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デビル・ミュータント  作者: 竹林十五朗
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第9話:月下激突

 真夜中、遥か頭上に()す月がこの国を照らす。だが、この森に()る三人には届かぬ。木々が遮り、炎という別の光源があるからだ。

 士は地に伏せ、その(かたわ)らには我の同胞(はらから)たる悪魔が二人。それと、此処(ここ)から離れた場所にもう一人、矢を(こしら)えながら待機しておる。

(もうそろそろだ)

 横たわっておる間に、矢とナイフが刺さった尖端から怪我の治癒が始まった。内側から徐々に肉が盛り上がっていく。十秒も経たずに跡形もなく修復し、同時にそれ等を外へと押し戻した。まるで井守(いもり)だ。

 ただ、斬られた腕は生えて来ぬ。先述の通り、士の再生力は井守(いもり)と同等、いや高確率でそれ以上であると見受けられる。眼球が元に戻っておるのに、腕が再生せぬという事はなかろう。もしやアダマンチウムの所為(せい)か? あれは士の体内では生成できん。故に再生が始まらんのではないか、と推察する。

 後はヒュドラの毒であるな。此方(こちら)も、持ち前の異常な免疫機能によってもうすぐ排除されよう。辛抱せよ。

(気付かれてないな?)

(大丈夫だ。此方(こちら)を向いておる様子はない)

 彼奴(きゃつ)()も悪魔である故、暗闇で視界を確保できるが、今の士は(うつぶ)せになっており、後頭部を見せておる。見えはせん。更に、下は土の上に落ち葉が積もっておる故、矢やナイフが落ちても音はせんかった。その事に気が付くのに、(いま)(しばら)くの時間が掛かる筈である。

(つっても、やられっぱなしはゴメンだ。あの仮面たたき割って顔面ボッコボコにしてやるっ!)

(二人共?)

(三人とも!)

 あー、射手も見つけ出す心算(つもり)か。ふむ、この二人を人質に取れば(おび)き出せるかね?

(そんな簡単な相手じゃなさそうだぞ)

(だが、やるのであろう?)

(当然!)

 だが(しば)し待て。今、下手に動けば、余計な関心を買う(おそれ)がある。折角、『動かぬ』と思ってくれておるのだ。この機会を利用せぬ手はない。毒もそろそろ抜ける。

(ふぅ、さて、どうしよう?)

(何の考えもなしに息巻いておったのか……)

 と、我が士の間抜け振りに呆れておると、風向きが変わった。それも良い方に。『果報は寝て待て』と言うが、こういう事ではない気がする。

「あっ、ナイフ回収しとかないと」

 暗殺者がそう言って此方(こちら)に向かって来たのだ。シメシメと北叟笑(ほくそえ)み、待ち構える士。ところが、警戒心の強い剣士が彼の軽率な行動を(たしな)めた。

「オマエ、話を聞いていたのか? 不用意に近付くな」

 音が聞こえた。恐らく、暗殺者が剣士に襟首か手首を掴まれたのであろう。それを察し、士は心中でこう毒突いた。

(チッ! 余計なことしてんじゃねーよ!)

 不本意な形で強制的に止められた奴は、その手を払いながら悪態を()く。

「え~?! でもあのナイフすっごい高かったんだよ!?」

「後にしろ。それに、オマエはまだ良い方だ。オレなんか持って来た剣、ほとんど壊れたんだぞ」

 ふむ、まだ武器は手元に残っておると。

「別に良いじゃん! どうせ大量生産の安モンじゃん!」

「それが何百本も集まれば、なかなかの値段になるんだよ」

 総額は、日本円で換算すれば数百万円といったところか。余程裕福でもない限り、かなり痛手となる出費であるな。

(でもこいつ金持ちっぽいなぁ~)

 損失の割に悲壮感を感じられんしな。だが、今は如何(どう)でも良い。事態が悪い方向へ転がったのだ。

「だいたいなんであんなモノ使ったのさ。ぜんぜん効いてなかったじゃん」

「いちおう強化の魔術はかけていた。あまり意味はなかったけどな」

 フン、一山(ひとやま)(いく)らの鋳造の刀剣に、精度のある強化の魔術を施そうとも、我の皮膚を斬ったり貫いたりは出来んよ。……いや、それでは腕を斬られた事実は如何(どう)すれば説明が付く?

