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デビル・ミュータント  作者: 竹林十五朗
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第2話:危険なアルバイト

 早朝、呼び鈴が鳴った。

(おい士! 起きろ! オイ!)

「……あ? んだよ、まだ六時じゃねーか。今日は日曜だから起きんのは七時半だぞ」

(違う! 来客だ!)

「うぅ~メンド臭せぇ……」

 士が幼少時の旧友と再会し、そしてマンティコアに襲われた日から数日が経った。本日は日曜日。本来であれば、士が言った通り朝は七時半に起き、ヒーロータイムを楽しみたい。だが如何(どう)やら、それは諦めた方が良さそうである。

「ったく。休日のこんな時間に。誰だ?」

 掛けてあった鍵を外し、用心の為にチェーンは掛けたままガチャッと扉を開ける。

「はい? どちらさん?」

「石森 士さんでいらっしゃいますか?」

「はい? そうですけど、どなた?」

「休日の早朝に申し訳ありません。私、《X-SEED》の沢渡(さわたり) (さくら)と申します」

「えく、しーど? の沢渡さんですか?」

 X(未知)と、SEED(種)?

 扉を少しだけ開け、来訪者の顔を確認すると、これまた大層な別嬪さんであった。それもフォーマルなスーツをビシッと着こなし、後ろで()い上げた髪の下から覗く(うなじ)(なん)とも言えぬ魅力を放つ知的な眼鏡美人である。美輝が“可愛い”から“綺麗”に至る途中であるとすれば、この女性は只管(ひたすら)“美しい”という言葉が相応しい。

(士よ! この女、かなりの美人ではないか!)

(今それどころじゃねーから黙ってろ!)

「はい。今日は四月八日に起こった、とある事項に関する事で参りました」

(し、四月八日って……! お、おい! まさか……!)

 突然現れた美女に、思いも掛けんワードを聞かされ、酷く狼狽(うろた)える士。

(慌てるな! まだバレた訳ではない! あの時、周囲の人間は気絶していたか、錯乱しておった筈……! 目撃者は()らん、筈だ!)

(そ、そうだよな……)

(こ、此処(ここ)は平静を装ってこの女の話を聞こう。全てはそれからだ……!)

 (かく)言う我もかなり焦っておった。あの騒動の最中(さなか)、士が悪魔化するところ、或いは解除するところを見た者は、確かに()らんかった。少なくとも我等の視界内には。

「ま、まぁ、立ち話もなんなんで、中に入って下さい」

「お気遣い、ありがとうございます。それでは、御言葉に甘えさせて頂きます」

 士は一旦扉を閉め、チェーンを外し、沢渡 桜と名乗った女性を部屋へと招き入れた。まずは彼女の話を聞く。全てはそれからだ。

「お邪魔します」

「その辺に適当に座って居て下さい」

「はい」

 その言葉を受け、沢渡はダイニングテーブルの椅子に着席。手にしておったバッグを床に置いた。

「お茶です」

 士は彼女に、温かい焙じ茶を沢渡に差し出した。この部屋にはコーヒーは置いておらんからな。

「ありがとうございます」

「で? 俺になんの用ですか?」

「その事ですが、四月八日の午後四時頃、五摩通りで大きな事故が遭ったのは御存知ですね?」

「ええ、まあそこに在るカフェに居ましたので」

 ふむ。世間では如何(どう)やら事故として処理された様だな。まあ、マンティコアの様な異形の存在を、今の人間界で公表できる筈もないしな。隠すのは当然の処置と言えよう。

「そうですか。では単刀直入にお伺いします。あの時あの場所に居たマンティコアを始末したのは貴方ですね?」

 な?! 何故それを知って……!?

(ど、ド直球過ぎんだろ!?)

