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 こういう場所は苦手だった。

 ならなんで来たんだと聞かれたら、うまく答えられない。

 何の身にもならない話を延々と喋る。これのどこが楽しいのだろう?

「ねぇ、夢持ってる?」

「えー、そんなの決まってんじゃん! 一生遊んで暮らすこと!」

「何だよ、それー」

 私の質問に、男の子たちはふざけながら答えた。

 ユイナに呼ばれた飲み会で、男の子たちの子供っぽさに私はげんなりしていた。

 来るんじゃなかった。時間の無駄だ。

「ミズホちゃん彼氏いるのー?」

 ストレートな問いかけに、私はあいまいに笑う。

「この前男振ってたでしょー! 彼氏いるんじゃないのー?」

「えー、じゃあ俺奪っちゃおうかなー」

「やめとけやめとけ!」

 ぎゃはははは! と下品に笑う男の子たち。

 私はお酒を呑まない。あまり好きではないのだ。

「ねぇねぇ呑んでるぅ? ちゃんと呑まないと! 誰かミズホちゃんにお酒持ってきて!」

「いえ、私は呑めないから」

「いいじゃんいいじゃん。ハメ外しちゃいなよ! こういうときこそ楽しまないと!」

 こういうときってどういうときだろう?

 楽しむって? ぜんぜん楽しくないんですけど。

 来るんじゃなかった。頑張って断りきればよかった。

「ミーズホちゃんっ!」

 私の左側に男の子が来て馴れ馴れしく肩をまわしてくる。振り払おうとしたが、力が強かった。

「ほら、のも!」

 酔っ払った男の子たちが無理やり飲まそうとしてくる。

 そうか。

 そういう場所なのか。

 酔えば何をしてもいいのか。

 私は呑んだ。お酒は好きじゃないけど、弱いわけではないのだ。

「呑めるじゃん、ミズホちゃん!」

「ほら、もういっぱ――」

 ガンッ!

 右にいた男の子が倒れる。

「うーん、酔ったかなぁ」

 ブンッ!

 左にいた男の子が倒れる。

 酔えば何をしても許される。酔えば女の子を無理やり呑ましても許される?

 いや、男の子たちはそんなに酔ってはいない。目を見れば分かるんだ。

 報いは受けてもらう。

 酔った振りして女の子を無理やり呑ましても大丈夫なら、酔った振りして男の子を殴ってもいいでしょう。

「おい、何するんだ!」

「落ち着けよ!」

 右の男の子が激怒して私に殴りかかろうとする。呆然と見ていた冷静な男の子がハッとして止めに入った。

「無理やり飲ませたのは、あなたたちでしょう……」

「ミズホ酔うとそうなっちゃうんだ、知らなかった、ごめんね」

 遠くにいたユイナが笑顔を崩さずに言う。

 その謝罪は誰に向けたものだろう。私なのか、男の子たちになのか。

 私は鞄とコートを持つと、よろよろと席を立った。

 背中に複数の視線を感じながら。



 大学に行くと、みんなが遠巻きに私を見ていた。

 さすが友達の多いユイナ。噂はもう広がっているんだね。

 無理やり呑ませようとした男の子たちに暴力振るったミズホ。

 多分都合のいいように改ざんされて、「暴力を振るったミズホ」だけが取りざたされているんだ。

 私には友達がいない。私を庇ったり真実を伝えたりする人はいない。

「聞いたよ、やるじゃん」

 トモカがふわっと私の肩を叩いてくる。

 ……どうして私には嫌いな人が多いんだろう。

 声を聴いた瞬間、私は頭を押さえた。

「気をつけなよ。アイツら、女の子を酔わせて襲うの得意だから。ユイナはそこに一枚かんでるの」

「え……?」

 驚いて、トモカを見る。生まれて初めてまともにこの人の顔を見たかもしれない。

「だからライン教えてって言ったのに」

 絶句していると、トモカは一枚のメモをくれた。

「これがアタシのラインIDね。何かあったら、いつでも連絡して」

 どうしたらいいのか分からなかった。

 ラインなんてやっていない。



「誰かトモカさんって言う人知っています?」

 稽古の休憩中、思い切って聞いてみた。

 誰だろう?

 トモカの知り合いって。

「さぁ。誰か知ってる?」

「私の大学の同級生なんですが……」

「じゃあ若い女の子なんだね。その子がどうしたの?」

「彼女の知り合いがここにいるって聞いて……」

「そう? 誰だろう?」

「どしたどしたー?」

「ミズホんの友達の知り合いがここにいるって」

「いえ、友達じゃないです」

「誰だ!? そんな若い女の子と知りあいだなんて!」

「うらやましいぞ! 名乗り出ろー!」

 いつもの劇団のノリで、とても楽しい時間だった。

 だけど、結局誰かは分からなかった。



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