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Mathematician Observation  作者: 空色 歌音
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Question16

Question16


 廃校の寂れた校庭に一台の乗用車がフェンスを越え、飛び込んできた。着地後、派手に回転はしたが、砂埃を上げ、華麗に停車した。


「よいしょっと!やーシスターちゃんの華麗なハンドルさばきはいつ体験しても迫力のスリリングですなー」

「そ・ん・な・こ・と・よ・り早く準備をしますわよ」

「はいはい」


 その頃、廃校内では派手なテロが起きていた。

 教室内という狭い空間で四方八方から轟く爆音。ガラスの割れる音。銃の発砲音。悲痛な音たちが、飛び交う中、キャロルとホールは着々と追い詰められていた。


「いい加減こっちも反撃しないとヤバイぜ?」

「わかってる…こうなったら僕だけでも教室から脱出してメビウスさんと直接戦闘する」


 爆弾魔のメビウスは教室の外から爆弾を投げてくる。教室内にいる黒装束の男達は彼の能力によって作られた虚像であろう。


「無茶はやめろ」

「わがまま言ってごめんね。でも、廊下に出ればまだ割れていないガラスがある。今日は昼と夜の区別がつかないくらいの曇り空だから…つまり」

「ガラスが鏡となって『Wonder Land』が発動する」


 キャロルは自分の意思だけで空間を造り出す事はできない。能力発動の媒体として、何故か鏡が必要とするのだ。


「おそらく、そのガラス…いや鏡は大きいと思うな。空間内での僕の攻撃力は鏡の大きさに比例する。そうすれば勝てるはず」

「わかった。じゃあ俺が出口までの道を造る。でもいつまで持つかはわからないよ」

「マー君の能力で造った道なら無敵だよ。」


 そう言って2人は互いに笑い合った。


「よっしゃ!それじゃあいくよ!


代償『Show Time』」


 彼らの隠れている教卓から出口までの道のりに、劇場でよく見られる金幕がトンネル上に下りた。


「流石に俺の防御能力でも囲う範囲が狭いと数分しか持たない。ここだと長くて10分がやっとかな。その間に決着つけてこいよ」

「わかった!」


 キャロルは出口まで駆けた。



「あれ、爆弾もうなくなっちゃった。まだ壊し足りないんだけど…ペットボトルにドライアイスでも詰めて投げ入れるか」

「Wonder Land!!!」


 廊下は一瞬のうちに不思議の国へと変わった。


「あの危険地帯の中を脱出してきたか…」


 キャロルは既に剣を構えて戦闘体勢をとっている。


「ったく、めんどくせーな!」


 メビウスも折り畳み式ナイフを取りだし、なれた手つきで刃を出す。


「今回は一発で仕留めてみせるぜ」

「そうはさせない…バンダースナッチ!」

 キャロルの背後の空間が歪んだ。歪んで出来た空間の穴から鋭い牙を持ったいたちのようなネズミのような生き物が数十匹と飛び出してきてはキャロルの回りに集まる。


「攻撃開始!」


 彼の号令でバンダースナッチと呼ばれる生き物達はメビウスに向かって走り出した。


「ネズミとか出したって無駄だぜ」

「そうでしょうか?」


 一匹がメビウスの持っていたナイフの刃に噛みついた。

 するとナイフの噛みつかれた部分は、文字の羅列が刻まれた破片となって床に落ちた。


「ははっ、やっぱ君は面白いもの出してくるね」

「バンダースナッチの攻撃は人間にも通用します。もし噛まれたら…その度にあなたは言葉を失っていきます。それでも笑っていられますか?」

「笑いが尽きるその前になにもかも壊してやるよ!」


ドゴォォォォォォォォォォン


 彼らの動きを制止させるとも思える轟音と共に地震が起きた。不可思議な空間が大きく揺れ動き、どこからか砕けたコンクリートの塊がなだれ込んできた。


「はいはーい喧嘩はそこまでだよー」

「オオオオイラーさん!?」


 その流れに任せてオイラーが仲裁するようにやって来た。


「オイラーの「オ」はひとつで結構。いやーやっぱり派手な戦いするねー。このネズミとか何?」

「そ、そうじゃなくて」

「てか目隠れおじさんは何したいわけ?」

「失礼なッ、オレは24歳です!まだ少年の域だぜ!?

さっきも言った通り、ガロア君の身柄は赤髪君の組織に一時的に引き渡したよ。だから無駄な戦闘は止してくれ」


 服に付いた砂埃を払い、オイラーは華麗に着地する。


「ほらほら、何ボサッとしてるのさ。早くしないとシスターちゃんが次のロケラン構えてるんだからさ。オレもこれ以上怪我したくないわけ」

「はぁ…わかったよ。マジだりぃ…それじゃあ片付け任せるわ」

「むぅ…」


 2人は納得のいっていない様子。キャロルはぷくーと頬を膨らませ、自身の能力を解除する。


「じゃあまた今度」


 メビウスはヒラリと手を振り、その場で姿を消した。

 彼の体をすり抜けるように、チェルシーが戻ってきた。


「た、ただいまもどりましたぁ…」


 かなりの距離を全速力走ってきたのだろう。彼女は息を弾ませ、千鳥足で、歩んでいる。胸元にはしっかりと例の書類を抱えている。


「やぁおかえり」

「え!?なんでオイラーさんがいるんですか!?まさかマーリンさんも…」


 ドゴォォォォォォォォォォン


 二度目の轟音がその場を揺らす。

何かに気がついたキャロルは顔面蒼白でホワイトボードにペンを走らせ、オイラーに文面を見せる。


『とっくにマー君の能力切れてた…』

「えっとぉー今の轟音はー」


 オイラーも彼の言っている意味を理解し、冷や汗を流し、ホールのいる教室に視線をそらす。


『マー君が待っているあそこの教室から』


 廊下に絶叫が響き渡った。

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