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Mathematician Observation  作者: 空色 歌音
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Question7


Question7



「貴方は今日も習い事をサボって何処に行ってたの!」


 聞きなれた怒声が僕に降り注ぐ。あぁ、ボクの母親の怒鳴り声だ。


「さては、森に入って本を読んでたのね…貸しなさいっ!」


 彼女はボクの抱えていた本を奪い取り、最初の数ページをパラパラと捲る。そしてため息。


「またこんな物語なんか読んで」


 そして彼女は本を暖炉の中に放り投げた。本は燃えたぎる赤い炎のなかで、炭へと化していった。

内気で吃音気味だったボクは何も言えなかった。自分の宝物が燃えるのを見ていることしか出来なかった。


「貴方にはナンセンス文学もファンタジーも読む資格はないの。空想の世界に浸ったって貴方はキャロル家の跡継ぎにはなれないの。役立たずの貴方は、家族のために少しは貢献しなさい」


 母親はボクを一睨みして部屋を出ていった。

 都市有数の名家であるボクの家系は身分の差が激しかった。本家であるキャロル家はその中の勝ち組で、一生働かなくても充分な資産がある。それに比べて他の親戚は、一般の家庭収入程くらいだった。親戚の一部はキャロル家の召使いとして雇っている。

 キャロル家唯一の後継者であボク僕は何もかもがダメだった。

「あの子はダメな子だから」

「実はキャロルさんの子供ではないのではないか」

「本家の血筋もここら辺で途切れるかもな」

 毎日耳を塞ぎたくなるような陰口から耐えていた。大好きな空想の世界に逃げたくても母親に連れ戻され、家出をしても行く宛がない。どうしようもない日々を送るしかなかった。


「家庭教師が来る前に予習しておかないと…」

「 コンコンッ」

「は、はいっ!」

「フレディ坊っちゃま、お時間よろしいでしょうか? 」

「マー君!!!」


 大きな扉からひょっこりと顔を出した人物を見て、僕は目を輝かせた。


「な、中に入って!あと1時間は誰も来ないから」

「かしこまりました」


 マー君は部屋に入り、扉を閉める。誰も入ってこないようにしっかりと施錠までしてくれる。

 すると彼は膝から崩れ落ちた。


「はぁーーーーーーーーーーーーーーつーかーれーたー」

「だだだ大丈夫?」

「今日もここまで来るの大変だったんだぜ?午後のスケジュール全部午前中に終わらせて……」


 座りにくそうなセレブソファの上であぐらをかき、彼は仕事の愚痴を吐き続ける。ボクと、同じ15歳なのに、朝から晩まで屋敷で働くのだからボクも愚痴のひとつやふたつ親身になって聞いてあげる。


「マー君はさ、ボクのこと恨んだりしないの?」

「そりゃ、従兄弟なのにこんなに貧富の差が激しいのはおかしいとは思ったことあるけど、フレディのことは一度も恨んだり、嫌ったりしたことないよ」


 マー君は白い歯を見せて笑う。この笑顔には偽りはない。彼は誤魔化したり、イタズラしたりするけど、ボクの前では隠し事は一切しない。


「それに、この家系はなんだっけ?サクリ…ファ」

「サクリファイス?」

「そうそれ!サクリファイスを嫌ってるし、皆俺がその一人だということ知ってるだろ?ホントだったら孤児院行きだけど、フレディが仲良くしてくれたからここで働かせてもらってる。お前には感謝しかないよ」


 感謝しかないのはこっちの方だ。出来損ないのボクと、仲良くしてくれて、こうやって仕事の合間を縫って遊びに来てくれている。彼がいなかったらボクは人間として生きていけなかっただろう。


「あ、あのね。ボクも少しは能力の練習したんだよ」

「あのおとぎの国みたいな部屋にするやつ?やってみせてよ」

「うん!いくよ……」


 こんな楽しい時間がいつまでもいつまでも続いたらいいのにと願っていた…。


ーーーーーーーーーーーー


 ある日、夜中に目を覚ますと部屋が紅く燃え上がっていた。ー火事だ。

 早く逃げなきゃと頭が警告を出すが、部屋中が火の海で逃げれる気がしなかった。まだ安全地帯に近かった窓際まで寄って勢いよく窓を開けた。

 助けを呼ぼうと庭を見渡すと、召使い達が集まっていた。両親の姿は見当たらない。まだ屋敷の中にいるのだろう。


「助けて!」


 召使い達に届く精一杯の声で叫んだ。彼らはこちらを冷たい目で見た。長年勤めてた初老の執事がなにか言っている。


『疫病神の家は燃えてしまえ』


 ボクにはそう言っているように思えた。それを見てボクは真後ろに迫る死を実感した。

 煙を吸ったせいか、視界がフラッシュバックしてボクはその場に倒れた。最後には燃え盛る炎が目の前に迫っていた。

「ん、うーん…」


 目が覚めると優しい木漏れ日が降り注いでいた。野鳥の可愛らしい鳴き声も聞こえる。花の香りが漂う心地の良い場所だった。

 あぁ、ボクは死んでしまったんだな。ここは死後の世界なんだ。


「フレディ!生きてたんだね」


 視界にマー君の顔がダイジェストに映り込む。

 慌てて起き上がると、互いに頭をぶつけてしまった。


「何でマー君が?あれ、もしかして一緒に死んだの?」

「なにそれ新しい妄言?

そ・れ・よ・り、間一髪で救出出来てよかったよ」


 マー君は火事の後の事を話してくれた。彼の能力で火事から別空間に移されたボクはそのまま、森の奥へ連れていかれたらしい。その後、屋敷は倒壊した。庭に避難した召使い達も一緒に火事に巻き込まれてしまったらしい。今回の生存者はボクとマー君だけらしい。


「これからどうするの?」

「んー、資産はいくらか持ってるけど長くは持たないだろうな。手当たり次第教会や役所を探って行くしかないかもね」


 これがボクと、マー君が『Secret』に入る前の忘れたくても忘れられない記憶である。


今回は過去編第1弾キャロル君&ホール君でした!

また本編のどこかで過去編だそうと思うので、よろしくお願いします

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