(お、落ち着け! バレると色々と不都合がある。ここは(とぼ)けろ)

(あ、ああ。分かった)

「は、ハハハッ。ま、マンティコアですか……。そ、そんなの居るワケないでしょ? マンガとか、映画とかでしか見たことありませんよ?」

 士は焦燥しておるのを必死で隠しながら、そう誤魔化した。かなり下手であるが、仕方がない。この調子で乗り切れれば良いが。

「あの店に居てマンティコアを目撃していない等、考えられないのですが」

「いや、でも、見てないんで」

「そうですか。あくまでとぼける気ですか」

 何故だ? 彼女は如何(どう)やら士がマンティコアを倒した事について確信がある様だ。

「トボけるも何も、そんな居もしないモノを始末した、とか言われても……」

「では、これを御覧下さい」

 と、彼女はiPadを取り出し、とある映像を再生させた。

 ――――『ガアアアァァァァァッ!!』――――

「――!!」

(こ、これは……!!)

 iPadに映し出されておったのは、巨大なマンティコア、か? いや、それだけではない。それと対峙しておる士が悪魔化した、正にその瞬間も映像として残されておった。

「お分かり頂けましたか?」

(お、おい! ガッツリ映ってんぞ!?)

(く……! この女……! 始末するか……!?)

(んな事できるかっ! いや、でも……!)

 この女、一体、如何(どう)いう心算(つもり)だ。何が目的なのだ。口封じの為に殺すか否かを真剣に考え、士もそれに乗り掛かろうとした。我ながら短絡的だな。

 しかしその時、彼女が思いも掛けん事を言いおった。

「そんな怖い顔をなさらないで下さい。貴方の正体がなんであるか、我々には関係ありません」

 そう言い放った沢渡に、不思議と嘘は感じられんかった。隠すのが上手いだけかも知れんが。

「実は、貴方の御力を貸して頂きたいのです」

「…………」

 士は沈黙を貫く。

「貴方も目撃した通り、地球上には大多数の人達には知られていない奇々怪々な生物が多数実在しています」

「はぁ……?」

 沢渡のその言葉に、どの様な反応をすれば良いのか分からん士。ただただ、曖昧な単語が吐息と共に漏れた。

「そして、それらの生物は必ずしも人間に対して友好的とは限りません。勿論、友好的な種もいますが」

「そうですか。で、そいつ等を退治するなり、保護するなり、なんなりする手助けをして欲しいって事ですか?」

「はい。その通りです。ですが、力を貸して頂きたい理由はそれだけでは御座いません」

「他に何かあるんですか?」

「はい。実は、こちらが本題なのですが、石森さんは“ミュータント”あるいは“超能力者”と呼ばれる人種が存在することは御存知ですか?」

 ああ、御存知だな。というか、貴様の目の前にも()る。まさか気付いておらんのであろうか。それならば、今し方、彼女が言った事の真意は何だ。

「い、いや知りませんね。で、でも、マンティコアみたいなのが実在するんなら居てもオカシク無いですね」

「はい。彼らは、数は多くありませんが、実在します。そして、その力を悪用する者が多いのです。我々の組織は、先ほど申し上げた妖怪や怪物といった一般には知られていない存在の退治や保護の他に、ミュータントあるいは超能力者の犯罪者を捕えることも生業としております」

 彼女は一気にそう叙説した。う~む。やはり士がミュータントである事は気付いておらんのか? それとも知っておきながら()えて黙っておるのか? 先程も士の正体なんぞ、如何(どう)でも良さげであったしな。

「はぁ、そうですか」

「そして、そういった者たちは心無い人々に虐げられる事も多々あるため、彼らの保護も行っております」

 はあ~~保護なぁ。此奴(こやつ)等がその虐げている輩なのでは? これは邪推し過ぎか。

(おい士。此奴(こやつ)、何か胡散臭いぞ)

(う~ん、俺もなんかそんな気がしてきた)

「我々の組織にも何人か居ますが、正直全く人手が足りていないのが現状です。そこで、貴方に力を借りたいと、こうして自宅まで御伺いした次第なのです」

(話はだいたい分かったけど。おい、どうする?)

