ベルトを開発したい男⑦
「ただ、王は全員を逃がすと、行方をくらませた。もしかすると、残ったのかもしれんな」
そんなわけないか。リーギルは即座に否定した。放浪でもしておるのであろうよ。
「まぁ、ワシにとっちゃココが故郷だから、それほどピンと来ないのだが、両親は無念そうにしておったよ。といっても、すぐに別の事に夢中になったがね」
「……? どういうことですか?」
「当時は第二次世界大戦が終わって少し経った頃。と言えば分かるのでは?」
リーギルは、士が自ら答えを導く様に促す。士も、受験勉強で暗記した事柄を思い出した。
「は? ……あー、朝鮮特需か」
「そうだ。両親は主に車両や航空機の修理を担当しておった。たまに船舶も任されることがあったらしい」
機械弄りが好き、かつ手先は器用であるから正に天職だな。
「あの、リーギルさんのご両親は、なんで日本に来たんですか?」
士はふと気になって尋ねた。今では世界有数の先進国にまで持ち直したが、あの頃の日本は先行きも不確かな敗戦国。彼の父母に先見の明があったのか。
「母方の祖父、ワシから見れば曾祖父だが、彼に言われたそうだ。『困ったことがあったら日本に行け』とな。当然、悩みはしたが、母国を失ってヤケクソになったと言っていた。日本語も代々伝わっていたから片言であれば話せたし、『こうなればどこも一緒だ』と思って、一縷の望みに賭けた。そしてそれに勝った」
先見性を持っておったのは、リーギルの曾祖父であったか。
「そうだったんですか」
「俺も初めて聞いたぜ」
「ひとに喋ったのは初めてだ」
レギンはそう言うと、亡国となった故郷の行方も話した。
「死体になってしまえば、ヒトも妖魔も関係ない。今じゃアソコは動く屍どもの巣窟だ」
奴等の版図がこれ以上拡がらぬ様にと、彼方此方に設けられた出入り口は閉鎖され、その上に厳重な封が施された。何人たりとも立ち入る事が、また這い出る事ができん様に。
「中に入るには、王族が持つ鍵で正式に解錠するか、今となっては分からぬ通気孔から侵入するかのいずれかだな」
「そこは塞がなくて良いんですか?」
「造られたのは何世代も前だし、数も膨大だからな。場所も、全てを把握しきれてはおらんのだ。それに、下りられたとしても上がっては来られん、と判断されて放置することになったのだ」
時間も人手も資材も不足しておった故、致し方ない。本当に大丈夫なのであろうな。
「で、奥にはバルログが寝そべってる、と」
「アンデッドもまだ居るんだろうし、こりゃムリだな。自殺しに行くようなモンだ」
一人のドワーフの数奇な物語を聴き、三人を乗せた自動車は宇都宮へと到着した。大通りを暫く流しておると、良さ気な店を発見。美味い餃子を提供してくれそうな店構えである。
入店し、四人掛けのテーブルに着席するや否や、リーギルが零した。
「あー、ビール飲みてぇー」
「注文しないでくださいよ」
ドワーフは酒豪でも有名である。餃子を食すのであるから、ビールは必須。だが、彼は帰りも車を運転せねばならん。
「わかっとるわい」
憮然とした表情でそう言い、注文を取りに来た店員に告げた。
「ノンアルコールビールを二瓶」
当然、飲むのは彼だけだ。その後で、餃子をメインとした諸々の料理を頼んだ。程なくして料理が盛られた皿が運ばれ、三人は即行で箸を付ける。それ等は瞬く間に胃袋に収められた。
「あの甲冑ってイチイチ着込んでから行くつもりなのか?」
その最中、士は健児に問い掛けた。
「んなわけねぇだろ。前段階として鎧兜を完成させとかなきゃいけねぇだけだ」
残る部位は腕以外の全て。幾つかの合金との併用も視野に入れておる。また、その下に着るインナースーツの作製もある。此方はドラゴンの皮革か、グリフォンや大鷲の羽毛等を用いる腹案だ。少し前から持て囃されておるカーボンナノチューブもその候補の一つ。更に、装着者の肉体機能を高める為の術式も描き込まなくてはならん。無論、あらゆるモノの資本となる肉体造りも欠かしてはならぬ。他にも課題は山程あり、挙げれば際限がない。
「いつでもどこでもアレを纏えるようにすんのはそれからだ」
人間にとって、この道程は長く、遠い。それでも彼は止まらぬ。己の夢を果たすその時まで。




