表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Mathematician Observation  作者: 空色 歌音
3/24

Question3

Question3



「…判定を下す。


『死罪』


 被告人には3日後に処刑を行う。以上」


 とある裁判が閉幕した瞬間であった。


 コツコツコツ…


 薄暗い廊下に足音が響く。


「…裁判長」


 ふと名前を呼ばれ、足音がピタリとやむ。

 先程まで足音を鳴らしていた青年はくるりと振り返り、目線の先にある人物を凝視する。


「貴様…裏切ったな」


 相手はさっきの裁判で死刑宣告をされた被告人だった。

 目は血走っており、震える両手でしっかりと短銃を持っている。


「俺は無罪になるために、貴様にどれくらいの大金を払ったと思ってるんだ!」


 声を荒げる被告人に若い裁判長はゴミを見るような目で睨んだあと、窓の外に視線をそらした。


「僕は金になんか興味がない。お前が大金を置いていったあと、アタッシュケースごと燃やしたよ。」

「なんだと…」

「大体、お前の罪は通り魔じみた連続窃盗殺人じゃないか。そんな貧乏人にあんな大金払えるはずがない。どうせ過去に強盗したときの資金だろ?

 そんな君のようなゴミ同然の紙切れ、誰が欲しがるんだ」

「貴様ぁぁぁぁぁぁあ!死ね死ね死ねぇ!!!」


 被告人は短銃のトリガーを引いて、4.5発ほど発砲した。

 しかし、裁判長の左胸に命中したものの、怪我ひとつなく貫通した。

『まるで、裁判長が架空の映像だったかのように』


「勘違いにもほどがあるだろ…死ぬのはお前だ。社会のゴミ」


 相手は更に発砲しようとしたが、いくらトリガーを引いてもなにも起こらない。


「な、何で…」


 彼の顔色が変わった。

 銃弾がなくなった事ではない。裁判長に向けていた銃口が本人の意思とは関係なく、手が勝手に動き、最終的には被告人の口の中に銃口が入っていた。


「なんだよこれ…」

「落ち着け人の姿をした社会のゴミ。

その銃の中身は空っぽだ。怖がる必要は微塵もない。」

「そ、そうか…へへっ、何もないなら怖くねぇな」


 疲れた笑みを浮かべて、被告人はゆっくりとトリガーを引いた。


タッーン


 乾いた音が響いた。大量の血液が床を紅く彩る。

 …罪人は膝から崩れ落ちた。


「あ、が…弾はもう入っていないはずなのに…うあぁ…」


 それだけを言い残し、彼はそれっきり動かなくなった…処刑完了。


「穢れた血による芸術作品はもう見飽きた。血液が乾かないうちに処分させておくか。」


 屍となった罪人を一蹴りして、裁判長は踵を返し、再び歩き始めた。


 ベーシェンス・ダ・フェルマー『代償:Final Sentence』


   

「今日は君に初の仕事をしてもらおうと思う」

「はい!頑張ります!」


 パスカルに渡された分厚い封筒を受け取ったガロアはやる気に満ちた明るい返事をする。


「此処では危険のリスクを減らすために、基本単独調査は行われない。今回は僕と一緒にやらせてもらうよ?」

「わかりました。今回の仕事は…」


 受け取った封筒から書類を何枚か取りだし、調査内容をある程度把握する。


「組織の調査ですか?えぇと、『ジャスティ・ジェノサイド』?」

「そう、この組織は政治の中ではちょっと名の知れた組織だよ。依頼主はある政治家の秘書だ。

 表向きは正義のヒーローを装っているが、裏では賄賂を手に入れているという噂を確かめてほしいということらしいよ」


 上司の話を聞きながら、書類に目を通した。構成員と思われる人物は名前のみリストにまとめられてはいるものの、組織の重要人物の写真は『No,Image』としか掲載されていない。SNSの初期アイコンにありそうな写真だ。名前も偽名の可能性が高い。


「あらかじめ、こちらの組織には『入会希望』という形で話を通してある。聞き出せるところまで聞き出すつもりだよ」

「わかりました。では準備が出来次第向かいましょう」


    

 ガロア達は自らの住む都市・デカダントのほぼ中心地にある裁判所に来ていた。


「本日はおいでいただき、誠にありがとうございます」


 裁判所前にて二人を待っていた『ジャスティ・ジェノサイドの事務員』と名乗る女性に案内されているところだ。事務員にしては、スーツをているわけではなく、どちらかと言えばメイドに近いような服装をしている。


