Question13
Question13
頭上を数えきれないほどの銃弾が飛び交う。それらはいまのところ幸い人には当たってはいないものの、廃墟となった校舎の壁を貫いていく。
「フレディ!大丈夫?」
両手にオートマチックピストルを構え、教卓の影からホールが仲間の安否を確認する。
「大丈夫…!やっぱり『Wonder Land』発動した方がいいのかな?」
彼の隣で、キャロルは膝の上に白い本を広げる。どういう原理かは分からないが、そこから次々と武器を産み出している。
「それが良いんだけど…鏡壊れてるんだろ?」
キャロルは残念そうな顔で懐からコンパクトサイズの鏡を取り出した。
バラのモチーフがついたカバーを開けると、映された彼らの顔には大きなヒビが入って破片がいくつか欠けていた。
「これじゃあ、うまく発動できるか…」
「ったく、みんなどこいったんだよ。そもそも」
どうしてこうなったんだろ?
「あれ?3人揃って仕事なんて珍しいね」
キャロル、チェルシー、ホールが並んで廊下を歩いていると、古新聞を詰めた段ボールを運んでいるガロアと遭遇した。
「そうなんです。今日は3人でいってきます」
会釈をしただけの男子2人とは対照的にチェルシーは照れ笑いながらも敬礼のポーズをとる。
「そっか、行ってらっしゃい」
「はい!頑張ってきますね」
「い、行ってきます…」
「うん、キャロル君も行ってらっしゃい」
今にも消えてしまいそうなキャロルの挨拶にも彼はきちんと返事をしてくれる。キャロルは嬉しそうに深く頷いた。
「もちろん、ホール君もね」
「むー」
「え?怒ってる?」
「別に」
ホールだけは不機嫌そうにそっぽを向いた。
ガロアは頭の上にクエスチョンマークを浮かべて、去っていった。
「俺たちも早くいこうぜ」
いつもとは違うホールの態度にチェルシーとキャロルは下手に触れるのもよくないと考え、おとなしく彼についていくしかなかった。
今日の彼らの仕事は廃校の調査だった。廃校と言ってもここの学校が新校舎へと移転したばかりでありまだ心霊スポットとかになるほど古めかしい感じではなかった。
「やぁ、到着したようだね」
ホールがいつも身に付けているヘッドフォンから盛大にオイラーの声が流れてきた。
「また勝手に接続しやがって…」
「そうカリカリしなさんな。廃校はもう学校側から指示があってね。もし襲撃にあって校舎が破壊されても構わないらしいよ。むしろ仕上げにロケランをブチ込んでほしいくらいってさ」
かなり過激な学校だ。
「もしもーし。オイラーさーん?」
トランシーバーからチェルシーがオイラーとの接続を試みる。
「おおーカルダノちゃん。何か用かい?」
「今回の任務って主に何したらいいんですか?私よくわからなくて…」
「うーんとねーそうだなーまぁ、探索かな?職員室等とかから取り残された書類を探してきてほしいんだ」
「なるほど、わかりました」
「あと…」
一呼吸置いて、ゆっくりと的確にチェルシーに伝わるようにオイラーは言葉を発した。
「ガロア君にはこの仕事の事を一切話してはいけないよ」
「え?何故でしょうか」
ブツッ!ツーツーツー
オイラーからの電信は突然切れてしまった。
「…」
「どうしたんだよ?」
「ううん、何でもない」
トランシーバーの電源を切り、3人は校舎へと入っていった。
「じゃあ、私はひとまず職員室に行くね」
「あぁ、一人で大丈夫か?」
「私は大丈夫だから。ほら、キャロル君と一緒の方がいいでしょ?」
『僕たちは事務室の方へ行ってみるね。チェルシーちゃん、もしもの時は連絡して』
「了解です」
チェルシーは一人で廊下を左に曲がっていった。残った二人も彼女とは逆方向の右を曲がっていったのである。
「えーと、資料は…」
職員室に着いたチェルシーは片っ端からデスクの引き出しやファイルを漁っていた。パソコンにはロックが掛かっており、開くのは諦めた。
「学校の予算とかテストの答案しかないなぁ。あ、これなら何か情報があるかも!」
そう言って手に取ったのは生徒個票をまとめたバインダー。それをパラパラと流し読みする。
「あっ、この人はガロアさん?」
一枚の生徒に目をとめた。多少の幼さを残したすまし顔に青髪が印象的な青年。エヴァンス・ガロア本人だった。
「そういえば、退学したっていってたけど、どうしてなんだろ?両親が亡くなったとか言ってたから金銭トラブルとか、エリート校だから学力の問題だとか…」
個票の備考欄に目を移すと、そこにかかれていた文章に彼女は衝撃を受けた。退学の理由は金銭トラブルとか学力の問題だとかそんなに生易しいものではなかった。
『学園革命の主犯。クラス集団殺人を犯した為、退学』
「何で貴方達がここに…」
一方にて、キャロルとホールは黒装束の男たちに囲まれていた。
その中でメビウスが手榴弾片手に佇んでいる。
「おひさしぶりだな。キャロル坊っちゃん。と、初めまして付き添いの方」
彼は険悪な表情を浮かべる2人に深々とお辞儀をする。
「青髪のもやし野郎はいないの?」
「今日は僕らだけです」
「ふーん、あっち側にはリチャードソンちゃんが向かってるからいいか。
にしてもこれだけ盛大にお迎えに来たのに本人がいないとなるとなぁ…」
頭を掻き、辺りを見渡したメビウスはふとなにかひらめいたようでニヤリと笑った。
「それじゃあ、坊っちゃん達に遊び相手になってもらおうかな」
床に落ちた手榴弾がゲームの啖呵を切った。