Question21
Question21
「えっとぉ…弟さん?」
「自分が兄だ。弟はレオの方」
レオーノス・オイラーの兄を名乗るこの少年、リアノス・オイラーは不機嫌そうにガロアの発言を訂正する。
「はいはい、プロフィール公開すればいいのだろ?
リアノス・オイラー。26歳。身長はこれでも160近くはあるからな。以上!」
「はぁ…」
「頭が混乱中のガロア君のために!
うちの兄貴の下手くそな自己紹介はほったらかして、優秀な弟のオレが解説してあげよう!」
「はぁ…はぁ…?」
ガロアの頭の上のクエスチョンマークは増えるばかりだった。
「さっ、エヴァンス…ガロア君だっけ?お菓子どーぞー」
「えっ!?誰!?」
「それもあとで解説してもらうから」
おっほんとオイラーが咳払いをひとつする。
「この慎重の割には全然かわいくないオレの兄貴ことリアノス・オイラーはかつてある実験の被検体だったんだよ」
「ある実験…」
「まぁ、サクリファイスを人工的に作り出すとかいうお遊び的な実験さ」
「なにそれすごい」
「失敗だったけどね。
この世のサクリファイスたちのなかで天性の能力者は少ないからね。何かのトラウマ、自分の願いと直結したなんらかの拍子に開花するケースがほとんどさ」
ガロアもトラウマとなるものを探したが、『体力増幅』に値するような過去は特に心当たりはない。
「青年のトラウマはあれだろ。監獄生活?臭い飯にも飽きて、いかに肉体労働の負担を減らすか考えたのがパートタイムの体力増幅能力とか」
「ですから僕の囚人時代のことは記憶が抜けててよくわからないんですって!別に確証があるわけでもないし…」
「学園革命の主犯…」
騒がしい会話の中にチェルシーの意味深な台詞が紛れ込んだ。皆がその言葉に素早く反応し、彼女へ視線が集まる。
「チェルシーちゃん、今のどういうこと?」
「え!?あ、廃校に行ったときの資料にガロアさんそっくりの方がさっき言った通りの肩書きがあって…つい」
「革命未遂で退学ついでに収容所へ収監か…そして、学校の移転に合わせて事件を白紙に戻すために青年の存在を消す。筋は通っているな。けれど何の為にお主が革命なんぞ起こしたかだよ」
「んーそこの時系列からが曖昧なんですよね」
ガロアは腕を組み、頭をフル回転させて記憶のピースを拾い上げていく。
「そんなに真実が知りたければ、実際に会ってみれば?」
アドバイスを差し出したのはソファーでくつろいでいたホールだ。それに同意するようにキャロルも頷く。
「真実を知るってホール、誰に会うつもりだい?」
「パスカルさんもわかってるだろ。移転されたガロアにーさんの母校に行って潜入調査すんの。あとはにーさんの先輩とか同期とかに本人だと気づかれないように接触したらいい。うまくいけばの話だけどな」
「成る程…一理あるね」
パスカルはテーブルの上に置かれたメモ代わりの羊皮紙に何を書き始めた。
「僕たちがガロア君の通っていた学校に潜入して、その事件の調査をすれば良いんだよね。ガロア君自身は知り合いの誰かと会えたり出来ないかな?」
「元から友達は少ない方でしたし、今更会っても和解できるかは」
「青年よ、和解できている人物に心当たりあるだろう?」
意味深長にガロアを見つめるリアノスの視線からガロアはすぐに内容を理解した。
「ケプラー先輩…」
「彼なら何かしら知っているんじゃないか?まぁ、彼とは少しばかり年が離れているみたいだから、完全に肯定は出来ない」
「先輩とは2歳差なので、時期によれば何かしら事件との接点はあるかもしれません」
「じゃあ決まりだ。今から作戦会議だよ」
リアノスはニヒルに笑って見せた。
「今晩は遅くなるかもしれないね」
「ちょっと、兄貴。指揮を執るのはオレの役目なんですけどぉ~」
「馬鹿は早く寝ろ。寝る子は育つよ」
「頭の成長がって事かな!?」
オイラー兄妹のやりとりを皆が温かい目で見守っている。それを見てガロアは、いつも通りの風景だなぁと心底安心した。
「君の居場所はちゃんとここにあるんだねぇ」
彼の横に立ったピタゴラスは抱えていたお菓子をガロアに差し出す。
「はい。…えっと、どちら様でしょうか?」
「んーそれは会議の時に言わせてもらおうかな」
「そうですか」
他愛のない兄弟喧嘩、それを見守る同僚、お菓子をつまんで弾ませる友達同士の会話…いまこの部屋の空間は誰が見ても『平和』だと思える風景だといっても過言ではないだろう。
『たった一人』を除いては…。