Question22
Question22
ガロアを解放した後、フェルマー達は何事もなかったかのように日々を過ごしていた。
「あーあー…マジ暇」
自室でお手製の爆弾に火薬を詰めていたメビウスは両手を上に挙げて大きく伸びをした。時刻はまだ昼だ。
「散歩でもするか」
メビウスは完成したばかりの小型爆弾をパーカーのポケットに入れた。
「おっ」
「あら」
彼が部屋を出て、裁判所内の廊下を歩いていると、突き当たりで同僚のメアリー•リチャードソンと鉢合わせた。
「これからお出かけかしら、アルディ?」
「りっちゃんもご機嫌なようで」
以前の大怪我から随分と体調も回復したようで、室内なのにご自慢の戦闘用傘を差している。
「その『りっちゃん』って呼び方やめてくださる?」
「『ヒステリック傘女』よりマシだろ」
「ちょっと待ちなさい。アンタ裏でメアリのことそう呼んでたの」
「そう怒らないでよ、りっちゃん」
「誰のせいよ!」
彼女は傘を閉じてはメビウスの顔に先端を向ける。空気砲の準備は完璧なようだ。
「きゃーこわーい誰か助けてー」
メビウスは表情を変えることもなく、両手を挙げ、棒読みで命乞いをする。
「…君たちは何をしているんだい」
通りがかりのフェルマーが呆れた顔で二人のやりとりを見ていた。今日は2人の屈強なボディーガードを付けている。
「おっ、フェルマーさん。お疲れ様っす」
「あぁ…君たちは昼間から戦争かい?」
「ただの挨拶ですよ、あ•い•さ•つ」
「ならいいけど」
彼はその場を離れようとする。
「今から仕事ですか?」
「いや、今から終わるところさ。あとは天罰を待つのみかな」
そう言ってフェルマーがメビウスにうっすらと笑顔を浮かべて見せた。
一瞬のうちにして、彼の両隣にいたボディーガード達の左胸から鮮血が舞う。屈強な体は床に倒れ、しばらく痙攣した後、ぱったりと動かなくなった。
「っさ、仕事は終わったよ」
「今回も派手にやりましたねぇ…」
「フェルマー様、処刑する場所も考えてくださる?普段使う場所が血生臭いのは嫌よ。血痕もひどいし」
「なんたらソーダできれいに消えるとは聞いたことあるよ。さて、お二人は仲良くデートかい?」
「「100%違いますね!!!」」
二人は声をそろえた。フェルマーはふふっと笑い声を漏らした。
「なんだ普通に仲良しじゃないか。ところで、僕も仕事が終わったからいまからどこかへ出掛けでもしようじゃないか」
「でもフェルマーさん血生臭いっすよ」
「消臭剤でも振りかけておけば大丈夫だろう」
ちょっと着替えてくるよ。と言い残し、フェルマーは自室へと戻っていった。
「せっかくだからメアリの買い物につきあってもらおうかしら」
リチャードソンは退屈そうに傘の先端でドスドスと転がった屍をつつく。メビウスもポケットに入れた爆弾を手の内で転がす。
「荷物持ちはごめんだぜ?」
「まさか。誰がアンタを連れて行くと言いました?自意識過剰もほどほどにしなさいよ」
「まったくだな」
再び二人の視線が火花を散らす。
二人の不穏な空気を紛らわすようにメビウスのポケットから携帯端末のバイブ音が鳴り、その振動でポケットの布地がかすかに震える。彼は端末を取り出し、慣れた手つきで画面の上で指を滑らせる。
「…ったく」
メビウスは小さく舌打ちをすると、端末をポケットにしまった。
「まぁ、俺はたったいま用事が出来たから先に行かせてもらうよ」
「ちょっと!」
リチャードソンの声なんて一切耳をかたむけることなく、彼は玄関の方向へと歩いて行った。
「なによもぅ…」
リチャードソンは不満そうにメビウスの背中を見送るだけだった。