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8.


 大学内は気のせいか色めき立っていた。女子も男子もキラキラと輝いている。友チョコとかで女の子同士がかわいくラッピングしたものを配り合っている。

 私はそんな景色を横目に授業のある講堂に向かう。

 今日は来るんじゃなかったかも。今からでも帰ろうかな。

「ミズホ!」

 呼ばれて振り返ると、ユイナと彼女の友達がいた。

 メールを無視してから会っていなかったから、こんな風に自然に名前を呼ばれたことに驚いた。

「はい、あげる。お返し待ってるよ」

「え……?」

 言うだけ言ってチョコレートを強引に押し付けて、ユイナは友達とすぐに行ってしまう。

 突然のことで、押し返すことも出来なかった。

 ムリヤリ渡されたチョコレートに対しても、お返しをしないといけないのだろうか?

 私も用意しておくべきだったのか。立ちすくんでいると、肩を叩かれた。

 ビクッとして振り返ると、驚いた表情のゆるふわパーマ、トモカがいた。

「びっくりしたぁ」

 ビックリしたのはこっちだ。何の用かと思っていると、「ハイ、これ」とチョコレートを渡される。さらに驚いていると、「お返し待ってるね」とユイナと同じことを言って去っていった。

 今日は何なんだ。厄日ですか?

 私は……

 スマホを取り出す。電話をかける。

 手が、少し震えた。

「今日、行ってもいいですか?」



 注文したコーヒーは期待したほどおいしくなかった。

 店内も気のせいか色めき立っている。

 少しするとリーダーがやってきた。彼の家に行きたいと言ったけど、それは彼に断られた。「ちらかっているから」と。

「ごめんね、待った?」

「いえ……」

 読んでいた文庫本を閉じる。

 リーダーはジャケットにネクタイをしていた。そういえば、彼はどんな仕事をしているんだろう。演劇をやっている彼しか知らない。

「キミから誘ってくれて嬉しいよ」

「いつもお世話になっているお礼と思って。今日は私が奢るので、好きなものを注文してください」

「ありがとう」

 バイト代を少し多めに持って来ていた。今まで奢ってもらった分を考えると足りないかもしれない。彼もコーヒーを注文していた。

「デザートも頼んでください」

「甘いものあんまり好きじゃないんだ」

「この前板チョコを持っていませんでしたか?」

「あれはキミが好きそうだと思ったから」

「…………」

 気持ち悪くなってきた。なんだろう、この感じ。

「キミは演劇を続けないの?」

「…………」

 リーダーは私の目をまっすぐに見てくる。私はまともに顔を合わせられなかった。

 あなたは知っているでしょう? 私がやったこと。

 私が犯してしまったもの。

私が、人殺しだということ。

「キミには才能があるよ。その気になればいつだって僕が紹介してあげる」

「今は、まだ……」

 演劇は好きだと思う。

だけど、フラッシュバックする。

 彼が死んだ瞬間。その表情。

 ……吐きそうだ。

 思い出していると、リーダーが苦笑いした。

「実はね、少し期待していたんだ。僕の家に来たいなんて言うから。でもキミの心は未だ彼のものなんだね」

 喉の奥が詰まった。

 期待って何を……?

 涙が出そうになる。

 私はリーダーに、こんなに優しい人に何をした?

 利用しているんだ。傷つけているんだ。

 こんな勝手許されていいのだろうか。

「私は、彼を待っています。だけど二度と会えない事も知っています。彼のことは絶対に忘れません」

 リーダーは黙って聞いてくれる。

「ただ……、寂しいんです」

 そうだったんだ……

 口にしてから、それが本心なんだと知る。

 涙を抑えるのに必死で、顔を上げられなかった。

 リーダーがハッとしたのが雰囲気で分かった。

「……僕はね、君を家に招いたとしたら理性を抑える自信がないんだ。それでも、来るかい?」



 私はおかしい。

 一体何をやっているんだろう?

 涙を流しながら、リーダーに抱かれながら、あの人を想い心が痛んだ。

「演劇、やろうよ」

 リーダーの囁きに、私は頷いた。



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