「とりあえずトドメだな」

 剣士はそう言うと何処(どこ)かへ歩いて行く。それ程離れておらぬ所で立ち止まったと思いきや、樹木が根元から引き抜かれる音がした。

「念のため頭を潰しておこう」

 斬撃や刺突は効果が薄いと見て、打撃に切り替えたか。それ等は、人間状態であれば多少は有効であるが、此奴(こやつ)()がそれを知る(よし)もない。何より、士の肉体は(むし)ろ打撃や衝撃に強い。好都合だ。風は我等に吹いておる。

「フンッ!!」

 いやそうでも無かったわ。

(グッ!? ウッ……?!)

 剣士は木を士の頭へと目掛け、叩き付けた。今の今までその辺に生えておるだけであった木は、奴の手によって突如凶悪な鈍器と化し、我等に牙を剥く。

「ンンッ!! ムンッ!!」

 五回。奴が木を鈍器として用いた数である。それと同じ数だけ、士の頭は地面に減り込んだ。声を押し殺し、それを耐え抜く。負傷に、ではない。痛みと屈辱に、である。

「ふぅ、これで良いだろう」

 抱えた木を脇に放り出し、剣士は溜息を一つ()いた。

(お、終わったか?)

 大したダメージはないとはいえ、少し痛む。目も鼻も使えぬが、土埃が濛々(もうもう)と立ち込め、木の葉が飛散しておるのを露出した片耳が辛うじて捉えた。

 それと、此処(ここ)で朗報を一つ。ヒュドラの毒がやっと解けた。完全に。これで万全の状態で動ける。十全の力を発揮できる。

(あとはタイミングだけ)

 それは何時(いつ)だ? 奴等が士の死亡を確認しに近付いた時である。向こうも気は張っておろうが、仕留めたとは思っておる筈。ならば、それは必ず緩み、何処(どこ)かに油断は生まれる。それを突く。

(突けるかな?)

 突け。やらねば話にならん。っと、そうしておると、二人が此方(こちら)に歩を進めて来よったぞ。

「ねぇ頭つぶしたんだから、もうナイフ取って良いでしょ?」

「ああ、好きにしろ」

 剣士の許可が下りた事で、暗殺者は急いでナイフを取りに来た。それ程までに大切な物か。幾らしたのか知らんが、その執着心、逆手に取らせて貰おうか。

「あれ? 抜けてる? 衝撃で落ちたのかな……」

 己の予想とは異なる光景が其処(そこ)にはあった為、奴は怪訝(けげん)に思った。しかし、その事をあまり深くは考えず、ナイフを拾い上げようと手を伸ばす。それが薄く開けた士の目に移った。

(今だっ!)

 用心を怠り、隙を見せまくっておる暗殺者を突き刺すべく、尻尾を生やそうとする士。ところが、何か勘付いたらしい剣士が裂帛した声を発した。漏れ出た殺気を気取られたか!?

「――!! 下がれっ! まだ生きてるっ!!」

「――!?」

 それを聞いた暗殺者は、超人的なまでに素早い反応を見せ、その場から跳び退()いた。士は限界ギリギリの速さで尾のみを魔人化させ、奴のドテッ腹へ伸ばす。だが、先の行動によってかわされてしまった。

「グッ……ッ?!」

 いや、完全に避け切れはせんかった。狙いは逸れたものの、尾の尖端は奴の太腿を貫いた。負傷した箇所を押さえ、フラ付きはすれども、暗殺者は士から距離を取る。それを視認する事なく、士は即座に弾けるが如く立ち上がり、同時に悪魔化。

「――ッ!!」

 仲間の危機を目の当たりにし、剣士は得物を抜き払いながら此方(こちら)に駆ける。しかし、士はそれには目もくれず、とうに位置を確認済みの腕を取りに全力で走った。奴は僅差で追い付けぬ。出だしが遅れたにも(かかわ)らず、結構な速さの持ち主である。疲労が溜まっておる筈であるのに。

【っと!!】

 士はそれを掴むや否や切断面に押し付ける。すると靭帯や筋肉、神経や皮膚までに至る全てが瞬く間に接着。手を開けて閉じて確かめる。再び普段通りに動かせる様になった。

(よし! これで準備できた! 後は、ん?)

 改めて、剣士と暗殺者を見据えると、其処(そこ)には剣を構えた奴が一人。

(剣士だけか? もう一人は?)

