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私の前に人がいてそのさらに前に誰かがいて、そのもっと前に顔も知らないだれかがいる。後ろは振り向いてはいけない。前に進まなければならない。だから私はひたすら前だけを向いて歩いていく。私が進もうとする場所には必ずそこに誰かがいて私は人を押しのけ押しのけ進んでいる。進んでいるつもりである。私が前に進んでいると、そう判断しているのは私の前の人間が皆その方向を向いているからだ。私から見える人間が皆揃って向いているその方向に私も向かなければいけない。そこに疑問など持ってはいけない。ほかの方向を向くと云うことはそれすなはち前以外の方向を向くと云うことで、そうしてできた一瞬の隙を見逃してもらえるほどここは甘くないからだ。
そうして私は前に進む。幾日か前よりも幾年か前よりも、思えば周りの雰囲気が変わってきたような気がしないでもない。もう前を向くことに疑問を持っているものなどここにはいない。今更前以外の方向を向こうなどと云う考えを持っている人間はここにはいない。以前より格段に間違いなく皆前を向いて歩んでいく。気が付けば歩みは早くなっている。振り落とされることはきっとたやすいのだろう。
その先に何があるかなど考えてはいけない。ただ私たちはその先に半永久の安寧を求めて突き進むだけだ。もう前に進まなくてもいい、なにをしても許される、進みさえすればそう遠くない未来そこにたどり着くと信じて突き進むほかないのだ。立ち止まったものはみな愚か者なのだ。ついてこられなかったものはみな阿呆なのだ。ここに居る我々だけが、今ここでともに並び前を向いていまだ進み続けるものが選ばれ抜かれた素晴らしい人類の誉れなのだ。
そうでなければならない。そうでなければなんなのだというのだ。私は前を向くことしか知らない。他の方向など一切向いてこなかった。今更ほかの方向など向けるわけがないではないか。前に進み続けた私たちこそが正しいのだ。ほかのものは私たちを支えて当然なのだ。なぜなら私たちこそが正しいのだから。
私たちが前に進んで得たものにはもはやにはもうこういう使い道しか残されてはいなかった。安寧の土地はまだまだ見えない。(end)




