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第2話:文豪漫画家!?の巻

@登場人物紹介@

島怪作しま かいさく…短足・短気の日本男児。怒田舎高校への転校生。

万俵祐太まんぴょう ゆうた…万俵財閥のお坊っちゃま。中3だが、なぜか高校に通う


*本作は「島耕作」シリーズとは一切関係ありません。

「う〜む…なかなか面白い…」

 しまの手にはビックコミックオリジナルが握られていた。

「しかし…『あぶさん』は長期連載でおもしろいが…あぶさんの娘のなっちゃんが、この顔でモデルというのは納得いかないなぁ……」

 そこへ万俵祐太がやってきた。

「先輩、おはようございます」

「おう、祐太。これ見てくれよ」

「漫画ですか…。『あぶさん』なら、僕も読んだことがありますよ」

「万俵財閥のおぼっちゃまも、野球漫画を読むんだな。意外と庶民的じゃねぇか」

「というよりも……水島新司さんと知り合いなもんですから…」

「だと!?……本人も本人なら、知り合いも知り合いか…」

 島はもう一度あぶさんに目をやった。なんだか上流階級の人々向け漫画に見えてきた。

「そうだ、先輩。漫画なら…ウチのクラスにも漫画家志望がいますよ…」

「本当か?」

「えぇ。太宰治虫だざいおさむ先輩といって、ホラ…」

 万俵の指さす方向には、お世辞にも明るいとは言えない黒いオーラを放つ男がいた。牛乳瓶の底ほど厚いメガネをかけ、学ランはまだ体に合っていない。髪は短髪だが、顔の印象を感じ取ることは難しい様子であった。


「よう!漫画書いてるんだって?」

 島と祐太が近づくと、太宰は焦って漫画の原稿を隠した。

「そんな……隠さなくてもいいじゃんか」

「恥ずかしいから……漫画見られるのが…」

「なんだ、人に見せたくて書いてるんじゃないのか?」

「まぁ……そうだけど……」

「どれ、見せてみろ」

 島は嫌がる太宰から、無理矢理に原稿を取り上げた。

「太宰先輩、大丈夫ですよ。島先輩はとても漫画に詳しい人ですから…」

(別に詳しくはないがな…)

「…本当…ですか…じゃぁ…評価してください……」



*文字だけで漫画を表現します!感じ取ってください!



『太陽が西から昇った日』 作:太宰治虫


ナレーション:人間界での「常識」とは何だろうか。人々は、まだそれを知らない…。


生徒:先生…生きるとは、一体なんでしょうか?

先生:それは定義できない。人間は、「生きる」の意味を求めて生きているのだ。それぞれ終着点は違う。

生徒:しかし…それでは私たちは、意味もなく生きていることになります!

先生:……お前は今、生きている。呼吸をして、心臓を鳴らしている。そして、生きる意味を考えている。それが生きることなんだ。ソクラテスは言った、「よく生きること」と。まだ生きる意味は解らないかも知れない。でも、いつか分かる。きっと分かる時が来る。その時、思うんだ。あぁ、よく生きた、と。そして笑うんだ。あぁ、良かった、と。人間は考えることができる。意味を理解できる。そしてお前も今、生きているじゃないか…。


(以下、略)




「島さん、どう?」

 太宰が不安げな表情で言った。島はパッと顔を上げて

「くだらねえ!」


ビリッ!


「ぐわあああああ!3ヶ月の大作がぁぁぁぁ!

「第一、漫画で生きる意味を問われても仕方がない。しかも、タイトルがいかん。『太陽が西から昇った日』では、バカボンだろ」

「だからって…」

 祐太が口を挟む。

「太宰先輩は、一生懸命描いたんですよ」

「漫画は一生懸命描いても、売れなきゃ仕方がないんだ。手塚治虫を見てみろ、数え切れないほどのヒット作を生み出したろ。でもな、それを生むためには、数え切れないほどの駄作を描いてきてるんだよ」

「手塚先生……僕も大好きで…」

「そうだろ。ブラックジャックの斬新なキャラ、あそこに感動する」

 島はビックコミックオリジナルを握り直した。

「この雑誌に掲載されている『PLUTO』は読んだことあるか?今や劇画のエース・浦沢直樹の漫画だ。現在は、これみたいに社会を風刺した漫画が流行っている」

(@山田ソウタの解説…プルートゥはイラク戦争を風刺している漫画です。以上。)

「あと、水島新司みたいに野球一筋でいく手もあるぞ。それに、職業を舞台とした『岳』や『海猿』『弁護士のくず』『ブラックジャックによろしく』だって、売れとる。そして、必ずドラマ化されるから、ヒットするんだ」

「はぁ……」

「しかし、コメディはいかんぞ。現在下火だ。きっちりと地に根をはっている、こち亀みたいな強豪しか生き残れん」

「でも、のだめカンタービレはヒット…」

「甘ーい!のだめはギャグマンガだが、登場人物の心理を巧に描き出している、ドラマチックさがある。純粋なギャグとは言えない」

「はぁ…………」



 帰りの会が終わった。

「どうだ、祐太。太宰のやつ、わしの熱弁に感動してたろ」

「いえ……なんだかよく分かってない感じでしたよ…」

「う〜む。まぁ、仕方がない。現代の漫画はビジネスだからな。人気投票でビリになれば、それでおしまいだ」

「そう思うと、こち亀やゴルゴ13はすごいんですね」

「あぁ。しかしな、この2作だけが長期連載として浮くが、数えれば結構あるもんだぞ。まぁ、作者の年齢的に、こち亀が一番長生きしそうだな」

 今日も青空だった。


「みんな、おはよう!」

 クラス中が入り口を見た。そこに立っていたのは、黄色いオーラを放つ、太宰だ。

「どうしたんだ太宰!」

「えへっ。実は漫画コンクールに当選しまして……」

「本当かよ、見せてくれ」

 島は太宰をせかし、原稿を見た。



『太陽が東から昇った日』 作:太宰治虫


ナレーション:この物語は、山登りが趣味のクラシックを愛する黒い無免許医がプロの殺し屋になまでを描く海上保安庁全面協力の超感動サスペンス社会派漫画である……。

(以下略)


「どうだい、島さん?これ、月刊マガジンZに18頁読み切りで掲載されるんだけど…」

「なんと……よくこんなパクリ作を当選させたもんだ……」

「はははは!ちょっとトイレに行ってくるよ。原稿汚さないでよ!」

 太宰が陽気にトイレへ入って行った時、一人の男が教室に入ってきた。

「すいません、月刊マガジンZの者ですが、太宰さんは……」

「今、トイレですが……」

「実は、彼の作品、間違えて当選しちゃって。パクリ作だから、当選取り消しってことで、伝えておいてください、じゃ」

「あ、ちょっと……!」

 男はとっとと逃げてしまった。


「いやー!これから漫画家として人気が出るぞォ!」

 太宰が言った。

「おい、祐太。あのこと、絶対こいつに言うな。自殺しかねない」

 島が言った。

「えぇ……その方がいいですね……」

 祐太が呟いた。


〈つづく…〉

次回『営業マン?の巻』をお楽しみに!

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