 ふむ、脚に怪我を負った事で満足に動けぬ故、目の届かぬ所に隠れたか。加えて、そもそも戦闘が本分ではない事も一因であるな。奴が本当に暗殺者なのであれば。

【もう一戦、やるか?】

 これまで、一言たりとも会話の無かった両者。何の心境の変化があったのか、此処(ここ)にきて対話を試みようと思い、士は己から話し掛けた。

「ああ、オマエが抵抗するならな。それがオレの仕事だ」

 剣士はそれに答えた。仕事、という事は誰かに命じられて、或いは依頼されての行動か。

【悪魔に襲われる理由はないぞ?】

 奴に事の真意を問う士。

「理由ならある。その“力”は人間には過ぎたモノだ」

「(チカラ?」)

 もしやキュアファクターの事か? 確かにアレは、人間から見れば行き過ぎた能力・特性かも知れんが、だからといって悪魔に関与される謂われはない。いや我も悪魔であるが。

「まぁ、なんでも良い。とにかくオレたちは与えられた役目をこなすだけだ」

 奴はそう言うと、間髪入れずに斬り掛かって来た。話し合いの余地はなし。

(最初っからそんな気ないだろ!)

(あー、問答無用で急襲を仕掛けてきたものな。それも街中で)

 言葉ではなく、二人は三度(みたび)、剣と拳を交える。しかしながら、今までとは明確に異なる点がある。この者が先程見せたあの鋭い斬撃を恐れ、今一歩、士が奴の懐へ踏み込めずに()るのだ。

 更に、姿や音どころか奴の存在、それ自体を感じ取れぬ暗殺者に怯えておる。首から抜け落ちたナイフも何時(いつ)()にか消失。剣士に気が向いておる内に拾われたか。こうしておる瞬間にも、息が掛かる位に迫り、奴が機会を見計らっておるのかと思うと気が気ではない。

 とてもではないが、先刻までの様には出来ぬ。それに怪我がすぐに治るとはいえ、痛覚までもが消えた訳ではない。また、刺されれば(しばら)くは呼吸も苦しくなる。それ等が()()ぜになった恐怖心が、士の拳を更に鈍らせる。

 更に更に、士が攻めあぐねておると、何処(どこ)からともなく様々な効力を宿した矢が飛んで来る。『弱り目に祟り目』とはこの事か。この短時間で、矢は補充できた様だ。

【あーもうチマチマとウゼェ!!】

 この射手が行う援護射撃が、絶妙なまでに鬱陶(うっとう)しい。これ程密着しておるというのに、剣士には一切当たらんのだ。的確に士だけに射掛けておる。士の苛々(いらいら)は(つの)る一方だ。だが焦りは禁物。向こうはそれが狙いである。付け込まれるぞ。そう士に忠告しようとした矢先、モロに付け入られてしまった。遅かったか!

【グッ……!】

 矢に気を取られ、剣士が繰り出した突きに士は反応できず、右腕を貫かれた。奴はその時に生じた隙を見逃さず、続けて左腕も。抜けぬ。封じられた。堅い皮膚を易々と貫通させたのは、先程と同じ方法か。

【フンッ!!】

「ゴブッ!」

 剣士は士が動けぬ様に、両手の剣をしっかと握る。しかし、先の戦闘で負った怪我、常人であればそれこそ死にかねん筈の負傷により、ようやっとアドレナリンやβ-エンドルフィン等が分泌し出した。故に、士はそれ等を意に介す事もなく、奴を自慢の脚力で蹴り飛ばした。奴の肺から空気が排出され、脚には肋骨が折れた感触がする。

【ク……】

 存在を隠匿した暗殺者は、まるでこの展開を見越しておった様である。士が蹴りを放つと同時に、またもや背後から忍び寄った彼奴(きゃつ)の手により、ナイフが突き立てられた。今度は脇腹である。これにも何等かの毒物が塗布されておろう。恐らくヒュドラ以外の物がな。

 再度、危機に陥ったと思いきや、士の口から発されたのは高笑いであった。

【……ク、ハハハハッ! 同じ手は食わねぇぞ!】

 両腕を貫いた剣を抜きつつ、士は高らかに叫ぶ。よく見ると、腹には切っ先から少しだけしか刺さっておらん。ナイフが通らぬ様に、士は(あらかじ)め腹筋に力を入れておったのだ。

「だろうね。だから今度は……」

 否、違う。それだけが理由ではない。刺さる時の力そのものが弱かった。今の奇襲は(じか)に刺突したのではない。離れた所からの投擲だ。その証拠に、暗殺者の声に焦燥や驚愕の色はない。(むし)ろ、『上手くいった』と心の中でニヤけておるのが容易に想像できる声である。

(背に重さが! 来る!)

