5
6.
空が遠くてよく晴れている。
1週間のうちに2回も誰かとどこかへ行くなんて、私にとっては珍しかった。たまたま人恋しい時期だったのかもしれない。
だけど、一人ぼっちで待ち合わせ場所にいると、最初からひとりでいるよりもずっと寂しい気持ちになる。
人通りの多い駅前は、私みたいに誰かを待っている人がたくさんいたけれど、彼ら彼女らはすぐに誰かがやってきて、笑い合ってどこかへ去っていく。
私がずっと待っていたユイナは、改札のほうからではなく、反対からやってきた。だから意表を突かれたのだ。待ち合わせ場所を決めたのはユイナだったから、てっきり電車でやってくると思っていた。
ユイナは私を見つけると、パッと顔を輝かせて、片手を大きく振ってくる。私も釣られて笑って、手を振り替えした。
「ごめんごめん、トモカの電話が長くてさ、つい……」
「そう……」
30分待った。
白いケープをはおり、ふわふわの薄いピンク色のシフォンスカートをはいたユイナはまるで妖精のようで、待ち合わせ場所につくなり両手を合わせて謝ってきた。男ならすぐに許すのだろう、こんなかわいい子が手を合わせて謝っているんだから。
でも、私は男じゃない。
気付いているんだ。トモカと電話をしていたなんて嘘だ。ずっと電話をしていたというなら、私がした2回の電話にコール音が鳴ったのはなぜだろう?
わたしは映画の日と変わらない格好で来ていた。白いダウンコートに、シンプルなマフラー。
ユイナからの誘いなのに、どうして彼女はこんなに遅れてきたのか。ユイナと遊びに出るのは初めてだが、彼女の持つ印象は少し変わった。
「今日寒いねー」
「うん」
「ミズホと出かけるなんて初めてだね! とっても楽しみにしてきたんだよー!」
最近新しく出来た可愛いと評判のお店に1回行ってみたい、とユイナに連れて行かれたのは、期間限定でオープンしているメルヘンなカフェだった。お菓子の家をイメージしている外観で、パステルカラーだけを使ってふわふわと女の子らしさと可愛らしさが強調されている。中に入ると、お客さんは女性だけで、店員さんも女性で、メイドさんのような服を着ていた。机や椅子や衝立や、至るところにキャンディーやクッキーなんかの置物やぬいぐるみが並べられている。非現実的な空間だった。
嫌いじゃないけど、誘われていなかったら絶対来ないかも。
わたしはバニラアイスとチョコレートソースのかかったワッフル、ユイナはいちごがふんだんに乗ったパフェを注文した。
「この前、映画街で男の人といたんだって? その人がミズホの好きな人?」
レモンの味のする水を飲んだ後ユイナが突然話し出した。その内容に私は驚いた。
「見たって人がいて、多分ミズホだと思うって」
突然話し出したわりには私の顔色を伺いながら話してくる。
あぁ、またその話か。
誰が私を見たんだろう?
そうか。ユイナは最初からそれが聞きたくて私を誘ったのか。
ユイナほど友達が多くて可愛い子なら、別に私を誘う必要もなかったはずなのだ。こんな可愛い場所ならなおさら。
「違うよ」
否定すると、ユイナは目を丸くした。
あの夜は楽しくも何ともなかった。
「誰か知らないけど、見間違いじゃないかな」
「……そ?」
少し間を置いた後、ユイナはまた話し出す。
「トシキ君振ったんだって?」
「…………」
そうか、あの男の子、トシキ君って言うのか。
「どうして?」
「好きな人がいるからだよ」
「まぁそうだよね。好きな人がいるんならね……。気になるなぁミズホの好きな人って。誰なの?」
「うん。ユイナの知らない人だよ」
「教えてくれないの?」
「うん」
ユイナは私の本心を探るかのように私の目を覗き込んでいた。私が答えないでいると、つまらなそうに髪をいじりだした。頼んだものが運ばれてくると、スマホを取り出して、写メを取る。
「インスタグラムに載せるんだー」
「なに、それ?」
「知らないの? ミズホもやりなよ。楽しいよ」
ユイナはもう笑わなくて、下を向いてスマホに熱中していた。
私の存在はもう、終わっているんだ。
好きだといってくれる人に応えられない。
興味を持ってくれる人に応えられない。
私自身が誰かと一緒にいても楽しくないし。
一緒にいる人も当然私と一緒にいたって楽しくなさそうだし。
それならもう、死にたいな。
生きている意味なんて、ないよ。