Question15
Question15
「ちょっと何よこれ…」
ガロアの姿を見て、リチャードソンは唖然とするしかなかった。
「パスカルさん…護身用拳銃貸していただけませんか?」
「…貸さないと答えたら?」
「いくらパスカルさんの断りでも容赦なく奪い取ります。僕には時間がないんですよ!」
真剣な表情の彼の眼は青く光り、殺意に満ちていた。パスカルも彼の視線に命の危険を感じとり、携帯していた護身用の小型拳銃を渡した。
「それじゃあ、撃ちます」
「ちょっ!?」
パンッ
ガロアの放った弾丸がリチャードソンの傘を貫通した。
「嘘…この傘は防弾仕様なのに…貫通するなんて。
こうなったら先に戦闘不能にするしかないよね」
彼女は傘を構え、急降下した。
「…バンッ」
もう一発は彼女の腰を貫いた。互いにスピードを出してぶつかり合ったので、威力はかなりあっただろう。
流れる血液が空中で華麗に舞い散らせながら、彼女は冷たいコンクリートの上に叩きつけられた。
「何でこうなるのよ…ゲホッ」
僅かに開いた口の隙間からも多量の血を吐き出した。
「ガロア君…いい加減に」
「まだ足りませんよ。僕が殺意を覚えた組織は片っ端から息の根を止めてやる」
「ガロア君!!!」
「パスカルさんの部下はまだしつけがなってないようですね」
叫んだパスカルの肩に手を置いたのは、意外な人物だった。
「ベーシェンス?」
リチャードソンの上司であり、組織『ジャスティ・ジェノサイド』の会長ベーシェンス・フェルマーだ。
彼は、パスカルに微笑みかけると、駆け足で倒れたリチャードソンの元に行った。
「フェルマー様…ごめんなさい」
「喋らないで安静にして。あと1分ほど我慢してもらえるかな?その間に終わらせるから。それと、」
フェルマーそこで口を止めた。同時に機敏な早さでガロアに向けてリチャードソンの傘を開いた。
「傘、借りさせてもらったよ」
傘の縁には銀色の弾丸が布地の間に挟まっていた。
「随分頭が悪くなったね。エヴァンス・ガロア」
「うるさい」
「組織の長である僕の首を捕れば勝てると思ったんだろうね。まぁ、ウチの組織は蜂や蟻のように沢山の代わりなんていないからね。僕が死ねば組織は解体する。
けど、僕は自分以外には誰にも殺されないよ」
最後の一文はハッキリと断言した。そして彼は右足を一歩前に出した。一歩。また一歩とガロアとの距離を確実に縮めている。
ガロアは銃を構えているものの、一向にトリガーを引かない。
「さ、殺してごらんよ」
ガロアとフェルマーの間は弾丸を急所に的中出来るほどの距離まで縮まっていた。
フェルマーは不気味とも思える笑顔を浮かべていた。大きくてを広げ、弾丸の当たる面積を大きくしている。
「あのとき、君が暗くて冷たい監獄でやったときのように悪いやつらを赤く染め上げてみせてよ」
「黙れッ!」
怒りが頂点に達したガロアは勢いに任せてトリガーを引こうとした。
「残念。タイムアウトだ。」
フェルマーは残念そうな顔をした。ガロアの目から殺意は消失し、フェルマーの方へと体を傾けた。
「まったく、僕はそういう性癖は持ち合わせてないよ」
フェルマーは倒れかける彼と接触する前にヒラリとかわした。ガロアはそのままコンクリートにダイブした。
「ガロア君は大丈夫なのかい?」
「互いに心の内を明かした文通友達より、後輩の心配ですか。別にいいですけど」
「さっきのガロア君の暴走は…」
「いい加減気づいていることでしょう?彼のサクリファイスとしての能力が覚醒したんです。時間制限付の能力みたいですけどね」
さっき言っていた「時間がない」や「タイムアウト」とは能力の発動時間を指していたことを理解した。
「さて、本来の目的に戻りますが、彼を一時ウチの組織で預かりたい。なにちょっとした調査ですから」
「長くても一週間だよ?
彼がいないとみんな心配するからね」
「流石パスカルさんだ。話が早い。こっちも怪我人の命がかかっているからね。今日のところはこの辺で」
そう言って彼らの体は徐々に透過していき、姿を消した。
取り残されたパスカルは拳にグッと力を込めた。
「僕も行かなきゃ」
廃校へ向かうため、路地裏を後にした。
「ガロアさんが…殺人?嘘でしょ?」
チェルシーは書類を持ったまま、立ちすくしていた。
「でももしかしたら打ち間違えかもしれないし、早くキャロル君とホール君のところに戻らなきゃ。さっき微かにに爆音がしたし」
「チェルシーちゃん」
「ヒッ!」
彼女が振り返った先に、ここにはいないはずのガロアが立っていた。
「心配だから来たけど、何してるのかな?」
「な、何も…」
「ふぅん。やっぱり、なにか隠してるよね。仲間内での隠し事は良くないと思うなー」
そういった彼の手には鋏が握られている。それの先からは赤く粘りけのある液体が垂れている。
チェルシーは身の危険を感じた。
「来ないでください!!ガロアさんは…ひ、人殺しするような酷い人じゃないはずです」
「今までのが演技だとしたら?」
「演技だなんて…」
チェルシーは言葉をつまらせた。
耐えきれなくなり、視線を床に移動させる。
「あ」
そこで彼の異変に気がついた。彼の足がノイズがかかったかのように途切れ途切れに消えたりしている。
(もしかして、誰かの能力?)
「どうしたの?早く隠してるものをこちらに渡してよ」
「私もこんな事したくないですが、貴方とはお別れです。
…Existence 0」
彼の姿は一瞬にして消えてしまった。
代償『Existence 0』。狙ったものをこの世から消滅させる能力である。
「まさか、ここで使うなんてね…そしたら近いうちにまたあの時と…」
彼女は唇を噛む力を強くした。口のなかに鉄のような独特の味が広がる。
「はっ!いけないいけない。こんなところで弱気になってちゃ駄目だよ私!」
首がもげてしまうのではないかというほど強く頭を振り、滲み出てこようとする記憶を振り払った。
「私はもう昔の事は捨てたんだから」
書類を握りしめて、彼女は職員室を飛び出していった。