 先程と似た状況。士はとある考えを実行した。

「耳だ……!?」

 その言葉を最後に、士の片耳は聞こえぬ様になった。その言葉を最期に、暗殺者の声は残った耳にも聞こえぬ様になった。

【グフッ!! だ、だから言ったろ? 同じ手は食わないって】

 鼓膜を破られ、内耳を激しく傷付けられた士は呻きながら片膝を着いた。其処(そこ)には『してやったり』という喜びの感情がアリアリと感じ取れる。暗殺者は、脚を負傷した事で回避が間に合わんかったな。奴が士の背に乗り、耳を貫こうとするのとほぼ同時、此奴(こやつ)の尻尾がその背中を貫いたのだ。

【ハハハハ、まずは一人。あと二人】

 乾いた笑いと共に、士は討ち取った獲物と残りの得物を数える。

(矢が止んでる。今がチャンス!)

 何故かは分からんが、射手の攻撃がパタリと止まった。また弾切れか?

「ゴボ……!! チィッ、やられたか」

 士は耳に刺し込まれたアイスピック状の武器を抜き取り、奴を蹴りやった方へチラッと視線を移した。すると、剣士が体を()()って歩いて来る姿が映る。その向こうを見ると、其処(そこ)には下部分から()し折られた樹があった。

「クソッ、アイツ、肝心なところで集中力きらしやがって……!!」

 愚痴る剣士。切れたのは弾ではなく、射手に必須の集中力であったか。無理もない。三~四時間は撃ちっ放しであったのであるから。

 それにしても、結構な力を込められておった筈であるが、此奴(こやつ)めまだ動けるか。ただ満身創痍ではある。もう剣を握るどころか、逃げも隠れもできん。文字通り、最後の力を振り絞って戻って来たのであろう。

 だが、奴もただ出て来た訳ではなさそうだ。仮面のスリットからは赤い光が漏れ出しておる。

【おっと、何やるつもりか知らねぇが、こいつがどうなってもイイのか?】

 そう言うと士は、尾に刺さったままの暗殺者を己の体の前に差し出した。盾にする魂胆である。何か、此奴(こやつ)の方が悪者に見えてきた。

「ふぅ、ひ、人質にはならないぞ。ソイツも、か、覚悟は出来てい、いるからな」

 剣士が声を発する度に、徐々に光が強まっていく。

「ちょ、ちょっと待って! で、出来てない! グッ……! ま、まだ出来てないから!」

 心臓か肺の辺りを突いた心算(つもり)であったが、咄嗟に体を(ひね)って避けたな。暗殺者は血を吐きながらも、剣士が取る予定の行動を止めさせようと、精一杯の声を張り上げた。巻き添えを食うからだ。

「安心しろ。上には、『任務を最期まで全うした』と報告しておく」

 冷淡にそう告げた奴の両眼は、真紅に光っておる。直視した者の目が潰れそうな位に強烈である。

(ヤバイ逃げ……!!)

 奴が行おうとしておる事を本能で理解した士は、瞬時に人質を放り出し、背を向けて逃げ出した。

「もう、遅い」

 そう聞こえた気がした。逃走は間に合わず、背面から凄まじい赤光(しゃっこう)が士を襲う。その(まばゆ)い光は此奴(こやつ)の身、特に上半身を撃ち抜き、焦がした。普段は堅牢な骨や強靭な筋肉に護られておる器官も、今回ばかりは著しく損傷しておる。

 しかしながら、アダマンチウムの骨格までは如何(どう)にも出来んかった。例え、脳や心臓が破壊されようとも、骨だけのスケルトン状態になろうとも、この部分さえ無事ならば、幾らでも再生可能だ。生物の域を超えておるな。いや実際に検証した訳ではないが、士の能力を命名した者達が『ウルヴァリン』に似ておるという事で名付けたのであるからそうなのではないかと考えただけである。

(でもそのお陰で生きてる)

 体力はかなり消耗したものの、肉体そのものは完全に元通りとなった士。夕方にかなり食い貯めしたからな。栄養は豊富に貯蔵されておる。下半身には奴の攻撃が及ばず、肝臓は損傷を免れたし、骨髄も無事。それ故の回復力である。

「グッ……これでも仕留めきれないか……」

 肉体はボロボロで体力も底を尽き、地に伏す剣士。決着は見えた。

【あと一人だ】

 ただ、その一人が問題である。居所が分からん上、懸念すべき事が山程ある。更に、この火事の具合では五感の半分以上が使い物にならん。それ故に、おいそれと接近できんのだ。

(いや、集中力が切れた今が絶好のチャンスか)

