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Mathematician Observation  作者: 空色 歌音
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Question11

Question11


 時を遡ること1,2週間前。地下牢獄には最重要危険人物のみを収監していた。

 看守の一人がその環境の冷たい雰囲気を少しでも乱せば殺されるかもしれないという時限爆弾のような場所だった。

 ある日夜中にパトロールをしていた新人の看守がここへ来ると、乱闘が起きていた。既に複数人が床に転がり、血を流していた。唯一立ち上がっていたのは地下牢獄囚人のなかではもっとも若い青年だったという。彼は新しい生命反応に気づくと、看守が携帯していた緊急ボタンを押す前に速く相手の顔面に、拳を突きつけた。その弾みでボタンが押され、けたましいサイレンの音が収容所を包んだ。

 殴られた衝撃で倒れた意識を失う直前に青年は何か焦った様子で独り言を言っていた。

「僕には時間がないんだ」と。


「僕らがさっき体験した仕掛けは実際は落下途中にロープが人の首に巻き付くというトラップがある拷問&処刑するためのものだよ。

 いずれここも新たな拷問室に変えるつもり。質問もわかる範囲なら答えてあげようかな?」


 手を広げてくるくると回る所長を無視してケプラーはカメラを構えて現場撮影を始めている。


「アイリッシュ、隅々まで撮影するのよ。替えのフィルムも私が持ってるから」

「了解でっす!」

「あはは、僕の事は無視ってところかな」


 回るのをやめて虚しく笑う所長。

 ネーターは手帳とペンを取り出すと、分かりやすく落ち込む彼のもとに歩み寄った。


「聞き忘れてたけど、被害状況は?」

「あー確かね、負傷者は沢山いて医務室が大変だったのは覚えてるかな。重症で回復の見込みが無い奴等は処分したけどね。あとはこの部屋では一番屈強だった男ら2名とこの部屋に繋がる廊下で看守一人が死亡したよ。暇潰しにはもったいないくらいのとんだ惨劇だったね」

「なるほどね…暴徒化した青年の事はわかるかしら?」

「やけに質問が多いね、ジュリア。君はこの収容所のことを僕の次によく知ってるはずだけど?」


 顎に手を当て、唸るようなポーズをとる所長の意味深な発言にも一切の同様を見せないネーター。彼が何かを知っているのか、ただカマをかけてみただけなのかはわからない。


「馴れ馴れしくファーストネームで呼ばないでくださる?確かに、私はここについての資料を沢山読みました。けれども何もここで起きた出来事をリアルタイムで見ていたわけではないですしね」

「ふむぅ…ここでは囚人一人一人の名前を覚えてはいない。あんな奴等の名前なんて微塵の興味もないしね!脱獄犯の囚人番号は…1027番だったかなあ?ま、こちらでも調べておくから分かり次第連絡させてもらうよ」


 所長はヒラリと一枚の小さな紙切れを指の間に挟んでネーターに見せる。名刺だ。

 彼女は名刺を渡した覚えは一切無いが、その名刺にはゴシック体のフォントで『』と印刷されている。ちらりと名刺の持ち主を見ると、未だに写真を撮っており、名刺を渡したようには見えなかった。所長にあっさりとすられたのであった。


「あら、もうこんな時間ね。今日のところはこの辺で。また何かありましたら連絡してください」


 アンティークな腕時計で時刻を確認した彼女は後輩を呼び戻して、地下牢獄をあとにした。


「はぁ…暇ッスね」


 取材から1週間。記事を執筆し、無事に新聞に掲載されたのはいいが、それ以降仕事もなく、あの能天気な所長からも音沙汰一つ無い。


「暇なんかじゃないわ!最近現れた謎の組織『ジャスティ・ジェノサイド』、最年少裁判官ベーシェンスフェルマー、昨年から行方不明の消滅した名家『キャロル家』の一人息子…記事になるネタは沢山あるわよ」

「うおぅ、それは大変ッス。記者魂燃えるッスね!他にはどんなスクープが?」

「一晩で消えた村に、『サクリファイス』研究者の失踪。時に起こる盛大なテロに死刑囚の事故死。この町は不気味なほど事件に恵まれているわ。さすが退廃の町・デカダント…治安もずいぶん廃れきってる」


 様々な事件を揃えた資料を一つ一つ指でなぞっていくネーターの群青色の瞳にはわずかな好奇心が輝いていた。

 一方ケプラーは「そんなもんなんスかねぇ」と愛用の一眼レフのカメラを眺める。ざっと見たところ、そのカメラは十数万相当はするだろう。新聞記者といった給料が不安定な職業柄、新人の彼にそんな高級品を買う余裕はないように見える。誰かからの贈り物だろうか。

 その時、誰かの携帯電話の着信音が鳴った。


「僕のッス。はい、もしもし?…うぇ!?」


 電話を取り、相手の応答を聞いたらしく、途端に血相を変え、変な声を出して反応をした。


「はい、はいッス。

先輩、お電話です」

「そろそろ来ると思ってたわ」


 ネーターは肩をすくめてケプラーの携帯電話を受け取る。相手は誰なのかは既に見当がついていた。


「やぁ、ジュリア♪おひさーです」

「切って良いかしら?」


 携帯電話のスピーカーから流れてくるはキリングマッド収容所の所長だった。


「この電話を切るか切らないかは君次第として、例の脱獄犯の事についてわかったよ」


 所長は声のトーンを落とし、スピーカー越しに真剣な雰囲気を作り出す。


「脱獄から既に数週間。身寄りの無い犯人は親の遺産出もない限り無一文だ。今頃都市内の教会とかで匿ってもらっているのが最も正しい推理だろうね。

 今後の君たちの行動次第で直接対決の可能性だって浮上する。行動には気を付ける事をおすすめするよ」

「なるほどね。ところでその脱獄犯の名前はわかるかしら?『カイン』」


 ネーターの質問に対して、電話の向こう側では少しの間をおいた後、ゆっくりと脱獄犯の名前を晒した。



「囚人番号1027番…エヴァンス・ガロア」


キャラ紹介コーナーです!

主要キャラのプロフよりもどんどんとキャラが出てきて順番が後回しな子もいますが、気にするな!(威圧)

今回はネーターパイセンです

【キャラプロフィール】

名前:ジュリア•ネーター

年齢:23歳

誕生日:3/23

身長:159cm

血液型:AB


【数学者エピソード】

モデルとなった人物『エミー•ネーター』さんはアインシュタインにも認められた女性数学者です。しかしながら、女性は数学に弱いという通念は根深いもので、彼女の大学講師採用が拒否されると、彼女を推薦した数学者が「大学は銭湯か」と言ったというエピソードは有名ですね。

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