戦いは終わる④
喜べ。死んだと思っておった友が生きておったのであるから。
(殺す気満々で攻撃してきてたけど?)
その件に関しては先に此方が一発腹にキメた故、おあいこだ。
【……ちとそのまま待機しといてくれ】
思案後、そう言ってブルースは他の三人と連絡を取り合っておる。釈然とせん訳ではないが、旧友の誼として大人しくしておくか。珍しく、士も不平を言わん。
(なぁ、あれって無線みたいなモン?)
(ああ、奴の耳にイヤリングが付いておろう? 有効範囲内であれば、あれで離れた仲間との脳内会話が成立する。それも複数人の間で)
奴がお洒落であの様な物を身に着ける筈がないからな。
(テレパシーの応用か)
(そうだ。以前と比べて察しが良くなってきたな。もう理解しておる様であるから説明はせんぞ)
(いや、一応頼む)
(あー、今は時間がないからまたその内な)
周りが無音になってから数分後、戦線を離脱しておった三人が集合したのだ。
(応援の要請だったのか?!)
否、奴等に攻撃の意思は感じられん。その証拠に四人で会議を始めた。
(そもそも、己の部下に救援を求める様な奴ではないわい)
仮に、ピンチに陥ってもせぬであろう。
(なんでワザワザ集まったんだ?)
(電話で長々と会話する位であれば、直に会って話した方が早いからな)
アレを用いればタイムラグは発生せぬし、以心伝心を実現できる。だが、心の中での通話とは意外に負担となるモノだ。教えとうない事まで聞かれてしまう。更にそれを隠そうとすればする程、ドツボに嵌る。
(なぁ、今なら逃げるなり後ろから襲撃なりできんじゃね?)
(いや、あの四人を同時に相手するのは流石にキツい。大体、その様な卑劣極まる行為をする気もない。それに見ろ)
(ん?)
四人が四人とも我等に背を向けておる。だがブルースの尻尾、蛇頭が此方を見張っておる為、逃亡も奇襲も不可。それを確認すると、士も仕方なく不埒な真似を諦めた。
「えぇ~っ!? そりゃ無いっすよぉっ?!」
突如、大声で不満を主張したのは緑髪の射手。服装が変わっておるな。黒くない。
「確かに。今さらその様なことをおっしゃられても納得できかねます」
剣士も、何やら得心がいかぬ様子。
「でもボクらコイツに負けてるんだから何も言う資格ないよね」
「「ん~っ、言われてみればその通りだ」」
(説得されんの早っ!)
暗殺者に核心を突かれ、二人はそれ以上文句を口にする事はなかった。
「はぁ、しゃーねぇ、帰るとしますか」
「明日も早いしね。一時間目は体育だし」
「チッ。あークソ、また手ぇ抜かなきゃなんねぇのか」
「そ、それでは、お先に失礼します」
王の御前とは思えぬ態度を取る、不逞な暗殺者と射手。その二人に成り代わり、剣士は焦燥混じりに恭しく一礼。己の非礼を自覚した二人も、それに続いてブルースに頭を下げ、礼儀正しく挨拶をした。
「うむ、気をつけて寄り道せずに帰るのだぞ」
奴はそれに対し、特に咎めもせず優しく送り出した。
「「「はーい」」」
元気良く返事をし、帰路に就く三人。宛ら小学生と教師の様な間柄である。
(え?! 帰んの!?)
あまりにも展開が早過ぎて、士は付いていくのがやっとである。
「ったくよぉ~。やってらんねーってぇの。あ~っ、メッチャ消化不良だわぁ~」
決着が付かずに解散と相成ったからか、射手は不満タラタラである。
「それよりも来週から中間テストが始まるワケだが、オマエたち大丈夫なのか?」
「っあぁっ!! やっべ! なんもやってねぇっ!!」
「はぁ~、せっかく忘れてたのになんで思い出させるかなぁ~?」
「忘れてどうするんだアホどもめ。……オレも他人のことを言えないか」
奴等の間で交わされる他愛のない、何処にでもある遣り取りが段々と遠ざかって往く。それを見送ったブルースは、怪物から人間の姿へと戻った。
【オイオイ! せっかく出てきたのにそりゃねーぜ!?】
【そうですよ! これでは甲斐が無いではありませんか!】
途中で雄牛と牡羊が騒いだが、奴はそれを無視。抗議の声は、口が肩に埋没する間際まで聞こえた。ふぅ、これでやっと静かになったわ。
「あ~、戦闘は老体には堪えるわい」
ブルースは爺むさい事をボヤきながら、腰をトントンと叩く。戦闘狂と雖も寄る年波には勝てんか。その割には、意気揚々といった風であったが。
む? 奴が虚空から何かを取り出したぞ。
「オマエさんも着ろ」
そう言って、奴が投げて寄越したのは着衣一式であった。靴もある。
ブルースは特注のソレを手早く着ていく。我も奴に倣って悪魔化を解き、いそいそと着込んだ。
実に有難いのだが、一点、気掛かりな事がある。これ、新品か?
「そう怪訝な顔をするな。安心せい。買ったばかりの物だ」
((良かったぁ~))
その一言で我等は安堵し、服を着る速度をアップさせた。
(すげぇモヤモヤとか、やり切れなさとか残ってるけど、積もる話もあるみたいだから俺寝るわ。終わったらまっすぐ帰れよ)
空気を読んだらしい士が、自ら眠りに入った。
(うむ、気を遣わせて悪いな)
(スゥ……)
もう寝たか。まあ、肉体はまだしも、精神的な疲労は溜まっておったであろうしな。ゆっくり休むが良い。明日も授業、
服を着終えた我々は、改めて対峙した。ただし、今はお互いに敵意はない。
「まぁ座れや」
ブルースが勧めたのは切り株。奴はというと、己で組み上げた丸太の山にドカッと腰を下ろした。