 と、士が射手に標的を変更し、討ちに行こうとした(まさ)にその時、斜め下から声がした。

「ま、待て……」

 まだ気絶しておらんかったのか、剣士め。

【話はあとで聞く。矢を撃ってるヤツはどこにいる?】

 逃げ腰から一転、トドメは刺さず、射手の()()を問い詰める士。ところが、『仲間は売れん』といった風に、奴はそれを突っ撥ねた。地面と腹がくっ付いた状態で。

「ハッ、い、言うとでも?」

 息も絶え絶えであるというのに、よく喋れたな。

【そうか。じゃあ自分で捜すわ】

 それ以上は何も訊かず、士は射手の捜索を開始した。彼方(あちら)に話す気はなく、だからといって拷問をする気はないからな。()()えず、余計な事は出来ぬ様に、此奴(こやつ)の上に木を置いた。先刻、強く頭を叩かれた物だ。

 暗殺者は例の如く存在を消しておる為、尋問は不可能であった。数少ない懸念材料ではあるが、相当な深手を負わせた故、そうそう無茶はできん筈。周囲に気を張りつつ、行動せよ。

(射手はいま弓矢が使えないらしい。飛んで捜すぞ)

(はいはい、お好きにどうぞ)

 だが気を付けろ。いつ何時、奴が回復して矢を放って来るか分からんぞ。

【分かってる。っとぉっ!!】

 翼を広げ、士は飛び立った。森林公園の上空を旋回する。もし誰かにこの様子を目撃されたとしても、変身しておる場面は見られておらぬので、何の問題もない。我の持っておったフクロウの如き超視力と暗視能力で射手を探索。勿論、境内(けいだい)は避けて。

 それはそうとして、公園内で斯様(かよう)喧騒(けんそう)が発生しておるにも(かかわ)らず、警察どころか野次馬も入って来ぬ。大規模な火災すら起こっておるというのに。奴等が何かしたとしか考えられんな。やはり、最初から此処(ここ)に誘き寄せる算段であったのか。

(それらしい影はない)

(それはそうであろう。不用心に姿を見せる様な間抜けでは無いさ)

 彼奴(きゃつ)は相応の用心深さも備えておる様だ。

【やっぱ居ないな】

 公園内をざっと見て回ったものの、其処(そこ)彼処(かしこ)で上がっておる火と煙以外には何も視界に入らぬ。後、繁茂(はんも)しておる木々が邪魔。成程、身を隠すには最適な場所ではある。ただ、神社側の敷地内に()るとは考えられん。念の為、建造物の窓辺や屋上も探したが、見付からん。

【街に潜んでんのかな?】

 士も我と同様の考えに至ったな。ところが、街中から先程の場所までは、結構な距離がある。生半可な腕で届かせる事は不可能。人間よりも身体的能力に優れる悪魔と(いえど)も、である。最も近い建造物でも一km位はあった。弓矢でその長き距離を、それもあの様な精度で、あれ程の本数を……いや、装備を整えた上級悪魔ならば或いは可能か。

【ふぅ~、いったん降りるか】

 珍しく疲れたのか、士は射手の捜索を中断。降下を開始した。発見の見込みもない事であるし、賢明な判断か。そう考えた故、我もその提案に賛成。士が体を僅かに傾けた丁度その時、精確に両翼を射抜かれた。それも付け根部分を。

【グゥッ!? な、ナンダ?! きゅ、急に体が……!?】

 いきなり飛行する手段を奪われた士は、重力に従って真っ逆様に地表へと落下。そして落下地点に在った樹の枝葉を次々に折っていき、地べたに叩き付けられて終わった。

「っあぁ~っ、いってぇ~! なんだよっ! ぜんっぜん集中力きれてねぇじゃねーかっ!!」

(それはブラフであった様だな)

 地面に激突した拍子に、そのショックで悪魔化も解けた。

 それにしてもあの射手、一撃ずつで空を飛ぶ士の両翼を矢で()ぐとは。並大抵の腕ではないな。分かっておった事だが。

「さっきの攻撃、下の方から飛んで来たよな」

(うむ、上ではなかったな。あの角度から鑑みて、この森の何処(いずこ)かに潜伏しておろう)

 ただ、距離は大分(だいぶん)と離れておる。勿論、あの居心地が悪い日之本(ひのもと)の神の領域を除いて。

 奴が()る所の目星(めぼし)が付いた士は、この辺りを虱潰(しらみつぶ)しに捜し回った。()れども、彼方(あちら)も弓矢を扱う狩人(かりゅうど)の端くれ。そう易々と見付け出されはせんかった。

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