ベルトを開発したい男③
「おうおう、オヌシがそうなのか。話は健児と征地郎から聞いておるよ」
ふむ、ドワーフは頑固者で有名。初対面の者に心を開く事があまりないが、彼はそうでもない様だ。フレンドリーに話を振る。これは、健児の人徳が為せる業か。
「征地郎って、誰ですか?」
聞いた事のない名前だ。その疑問に健児が答えた。
「沢渡さんのお父さんだ」
ああ、武器庫の親父か。あの男、沢渡 征地郎というのか。
「申し遅れた、ワシはリーギル・デルヴィスってモンだ。いちおう鍛冶屋をやっとる」
聞けば、これは特区の外での話であるという。書類上、彼は日本の戸籍を取得しておるし、そうでなくては自動車の運転免許は取れん。外見も人間と大差ない為、何も問題ない。
「俺は石森 士っていいます、デルヴィスさん」
士も彼に倣って名乗り、差し出された実に職人らしいゴツゴツした手を握った。
「長いからリーギルで良いぞ」
「じゃあ俺も士で」
「ちなみに、こう見えても戦後生まれだ」
歳は不明だが、自身の祖父とそう変わらんであろう。その思考が読まれたのか、実年齢を告げられた。最高でも八十歳に達するか否かといったところか。強ち的外れでもなかったな。
「この御時世に鍛冶業で食っていけるんですか?」
「あぁ、まぁな。需要はそこそこあるぞ。現に、それもワシがコイツに依頼されて造ったモンだ」
健児の両腕を護る白銀の籠手を、顎でしゃくって示すリーギル。それを聞いて、士は『へぇ~』と感心した。あまり分かっておらんな、此奴。
「挨拶は済んだか? じゃあ始めるぞ」
ウズウズした様子で健児はそう宣い、籠手に覆われた右腕を胸の位置まで上げた。右腕を真っ直ぐに伸ばし、掌を前に翳す。余った左手は、手首を掴んでそれを支えておる。
「は? 何を始め……」
「ホレ、危ないから下がんなさい」
理由を尋ねようとした士は、リーギルに引っ張られて後退。ドワーフ故、彼の握力は強い。決して振り解けぬ訳ではないが、彼の真剣さに圧された士は大人しく成り行きを見守る事にした。
「よぉ~し、良い感じだ……」
彼の掌中に、白い光が徐々に集まっていく。手の腹が向けられておるのは、巨大な岩。否、高い崖である。以上の動作を鑑みると、これから何が行われるのかが容易に予想が付く。
「ふむ、仕上がりは上々か。我ながら良い仕事をしたな」
リーギルが自画自賛する。驕りでも何でもない。事実、金属を扱わせれば、ドワーフの右に出る者は居らぬ。しかし、あの光は一体……? 彼等の何方か、或いは両方の手が加わっておるのであろうが、如何いう仕組みなのだ?
「っと、充填完了だ! いくぞぉっ!!」
それを言い終えるのとほぼ同時、健児の手の内に溜まったエネルギーが激しく発光。正しく光の速さで、白い尾を引いて崖まで一直線に伸びた。
「――!! これは……っっ!?」
当然ながら、この場に突っ立っておる我々が光線を知覚する事は不可能であった。直前と直後の光景からイメージするしかない。直前とは、先程の構えと溜めから。直後とは、前方に在った筈の今は跡形もなく消え失せた崖と、それから形成された岩石の山から。そして、反動で遥か後方に吹き飛んだ健児から。
「お、オイ! 大丈夫か?! タレちゃん!?」
「ゴホッ……! ブッ……!! だ、大丈夫だ」
立ち込める砂埃と誤って入ってしまった砂利に咽ながら、健児は返事をした。無事、の様だな。
「って何ドサクサにまぎれてアダ名で呼んでんだ! ブッ飛ばすぞっ!!」
「心配してやってんのにその言い方はねぇだろ! ブッ殺すぞっ!!」
「なぁにが心配だ! テメェには敬意が足りてねぇんだよっ!」
「ハッ! 敬意? 自分が尊敬に値する人間だとでも思ってんのか! ちゃんちゃらオカシイわ!」
論争再燃。だが既に、論点には大幅なズレが生じておる。それでも尚、額を突き合わせた二人の諍いは止まらぬ。
「やかましいっっ!!」
それを鎮めたのは一発の怒声。
「「グォッ……ッッ!?」」
及び実力行使。両手に一本ずつ握ったハンマー、それによる膝カックンである。自分達の意思に反し、強制的に膝を曲げられた二人は、ガクンと体勢を崩した。う~む、士はまだしも、健児に用いるのは拙かろうて。
「な、何するんですかっ!?」
「オヌシらがギャアギャアうるさいから止めてやったのだ」
「もっと他にやり方あんでしょうが!」
士も健児もリーギルに文句を打つけるものの、彼は悪びれた様子を見せぬ。いやまあ、悪いのは此方であって、彼方は間違った事をしておらんが。その手段は兎も角として。ただ、リーギルの強硬な手段もあって、二人の頭は冷えた。
「これで実験は完了した。上々だな」
「ああ、目標に一歩近づいたし、課題も見付かった。よし! 士、車に乗れ。帰るぞ」
籠手を外した健児は、それをケースに収納。リーギルと一緒に車へと歩いて行く。