「こちらのお部屋でお坊ちゃ…じゃなくて、会長がお待ちしております。私はお茶の用意がございますので、この辺で失礼いたします」


 女性は部屋の前まで案内すると、慌ただしく廊下の向こうへ消えてしまった。

 パスカルが部屋の扉をノックして、「失礼します」と扉を開けた。


「この度はお時間いただきありがとうございます。今回は新規入会についてご相談しに参りました」


 先程の女性と同じような口調で部屋に入っていく。ガロアもお辞儀だけしてあとに続く。

 応接室のソファーには読書を楽しむ先客がいた。恐らく、その人こそが組織の会長なのだろう。

 彼は本から顔をあげると柔らかい笑みを浮かべた。


「あぁ、よくぞ来てくださいました。僕が『ジャスティ・ジェノサイド』の会長、ベーシェンス・ダ・フェルマーです」

「ベーシェンス…久しぶりだね」

「お久しぶりですね、パスカル氏」


 フェルマーは立ち上がって、彼らに席を勧める。

 ソファーに腰かけた二人は早速フェルマーについて質問を始めた。


「あの、お二方は知り合いですか?」

「ちょっと前まで文通をしていたんだよ。週7のペースで」

「待ってください!頻繁すぎませんか?郵送追い付いてないでしょ!?ほぼメールやチャットの域ですよ!」


 ガロアが鋭いツッコミを入れている間にメイドがお茶とお菓子をおいていった。


「そろそろ本題に入らせてもらいますよ。今回は新規入会ということで、僕から直々にこの組織について説明させていただきます」


 ティーカップに注がれた紅茶を一口飲んで、フェルマーは真剣な顔つきで、二人と向き合った。


「この組織は『正義のヒーロー』とでも言っておきましょう。子供じみたテーマですけど、僕たちはこの退廃した都市の秩序を乱すものは徹底的に排除するつもりです。生憎、この都市は暴力・犯罪以外にも貧民街や非合法のカジノだって多く存在します。それを少しでも削減させるためにこの組織があるわけです。」

「なるほどねぇ…。

 ひとつ疑問があるんだけど、正義のヒーローである君はどのように犯罪者を排除するつもりだい?」

「何わかりきったことを!

もちろん…

…殺すんです」


 彼の口からこぼれたその一文にはとてつもない殺気が感じ取れた。

 ガロアはつまんでいたクッキーを床に落としたのも気づくことなく、ただ驚愕していた。


「罪深きものには罰を与えると言いたいんだね」

「あなたにはきっと理解できるはずです。今でもご自身の能力で拷問されてるんじゃないんですか?」

「御冗談を。今は警察から頼まれない限り一切してないよ」


 楽しそうな会話に見えるが、かつて文通をしていた二人の間には不穏な空気が流れていた。

 フェルマーはチラリとガロアの方を見た。


「君も気を付けた方がいいよ」

「はい?」

「最近ある事件が話題を呼んでてね、今でも犯人は失踪中なんだ。一般人の君もいつ新たな事件に巻き込まれるかわからない。君と僕は歳も近いようだし、是非連絡がとれるくらいは仲良くしておきたいんだ。」

「はぁ…」

「そろそろ時間だ。僕らはこの辺で失礼させてもらうよ。入会については検討させてもらう。」


 パスカルは荷物をもって立ち上がった。


ジャキッ


 彼のこめかみに銃口が、あてられた。視界の隅でフェルマーが無表情で拳銃を構えている姿があった。


「…なんの真似だい?」

「最近僕らの組織に関する宜しくない噂が出回っていましてね、変に嗅ぎまわっている奴を手当たり次第処分しているんです。言ったでしょう?この都市の秩序を乱すものは徹底的に排除するって。もちろん諜報活動をメインとする貴方達『Secret』も」

「お前、その銃を捨てろ」


 ガロアは隙あらば、銃を奪い取ってこちらのものにしようと様子をうかがっている。


「エヴァンス・ガロア。君はノーマークだと思ってたのかい?姿は見えないが、うちの部下があちらこちらで待機しているよ。一歩動くだけでこの部屋は銃撃戦となる。君も無事では済まない。」

「ぐっ…」


 脅しを入れられて、彼は動きを止めた。

 すると、パァンッと乾いた音が鳴った。パスカルが撃たれたと思われた。

しかし


「能力で弾丸に圧力をかけて、暴発させましたね」


 銃はフェルマーの手の中で粉々に破裂し、破片がその手に刺さり、血が滴っている。


「まぁ、元から撃つ気はなかったんですけども。

 僕は次の裁判があるので、お先に失礼します」


 彼はテーブルクロスの端を破りとると、手に巻き付けて、止血をした。

 そして部屋を去っていった。


「パスカルさん…」


 ガロアは不安な顔で自分の上司と顔を合わせる。相手も暴発の被害を軽く受けたようで、血が頬を伝って絨毯に紅い斑点模様を付ける。


「今回はかなり危険な仕事だったね。今後いつまた襲撃されるかわからない。くれぐれも気を付けていてくれよ」


 彼は袖で血を拭い、開いたままの扉を睨むことしか出来なかった。

キャラ紹介コーナー!

今回はそこそこ人気のあるオイラーさんです

【キャラプロフィール】

名前:レオーノス•オイラー

年齢:24歳

誕生日:4/15

身長:177cm

血液型:O

代償:『Q.E.D』


【数学者エピソード】

モデルとなった人物はあの偉大な『レオンハルト•オイラー』さん!

彼のエピソードは一度ググれば沢山出てきて大変でした。

スイスの数学者。18世紀を通じ、最も多彩な数学者で、近代解析学の創始者の一人。

彼のエピソードを一部抜粋しました。


・遺した業績の数は世界最多と言われ、論文執筆速度は一説によると800p/年!

・あまりにも多すぎて大抵の事は彼が既にやってる。その為後世の数学者はぬか喜び多数

・業績の多さで100年以上前から始まった「オイラー全集」はいまだ完結してない

・両目を失明して一言「気が散らなくなった」


 両目を失うと途端に論文を書くスピードが上がったというとんでもない超人です。オイラーさん強い…

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