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デビル・ミュータント  作者: 竹林十五朗
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第13話:ベルトを開発したい男

 今、終わりを告げる鐘の音が響いた。

「はい、じゃあ、エンピツ置いてぇー」

 教壇に立つ、不正を防ぐ為に配置された教師も終了を宣言。それと共に、安堵と諦観が入り混じった声が一斉に教室、いや校舎中で上がった。

「終わった……」

 勿論、此奴(こやつ)もその内の一人である。列の最後尾に座る者達が解答用紙を回収すると、机に突っ伏した士。今し方の発言は良い意味で用いたが、それも美輝の協力があってこそ。感謝、感謝。

「なぁ石森、どうだった?」

 暗い顔をした加賀美が、隣の席から訊いてきた。

「たぶん赤点は避けられてると思う。お前は?」

「俺もだい、じょうぶだと思う。つーかこのガッコー赤点の基準高すぎんだよ!」

「たかだか六十点だろう? 授業を聞いていればそれぐらい取れる」

 そのまた隣の席の天道が眼鏡を(きら)めかせ、さも何でもない事の様に振る舞う。

「まぁ、一年の一学期の中間考査なら自宅学習をしなくとも九十台は堅いな」

 更なる余裕を見せる天道に、悔しさからギリッと歯軋りをする士と加賀美。直後、離れた席に座る美輝が此方(こちら)に歩いて来た。

「士クン、どうだった?」

「俺にしちゃ上出来、かな。光のお陰で」

「ホント? だったら嬉しいな」

 微笑む美輝。見惚れる士。そう、我々は今、高校に入って初となる中間考査を乗り越えたばかりなのである。先日、彼女が引き受けてくれた試験勉強。その時の懇切丁寧な授業は、士の学力の低さを大いに補ってくれた。惜しむらくは二人きりでなかった事か。

「ま、あたしたちも教えたしね」

「はい、お二人ともとっても良い生徒でしたよ?」

 白木と風白も接近し、会話に加わった。この一週間、オリエンテーリングの同班六人で、図書室にて勉強会を行ったのである。士に、一緒に勉強ができる程の友が作れた。これより嬉しい事があろうか。いや、沢山ある。ただ、五本の指には入るな。

「はいはい、ありがとさん」

 皆に、加賀美がぶっきらぼうに礼を言う。何の事はない。ただの照れ隠しである。続いて士も礼を述べた。彼等からは『どういたしまして』の声はない。お互い様なのだ。士も数少ない得意科目を教えた。皆との割合は全く異なるが。

 さて、七面倒な試験も終わり、折角なので週末にでも何処(どこ)かへ遊びに行こうかと話し合う六人。しかし、美輝が隣のクラスの彼奴(あやつ)()も誘おうかと士に話したその時、荒々しく扉が開いた。

「士ぁっ!!」

 健児である。試験が終わって早々、階を跨いで走って来たのか。

「お兄ちゃん!?」

「美輝っ! ちょっとこいつ借りんぞ!! お友達もイイか?!」

 妹と他の四人にも許可を求める先輩。

「え、ええ、どうぞ」

「あ、じゃあ、決まったら連絡するわ」

 天道と加賀美から認可が下りた。電話番号とメールアドレスは、勉強会の時に交換済みである。

「あ、ちょっとお兄ちゃん!?」

 美輝はまだ戸惑っておる。

「ワリィな!」

 だが健児はそれを無視し、士の鞄と首根っこを掴んで奪取&ダッシュ。一目散に廊下と階段を駆けて行く。引き()っての運搬とはいえ、やはり腕力は中々に高い。

「おい! どこ行くんだよ!?」

「来てくれりゃ分かる! つーか疲れた! テメェで歩け!」

 ただ、体重が百五十kg前後もある士を片腕で運ぶのは、流石に無理があった様子。校門に辿り着く前で手を放した。

「ウッ……! り、理不尽すぎんだろ!!」

 尻餅を()く羽目になった士は、健児のあまりの言い草にムカッ腹を立てる。立ち上がって彼の手から鞄を()手繰(たく)ると、腹癒(はらい)せに脇腹を小突いた。勿論、手加減はしておる。

「グッ……!! ま、まぁ、悪かったとは思ってるよ。スマン」

 健児の謝罪を受け、士は気を取り直して尋ねた。

「んで? なんの用なんだ? テスト終わってすぐにこんなマネまでして」

「あぁ、それは道中説明する。とりあえず乗れ」

 そう言って彼が指差した先、校門の前には、一台の自動車が停まっておった。タクシーではない。まあ、何でも良い。二人が広い後部座席に乗り込むと、顔も分からぬ運転手がアクセルを踏む。そして、車はとある場所に向かって発進した。

「ホレ、説明してくれよ」

 士はシートベルトを締め、健児に訳を問い質した。いや待て、待て。彼が此処(ここ)までするという事は、もしかすると急を要する事態なのかも知れん。彼方(かなた)の街でゾンビ共が徘徊しておるのか。それとも此方(こなた)の島で鬼が暴れ回っておるのか。

「自慢したいモンがあるんだ」

「クソしょーもない理由だな」

 全然違った。真面目に推測した自分が恥ずかしい。

「しょーもなくない! 見たらお前も絶対興奮するって!!」

 凄い熱意である。何が彼をこれ程までに駆り立てるのか。

「まだ、完成には程遠いけど一区切りついてな。美輝はこういうのには興味ねぇし、彩香もそれは同じ。仕事仲間の大半は忙しい。他の奴にも見せらんねぇ。ってことで真っ先にお前に見せてやるんだからありがたく思えよ!」

「あんた有難迷惑ってコトバ知ってるか? ってかただの消去法じゃねぇか!」

 口ではそう言いつつも、内心なんやかんやで気にはなっておる士。故に、再度訊く。

「ハァ。で、何を見せびらかすつもりなんだ?」

「まぁまぁ、それは着いてのお楽しみってことで」

「ここにきて勿体ぶってんじゃねぇよ! 言えよ!」

「嫌だ。つーかテメェさっきから何タメ口きいてんだ? 俺ぁ先輩だぞ!」

「今さら先輩ヅラしてんじゃねぇよ! あとタメ口はだいぶ前から使ってんだよっ!」

 我にはイマイチ意味が分からぬ理由で、二人は喧嘩を()(ぱじ)めた。両者は暴力に訴えこそせんかったが、代わりに罵詈(ばり)雑言(ぞうごん)を浴びせ合っておる。流石に、車内で暴れるのは危険だと分かっておる様だ。それに引き換え、前方の運転手はというと、騒々しい後部座席の事なんぞ気にも掛けておらん。己の業務をただただ全うしておる。ハンドル(さば)きに一部の乱れも無い。

 それから程なくして、言い争う事に飽きた二人は、グッタリと()(もた)れに体を預けた。以降、何方(どちら)もこの件には触れず、そのまま有耶無耶(うやむや)に。というか、人間は歳が高々一年違うだけで、とやかく言い過ぎだと思うがね。

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