(話にならんな。早々にお引き取り願え)

 斯様(かよう)な奴に関わると(ろく)な事にならん、と我の七千年分の経験で培われた勘が告げておる。

「申し訳ありませんが、俺では力になれそうに……」

 態々(わざわざ)家まで来て貰って悪いが、士が断ろうと口を開いた。

「勿論、それ相応の報酬も用意しております」

 ――!? おっと、沢渡の申し出に、思わず揺れてしまった我が心。大丈夫、少しだけであるから。

(おいお前! 今ちょっと揺れただろ?!)

(そ、その様な事はない!)

(嘘付け! 感情の揺れがハンパ無かったぞ!)

 だが、士にはしっかりとバレてしまった。

(うっ……! ち、(ちな)みに幾ら貰えるのか聞いてみてくれ)

(やっぱ揺れてたんじゃねーか)

「あ、あの報酬っていうのはどれぐらい……?」

 そう言いながらも、士は報酬の額を聞く。やはり此奴(こやつ)も金は欲しいか。士の親からの仕送りを“趣味”に使うのは我が多いが、買った物は士と共有。別に我が士の金を一方的に使い込んでいる訳ではない。それに金は幾らあっても困るモノではない。

「そうですね。時給で言えば、十万円ぐらいでしょうか」

「じゅ、十万ですか?!」

 ほう、時給十万。一体どの様な仕事をさせる気なのか。

「ただし、諸経費込みですし、その分危険も伴いますけどね。一応、危険手当も付きますよ?」

 士は金銭の誘惑に負けそうである。

「危険って言うと、マンティコアみたいな奴、ですか?」

「いえ、あれほど強力で危険な怪物は、滅多に人前には現れません」

(あれよりはマシ、か。じゃあ大丈夫かな?)

 士は沢渡の言葉を聞いて、安堵の表情を浮かべる。

「しかし、マンティコアよりも危険な怪物、或いは人間と対峙する事も稀にですが、御座います」

 マンティコアより危険な人間……想像も付かんな。

(そうか。う~~~ん、どうしようかな?)

(……士、この仕事受けろ)

 (しばら)く考えた(のち)、我は士にそう意見した。

(え? お前まさか金に目が眩んで……)

(それは否定出来んが、考えてもみろ。今の貴様をどうこうできる奴なんぞ、そうそう()らんぞ? これ程オイシイ仕事はないのではないか?)

 士の失礼極まりない暴言は確かに否定せんが、後半の考えも偽らざる我の本心である。

(そりゃまぁ、そうだけど……)

(もし貴様だけでは手に負えん奴と遭遇したとしても我が協力してやる。そうそう面倒な事にはなるまい)

(テメーが一番金使うんだから、手伝うのは当たり前だ。……でも、確かにオイシイな。一応、人助けにもなるみたいだし、このバイトは俺にピッタリかもな)

 士は腹の内が決まったのか、正面に座る沢渡にこう告げた。

「分かりました。アナタの、その、エクシード? ですか。そこで働きます」

「そうですか。そう言って頂けると私共も助かります」

 その答えを聞いた沢渡は、ホッとした様な雰囲気を出しておった。此処(ここ)に来て、初めて気を緩めた瞬間であったな。すぐに引き締めたが。

「では、来週の日曜日の午前十時にこちらの住所まで御越し下さい。詳しい説明はそこで。あ、その名刺は通行証の様な物なので、当日は持って来てください」

 沢渡は懐から名刺らしき物を士に渡す。其処(そこ)には《X-SEED》という組織の名前と住所、そして彼女の氏名が記載されておった。

「それでは私はこれにて失礼致します。本日は色良いお返事を頂きまして、誠にありがとうございました」

 と、彼女は一礼して部屋を後にした。うむ。去り行く後ろ姿も実に優美だ。

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