいえ、その体を受け止めてあげるわけにはいかない。

足をとられたその小さな体が闇の向こうへ飛び込んで、

壁に当たったような大きな音を立てる。


よっぽど痛かったのだろう。

そのまま泣き出した声が耳に響いて、胸が苦しくなる。


「・・・・・・」


闇の向こうから感じるのは、

俺に対する無言の圧力。

終わりのつもりかと。

そのナイフを使えと。


つまりそれは、この子達を殺せと言う命令だ。

ただ、俺はそれに従うことはできない。


カランと、音を立ててナイフを落とす。


「全員の無力化が完了した。戦えるやつはいないはずだ」

「・・・よかろう、そこまでだ」


相手の声に合わせて魔導灯に魔力が流され、光が部屋を照らし、

司祭の服を着た男が部屋の扉を開けて入ってくる。


俺の周辺には先程の二人だけでなく、何人もの子供が横たわり、

泣いていたり苦痛に呻いていたりする。


こんな「命の奪い合い(くんれん)」を強制したのが、

他ならぬこの司祭だ。


「余裕だったようだな、1089」


1089。

男の8歳の9番目の子。

それがここでの俺の名前になっている。


「何度も死にかけました」


俺の言葉に嘘はない。

事実として、あの「声」の助けがなければ、

今日だけで三度は死んでいたはずだ。


「だが、お前は誰一人として殺さないように気遣っていた。違うか?」

「そんなことは・・・っ!!」


言い訳を口にしようとした瞬間、

俺は神父の履いていたブーツで蹴り飛ばされていた。


「がっ、いっ、っ」


一度では済まない。

意識を失わないよう、

無駄に傷を残さないよう、

丁寧に痛みだけを残すように何度も蹴られる。


蹴ってくるのが他の子供なら、

うまく衝撃を逃がして痛みを減らすことも出来るだろう。

ただ、この神父にはそんな小細工なんて通用しない。


「私の目を、ごまかせると、思ったのか?」

「すみません、っ、すみません、」


俺が謝ることもできなくなるまで、

体に「教え」を叩き込まれる。


それからようやく、

神父は思い出したように他の子供に歩みより、

聖句を唱えて治癒魔法をかけ始める。


「主よ、我らが父よ、この者達を哀れみたまえ」


指先ひとつ動かせなくなった体の痛みに耐えながら、

心の中でそっと呟く。

その「主」のために、俺たちは命の奪い合いをさせられているのにと。

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