Question18
Question18
「ってて…マジで死ぬかと思ったわ」
「一時心肺停止状態だったけどね」
Secret本拠地では皆がホールを囲ってやんややんやとあたふためいていた。
「本当に大変でしたわね。私という医療系能力者がいなければ、みなさんでお墓参りでしたわね」
「まぁ、命の危険に晒させたのシスターちゃんが主な原因だけどね!?」
「あらあら、寝言は寝て言ってくださいな」
「こっちも大変だったんだから喧嘩はよしてくれよ」
「パスカルは黙ってて!」
「パスカル様は口を慎んでくださいまし!」
大人たちのしょうもない口喧嘩にホールはソファーベッドに横たわり、ヘッドホンで耳を塞ぐ。キャロルは彼のそばから離れようとはせず、静かに見守っている。
「そういえば、ガロアにーさんはどうするんだよ…」
「んおぅ…そうだったそうだった。シスターちゃん、この戦いは生足見せてくれたら君の勝利としよう」
「どういうつもりでいってるんですの!?この足フェチ!」
「ど、う、す、る、ん、だ、よ!」
「まぁすぐに帰ってくるさ。フェルマー君は結構な飽き性だから」
「問題は、彼が帰ってきてどう対応するかだよね」
「パスカルの言う通り」
オイラーは腕を組み深く頷いて、同意を示す。
「おや、久しぶりに帰ってきたら、みんなして悩みごとかね」
「そうなんだよね~ってピタゴラスさん!?」
オイラーは顔を上げ、いかにも驚いたようなマヌケな表情をした。
「ふらっとどこかへ出掛けてから戻ってきて…今回は半年間何してましたの?」
「ちょっと東洋の方へ行ってきたのだよ。ほら、ちびっこ達にお土産。」
ピタゴラスと呼ばれる男はデパートでよく見られる紙袋を掲げた。それをみたキャロルは「お土産…」と呟き、目を輝かせた。ホールは先程からふて寝をしている。
「というかピタゴラスさん。何故このタイミングで戻ってくるんすか?」
「君のお兄さんからの情報で、新しい子が入ったらしいから顔見せようと思って」
「兄貴かよー」
顔を手で覆い、嘆くオイラー。
「まぁまぁ…そろそろ彼にも新人と会わせてあげたら?」
「兄貴の家いつも暗いし、照明はブルーライトばかりで目に悪いぞよ」
「まさかまた喧嘩してる?」
「んぐっ!」
図星だ。
「この間仲直りしたかと思えばまたですの?今度は何が原因?」
「兄貴が悪いんだよ!俺の持ってきた写真集を真顔でシュレッダーかけたし!イラついて『牛乳飲んでも身長は伸びないんだからな!』って言ったら勘当された。」
「子供かよ!!!」
24歳と26歳による喧嘩とは思えないクオリティの低さにさすがのホールも耐えきれなくなり、ツッコんだ。
「流石だね。あと、カルダノちゃんは…」
「お待たせしました。お茶を持ってきました」
タイミングよく、チェルシーはお湯の入ったポットと人数分のティーカップを持ってきた。
「あ、先生。いらっしゃっい!?」
チェルシーはソファの横でしゃがんでいたキャロルの服の裾で足を滑らせた。ポットとティーカップを宙へ舞い上がる。
「パスカル君、ちょっとこっちに」
ピタゴラスが手招きをした。が、パスカル本人はメルセンヌとオイラーの喧嘩の仲裁で精一杯であり、気づくようすはない。
「やっぱりなんでもない」
手遅れだった。四方八方から陶器の割れる音が鳴り、ポットから溢れ、容器を失った熱湯がパスカルに降り注いだ。
「…」
しばしの沈黙が続いた。
「…ひ」
沈黙を破ったのはパスカルだった。
「久しぶりに僕が圧力でおとなしくさせてやろうか?」
いつもの優しい笑顔を浮かべるも、目はハイライトを失っていた。皆恐怖で顔をひきつらせる。
「向こうの組織以来だから体がなまってるんだよねーフフフッ」
指をポキポキと鳴らす彼を見て、ホールは天井を仰ぎ、遺言を残した。
「俺は何も悪いことしてなくない!?」