ベルトを開発したい男②
その様な事がありながら約二時間が経つと、三人を乗せた車は目的地に到着した。
「ここは……どこだ? なんか砂利とか小石があっちこっちにあるな……?」
見渡す限りの灰色が、降車した士を襲う。健児に連れて来られた場所は、広く凸凹した地形の多い所であった。その辺には、ゴロゴロと大小様々な形状の岩石が転がっておる。
(ん? いや、この場所どっかで……)
見た事がある。肉眼ではなく、ある物体を通して。
「なんか、テレビで観た……気がする」
「そりゃそうだろうさ。ここは、特撮でよく使われてた採石場だからな」
「あー、ってことは栃木か」
高速道路を走ったとしても、たった二時間足らずで東京から栃木まで行けるものなのか。おそらく、法定速度は守っておらんな。はてさて、それ程までに車を飛ばして来たこの場所に、一体何の用があるのだ?
「ここになんかあんの? つーか、入っても大丈夫なのか?」
「問題ない。ちゃんと許可は取ってる。で、だな、本題は……これだ!」
彼がゴソゴソとトランクから取り出したのはスーツケース。何処にでもある、何の変哲もない容れ物だ。これを見せ付けるだけならば、士や彼の部屋でも特区内でも良いものを、態々(わざわざ)この様な所に連行したその真意とは?
「クックックッ、まぁ見てろ」
健児は一つずつ留め金を外していく。興奮冷めやらぬ様子で、慎重に。爆弾でも入っておるのではなかろうな。
そうこうしておる内にケースは開き、彼は中の物を勢い良く持ち上げた。
「俺が見せたいのは……これだぁっ!!」
「ん~? これは、籠手?」
それは、一対の籠手であった。現代には似つかわしくない銀色に輝いておる。眩しい。
「フッフフッ、ただの籠手じゃねぇぞ」
少し笑い、健児はそれ等を装着する。だがその時、全く聞き覚えのない声がソレを制止した。
「待て待て待て!! まだ使うなよ!!」
「(――!! 誰だっ?!」)
壮年の男の声であった。其方を振り向くと、誰も居らぬ。不思議に思い、と視線を周囲に散らす途中で何かが目に映った。
(子供?)
目線を固定させると、士の腰よりやや高い位のヒトが立っておった。しかし、子供ではない。顔面がモジャモジャの髭で覆われておるのが、その直後に見受けられた。
(違う。この者は《ドワーフ》だ)
少し前に目を通した書物が、詳細を記しておったので参考にしよう。
《ドワーフ》とは、汎ヒト族の中でも人間に最も近いと云われておる《亜人》、その一種族である。
百二十~百五十cm位の低い身長に、ズングリムックリな体形。その見た目から酒樽に例えられる事が多い。顔面は髭に覆われており、同種でなければ見分けが付かぬ。
頑固で他人を容易に信じぬが、本性は誠実で義理を重んじる者が大半である。ただし、仇敵に対しては苛烈に攻撃しようとする。
ガッチリとした筋肉の塊であり、筋力にはとても優れておる。また、骨には金属が含まれており、非常に堅牢。よって肉体は頑強、かつ体力や持久力もかなり高い。更に、病気や毒への抵抗力も強く、アルコールで酔い難い。後述の理由から夜目も利く。ただし、神経は少々鈍い為、運動神経や反射神経、敏捷性は劣る。また魔術も不得手だが、一切使えぬ訳ではない。
手先が非常に器用で、数多くの強力な武具や優美な装飾品を造り出してきた。中には魔術を施した物もあり、それ等は時に《エルフ》謹製の物をも凌ぐ程である。特に、石を扱わせれば右に並ぶモノは居らぬ。それ等の証拠に、何百年もの間整備されずに放置された道具や建造物等が、そのまま利用・使用できる事もある位だ。また、その際に使用する鉱物を自ら採掘し、その遣り方も効率良く、そして上手い。
彼・彼女等は山岳を刳り貫く、或いは地面を深々と掘って住居を造る事を好む。採掘の仕事場を兼ねておるのだ。それは、洞穴や洞窟等という生易しい単語では言い表せぬ。何せ内部は非常に広大かつ雄大で、都市の様相を呈しておるのだ。更に、大層美しい装飾も凝らされておる。我も何度か赴いた事があり、士が知る日本一の地下街が霞む程の物であった。
寿命は人間よりも長く、二百五十年前後。中には三百年を生きる者も。
何故か男女の比率が大幅に偏っており、男の方が多い。女性はあまり表(人間社会等)に出て来ぬ故、ドワーフの男を頻繁に見掛ける事があっても、その逆は殆どない。また、女性が意中の相手と添い遂げられぬ場合、独身を貫く事も珍しくない。その為、婚姻率が低く、種族全体の数も少なくなってきておる。ただその反面、最近ではハーフが増えてきた。
自動車を運転しておったのは彼である。よくアクセルやブレーキに足が届いたな。
「すみません、待ちきれなくて」
「フン、せっかちにも程があるわい。製作者であるワシを差し置いて実用試験など……オヌシはもっと辛抱することを覚えた方が良い」
親しげに話す二人に、士は呆気に取られるばかりだ。そんな此奴に向き直り、ドワーフが唐突に声を掛けてきた。




