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嵐と別れと

不定期で書きます

初心者ですが、応援してもらえたら嬉しいです。

町を揺らすような風が吹き荒れて、

雨音が石畳を叩いて滝のような音を立てるほど、嵐の夜。

それはまるで世界全てが怒り狂い、

地上をまっさらに洗い流そうとしているかのようだった。


こんな天気だ。

普通なら大の男でも家の中で大人しくしているだろう。

ましてや、未だに幼さの残るような少女であれば、なおさら。


けれども、この人には今夜しかなかった。

ここ数年で一番の大嵐である「龍が鳴く夜」でなければ、

この人の試みは失敗していただろう。


それは「誘拐」だ。

誘拐されているのは他でもない、俺自身。

そして、俺を誘拐したこの少女は、

他ならぬ俺を生んだ母だ。


「だぁー」


俺が転生して、つまり生まれてからまだ一月。

分かったことは多くない。

ただ、ひとつ確実なのは、

自分が何度も殺されかけているという事だ。


取り上げてくれた産婆がその手でこの首を絞めてきた。

あやしてくれるはずのメイドが窓から落とそうとした。

忍び込んできた暗殺者に刃を振るわれた。

その度に誰かーー主に、この少女の騎士らしき人ーーが助けてくれた。


今はまだ生きている。

今は、まだ。

でも、俺が生きているだけで都合の悪い人間にとって、

それは出来るだけ早く「昔」の事にしたいはずだ。


このままでは、俺の未来なんてない。


俺は彼女の被るマントの中で雨風に守られながら、

その険しい表情をじっと見上げていた。

そんな俺の不安に気づいたのか、

彼女は精一杯笑って見せる。


「大丈夫だからね」


まっすぐに夜の闇を睨み、進む。

その足取りは頼りなく、風にあおられ、ふらついている。

それでも、迷いはない。


「・・・ユリアン、あなたには罪なんてない」


もしできるなら、

懺悔するように呟く彼女に、

君も被害者のはずだと伝えたかった。


詳しい事情なんて分からない。

ただ、生まれたばかりの子供を暗殺しようとする連中と、

我が子を守るために嵐の夜へ飛び込む母親だ。

どちらが正義かなんて、比べるまでもない。


しかしそれでも、正義は弱者を守らない。

お互いに守る力の足りない俺たちは、離れるしかない。


「ごめんね。。。」


目的の場所についたのだろう。


「ごめんなさい。。。」


どこからか歌が聞こえた。

子供の声が多い、聖歌のような音楽。


生まれて一月。

たとえまだ周囲がよく分からなくても、

ここが孤児院のような場所だと感じた。


「あなたを守れない私を恨んでください」

「・・・だあ!」


そんなことは言うなと、

慰めるように手を伸ばし、その頬に触れる。

彼女の頬に伝う滴を拭うように。


「どうかあなたに神のご加護を。そして」


彼女が俺の頬にそっと唇を落として、

自分のかけていた首飾りを、

俺を包んでいた毛布に隠す。


その瞬間、

どこからか無機質な声が聞こえた。

それは、鼓膜を揺らさない、魂に届く言葉だ。


【アリア・クロイツ=ドラクリアは神授級魔法「◼️◼️◼️◼️」を発動

  ーー発動条件が成立していません、発動失敗


  ーー術者の寿命が捧げられました

  ーー発動条件が成立していません、発動失敗


  ーー術者の光が捧げられました

  ーー発動条件が成立していません、発動失敗


  ーー術者から七つの誓約(ゲッシュ)が捧げられました

  ーー発動条件が成立していません、発動失敗


  ーー神授遺物(アーティファクト)「◼️◼️◼️◼️◼️」による干渉

  ーー発動条件の一部を代替します

  ーー位階調整、聖者級魔法として発動できます

  ーー発動成功しました】


淡い光が俺の全身を温かく包み込み、

雨風や、おそらく様々なものから守ってくれるという安心感を与えてくれた。

少女はそれを確かめてから俺を扉の横にそっと下ろす。


「どうかこの世界を恨まないで。辛いことも苦しいこともあるけれど」


そして最後にもう一度、口付けを。


「私は、あなたを産めて幸せでした」


最後に見上た彼女の姿は、

一瞬の間に五十年も経ったかのように若さを失い、

真っ白に濁った瞳で笑っていた。


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