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Mathematician Observation  作者: 空色 歌音
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Question19

Question19


 ゆったりとしたクラシック音楽が流れる喫茶店。そこのテーブル席の一角でガロアはコーヒーに映る自分を見ていた(決して彼がナルシストということを強調しているわけではない)。


「まさか、あの裁判所からガロア君がやってくるなんて思わなかったよ」


 彼の相席に座るケプラーはちょびりと紅茶を飲み、背もたれに身体を預ける。


「なんで急に僕を呼び出したんですか?」

「真剣な話をしてもいい?」


 ケプラーは内緒話をするようにテーブルに身体を少し乗り上げた。


「ここ、喫茶店の2階ですし、お客さんも僕たちだけなので、普通に話して頂いても結構ですよ」

「そう?…かなり肝が据わってるね」


 不思議そうな顔を浮かべ、座り直した。


「じゃあ、改めて言うけど、僕がガロア君を探してた理由がある」


 そう言って、ケプラーは一枚の新聞記事の切り抜きをテーブルに置いた。ガロアは見覚えがある。フェルマーの事について調べたときに見た監獄で起きた虐殺と脱獄犯についての記事だ。


「この記事…」

「見覚えあるかな?この殺人犯であり、脱獄犯の正体が仕事の調査で判明した」


 そこまで言うと、ケプラーは一つ深呼吸した。


「君だったんだよね。エヴァンス・ガロア君」

「そうですけど?」

「・・・うぇっ!?」


 何故かケプラーの方が驚いていた。ガロアはあっさりと自分の罪を認めたのだ。


「そこあっさり言っちゃうの!?もうちょっとシリアスな展開を期待してたのに!!」

「えっと、なんかすみません」

「謝らなくていいよ…」


 二人の間に微妙な空気が流れる少し間を空けてガロアは語りだした。


「実のところ僕が殺ったなんて自覚はないんです」

「え?」

「さっきある人と話していて、僕が『サクリファイス』だということが判明したんです。時間制限付きの戦闘力系の能力…。

 僕退学をする少し前から記憶が一時的に抜け落ちているような感覚があったんです。能力発動時していたときの僕の記憶はどうしてもないようなんです。だから、収監された期間中もその事件の日もあまり覚えては…」

「そうだったんだね」

「先輩が言ったように僕が犯罪者だと知った今、自首なら喜んでします」

「待ってガロア君!」

「相席よろしいか?」


 ケプラーが混乱しているなか、唐突に話しかけられた。

 二人が通路側を見ると、小柄な少年が立っていた。背はチェルシーとキャロルの中間くらいだ。


「え?席は他にも空いているけど?」


 ケプラーの言う通り、店内のお客は彼ら以外誰もいない。


「貴様に用はない」


 少年はケプラーの隣に座る。4人席だったため、空いていた2人分の席はそれぞれの荷物を置いていたのだが、少年はケプラーの分の荷物を床に放り投げた。


「ちょっと!?」

「大丈夫。壊れてはない」

「そういう問題じゃないんだけど…」


 彼は隣人の話は完全にスルーするようになった。目の前で起きていることをガロアは口を開けて見ている。


「ところで、先程の話だが、青年よ。お主は自主する必要はない」

「へ?」


 ガロアの開けていた口がさらに開く。

 そこに店員がチーズケーキを持ってきた。


「こちらご注文の当店特製のチーズケーキとなります」

「わぁー美味しそう。お姉さんありがとう」


 自分の前に届いた商品を見ると目を輝かせて、少年は少し高めのトーンで可愛らしくお礼を言う。それを聞いた店員は嬉しそうに顔を赤らめて去っていった。


「さて、いただこう」

「態度変わりすぎじゃない!?」


 彼の変わり様にケプラーは激しいツッコミを入れた。


「なんだ羽虫が五月蝿い」

「子供だからってなんでもかんでも許されると思うなよ」


 彼の怒りも右から左に聞き流す少年。


「話を戻すが、青年よ。君が犯した罪はない」

「でも確かに僕は…」

「確かにお主は人を殺した。しかし、学校も収容所もお主の存在を隠して、消した。お主が生きてたって何も問題はない。仲間だってその事を承知してるよ」

「『Secret』のみんなも…」

「そもそも『Secret』は人に言えない過去を生きてきた人たちの集まりだ。過去を変えることは出来ないのは誰でもわかっておる。彼奴らは彼奴らなりに更生する努力をしている。お主は自分の能力を使いこなせずに、人を殺めた。少しでも早く使いこなせるようにして、人を救う側になるとよい。」

「あの…とても素晴らしいお話なのですが、そんな今すぐに更生できるものなんですか!?」

「そこは自分に任せたまえ!なんとかするぞい」

「なんとか…」


 ケーキを完食した少年は立ち上がった。


「貴様もいきなり押し掛けてすまなかったな」

「別にいいよ」


 少年はケプラーに頭を下げると、ガロアの手を掴んで「早く行くよ」と催促した。


「自分も『Secret』の方に用事があるんだ。青年よ、一緒に行こうではないか」

「は、はい!?あ、ケプラー先輩。今日はなんかすみません」

「いやいや、また暇な時に誘うから。あと…」


 ケプラーが顔を上げたときには2人の姿はなかった。一人きりになった彼は脱力してテーブルに突っ伏す。


「はぁ~ネーター先輩に何て報告しよ…」


 溜め息をつく彼の元に先程の店員がおずおずとやってきて、伝票を差し出した。


「?何ですかこれ?」

「あ、あの、さっきケーキを食べてたお坊っちゃんがお会計はまだテーブルにいるお兄ちゃんが払っておくからと…」

「あ、あはは…」


 ケプラーは笑い出す。店員は不安そうにかれを見つめる。


「やっぱあの子嫌い!!」

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