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府立維新学園!!

作者: ムカイ

日本全土が大阪府に統合されて10年。

一国の支配者となったファシモトは、今や日本の首都となった大阪府にありとあらゆる省庁や大企業の本店を集中させ、大阪を世界の中核都市にまで押し上げた。

彼がこのような偉業を成し得たのは、ファシモトに眠っていたギアスが目覚めてしまったからに他ならない。

異能の力を手にしたファシモトは自らの力を伝承し、優秀な後継者を育成するために、自らを学長に据えた異能学園を創設したのだった。

その名も、府立維新学園。

世界中からありとあらゆるすごい奴を集めたすごい学園だ。すごいということ以外にこの学園に関する情報は持ち合わせていない。

わかっていることは、試験に合格した者ならば、年齢に関係なく入学することができるということ、そして入試では毎年多数の死者が出るということだ。今年は200〜300人の受験生の命が爆風と共に散っていったらしい。

試験官の目測なので正確な数値は定かではない。

そんな厳しい関門を潜り抜け、俺はめでたく府立維新学園の新入生として、4月3日の入学式を迎えた。校門へと続く坂道を登りながら、なんとなく制服のネクタイを直したり、ベルトをいじったりして、そわそわとした気持ちを制止する。

「ふう。」

校門の前で一息ついた俺は、気を引き締めつつ学園の構内に足を踏み入れた。

その時である。急に後ろから突き刺さるような鋭い殺気を感じた。数々の死線を越えてきた俺は、既に自分に向けて何かが発射されたことを直感的に察知する。俺はすぐさまATフィールドを全開にした。正確に言えばATフィールドではなく俺の遺伝子に眠るスーパーパワーなのだが、イメージしやすいのがATフィールドであり、昔から友達にはATフィールドだよという説明で通してきている。きちんと説明しても、「ATフィールドとどう違うの?」などというセリフを吐かれる始末なので、あくまでざっくりとしたイメージではあるがATフィールドとして理解してもらって差し支えない。だがATフィールドと混同されることは甚だ遺憾であることだけは明言しておく。全開にしたはずみで校門横にあるファシモトの銅像の両耳が千切れ飛ぶ。後方からの攻撃は俺のATフィールドに弾かれて失敗に終わったが、これはもしや……。


全長50mはあろうかという光の槍だった。

俺はそれの放つ青白い輝きに見覚えがあった。


「まさか奴もこの学園に……。」


そう。俺は知っているのだ。

中学を卒業する少し前に消息を絶って以来、あいつは親友である俺にさえ、一切連絡をよこさなかった。

決して有名な異能使いではなかったものの、あいつの能力は、見る者が見れば有用な能力であった。

その能力は一本の槍の生成と変成と発射。

生成の早さと正確さ、そして変成のバリエーション、何よりしかし槍の発射時のパワーは些か不足しており、威力が出ないのが玉に瑕だった。


槍の名はグングニール。


正確に言えばグングニールではないのだが、イメージしやすいのがグングニールであり、奴は小学生の頃近所で有名なグングニール坊主だった。中学ではグングニール部には所属していなかったようだが、趣味として休みの日に仲間を集めて草グングニールに励んでいたようだった。奴の影響で、俺たちの地域では、グングニールを投擲する様を「ググる」と呼んでいたものだった。他所ではそれを誤った意味で用いるらしいが。


しかしあいつは……、あいつ決して人に向けてググるような奴ではなかったのに……。

一体何があったというのだ。


一抹の不安を胸に、俺は入学式会場である記念会館へと向かうのであった。




入学式は意外にも普通の式典そのもので、退屈な式辞やその他諸々の眠くなる挨拶の連続だった。残すはラストの学長からのお言葉のみ。

学長は世界で一番注目される人物であることもあり、会場の入り口付近にはテレビカメラが何十台も設置されている。自分もニュース映像に見切れたりするのではないかと、変にフワフワした感覚になるが、今日は自慢のロン毛が寝癖のせいでダイナミックな感じになっているので、あまりカメラに映されるのはどうだろうかと思いつつ、さりげなくテレ朝のカメラの前を横切ってみたりする。

そうこうしている間に、司会の教頭が学長の呼び込みをかけた。

「では最後に、本校の学長であり、日本国の内閣総理大臣であらせられるファシモト閣下より、新入生の皆さんに向けたありがたいお言葉を頂戴したいと思う。全員、敬礼!」

新入生・在校生・教職員だけでなく、来賓の大物政治家、他国の王族や軍事関係者、詰め掛けたマスコミ関係者、さらにはシルベスタ・スタローンまでもが、直立不動で全力の敬礼する。アメリカ陸軍の将軍が200%の敬礼をしながら瞳を涙で滲ませている。さすがは世界中の軍産複合体の利権を一手に掌握しているファシモトだ。

ファシモトが総理大臣に就任してから、新たなワールドスタンダードとなった敬礼のポーズ。

握り締めた左拳の親指側を胸の中央に勢い良く押し当てた後すぐさま通天閣の方向へ身体を向けるその態様から、当初はツイッター上で「ナニワ敬礼www」と揶揄されたものだった。しかし、ナニワ敬礼のツイートをフォローした40代男性が公開処刑に処せられてからはネット上でそのワードを見かけることはなくなった。

「直れ!」

教頭の合図で、全員が気をつけの体勢に戻る。大衆は、不安が少し入り混じった期待の視線を壇上に立つ偉大なる指導者へと注ぎ、その第一声を聴き逃すまいとする。


そして、ファシモトの口が開かれる。


「バルス」


滅びの呪文により世界は滅びた。









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