8、優也の生まれた日と彼の本音
時刻は七時。お店を閉めて、私たちは着替えてからそれぞれ帰っていく。
私と香苗は同じ方向で私は自転車を押しながら徒歩の香苗に合わせて歩いていた。
「愛美と彼氏くん、二人でいるところを想像したらお似合いだよね。何となく彼氏くんは年齢以上に大人びているし」
香苗が夜空を見上げるようにして言う。
毎日会えても想いをなかなか告げることができない香苗はずっと苦しい思いをしているんだろうな。
先生と生徒――それこそ世間には理解されにくい。
「いいなあ。あたしも高崎先生と愛美たちみたいになりたいなぁ。いっつも生徒には興味ないって子供扱いするんだよね」
私が思うに高崎先生は先生っぽくなくて男子と一緒にふざけたりもしちゃうような先生で女子にはすごく人気があるけど、その中でも香苗とはよくしゃべってる気がするんだよね。香苗を見つけるたびに色々な用事を頼んでるし。まあそれは香苗が体育委員になってるだけかもしれないけど。
二人が並んで話す姿は先生と生徒というよりは兄と妹みたいな感じだし。この二人こそお似合いだと思うんだけど。
ただ「教師」って立場上、「生徒」である香苗を例えば好きだとしてもその想いを告げることはできないんだろうし。
「まあ今は彼女いないみたいだし、あと一年頑張ってみる。生徒じゃなくなったら、もしかしたらってこともあるかもしれないしね? その前に挫折したら告白しちゃうけど」
そう笑いながら話す香苗は本当に強いなと思う。
私なんて想いが通じたのに会えないだけで不安になるのに…。
「香苗は強いね。私なんて優也と会えない時間があるだけですごく不安なのに」
「あ、でもそれはわかる。あたしは学校来れば会えるけど、昼間の時間が違うっていうのはつらいよね」
「優也ってさ、隼人の話ではすごくモテるらしいんだよね。いくら私を好きだって言ってても、いつか年の近い子のほうが良くなるんじゃないかなとか、本当に私なんかで良かったのかなとか幸せなはずなのに、そんなことばっか昨日から考えちゃってさ。今までこんなことなかったのに」
「それほど愛美が優也くんのことを好きだってことだよ。それこそ今まで好きになった人の中で一番好きなんじゃない?」
香苗にそう言われて私自身、そうかもしれないと思い始めた。今まではただ一緒にいたいだけだったけど、優也はそれだけじゃくて守りたいとか何かをしてあげたいとかをすごく強く感じる。それは年下からだからじゃなくて、純粋にそう思う。
「愛美の結婚式楽しみだなー。いつか絶対優也くんとの結婚式にあたしを呼んでよ」
「ななな何言ってんのよっ!! そんなの…気が早いっ!!」
冗談っぽく言う香苗に私は真っ赤になりながらも、心の中がすごく軽くなり温かくなるのを感じた。
「じゃあ、また明日ね」
「うん、またね」
香苗と別れて家まで自転車を乗ろうとした瞬間、携帯電話が鳴った。
「もしもし?」
見覚えのない携帯番号に不安になるけどとりあえず出てみた。
「愛美? 今、平気?」
電話の相手はどこから番号を手に入れたのか優也だった。
「へ、平気だよ。バイト終わったし。優也こそどうして私の番号を?」
「…勝手に悪いなって思ったんだけど、隼人に聞いた。隼人にはおれが愛美を好きだって言ってあるから」
「そうなんだ。まさか優也と電話で話せるなんて思わなかったからすごい嬉しい」
私は家の近くの公園のベンチに座って話すことにした。
「今どこ? 家?」
「ううん。家の近くの公園」
「はあ!? こんな時間に公園かよ。すぐ行くからそこで待ってて」
「え? ちょ、優也?」
それだけ言うと電話は切れてしまった。
時刻は七時半前。こんな時間に小学生がうろつくのもどうかと思うけど……。
しばらくして優也は自転車に乗ってきた。
「ホント愛美って警戒心とかないのな。そんな格好でこんなとこにいるなよ」
来るなり怒鳴られる私。たぶん、心配してくれてるんだとは思う。たぶん。
「……ごめんなさい」
怒られて少し落ち込んだ私は素直に謝った。
「別に。怒ったわけじゃないから、おれは心配しただけなの。そんな落ち込むなよ」
そう言って温かい飲み物を目の前に差し出された。
「これは?」
「寒いだろうと思って買ってきた」
さりげない優しさが嬉しくて、涙が出そうになるのを堪えた。
「ありがとう」
優也は「どーいたしまして」と言いながら隣へ座る。
この公園は小学生の通う塾が近くにあるからか、けっこう遅い時間でも小学生がいることが多くこうして二人でいても意外と大丈夫なところ。
「そういえば今日誕生日だったんだね。おめでとう」
優也からもらった飲み物を一口飲むと身体中がいっきに暖かくなった。
「これで一つ愛美に近づいたな」
嬉しそうに言う優也がたまらなく愛おしい。
「そうだね。明日さ優也の誕生日のお祝いもやろうよ。張り切って料理作っちゃうよ」
「……愛美と二人っきりがいいな。隼人をさっさと寝かせてからやる?」
真剣な目で見つめられ、鼓動が速くなる。顔が熱い。
「……えっと、私も優也と二人がいい…かも」
優也を見ていられなくて俯きながら言うとぎゅっと抱きしめられた。
「可愛い。じゃあ隼人が寝たら二人でやろうか」
耳元で聞こえる心地よい響きに私は頷いた。
「愛美、好きだよ」
そう言いながら優しくキスをする。私の心臓は張り裂けそうなくらいドキドキしている。
そのまま抱きしめたまま優也が囁くように言う。
「あんまり、おれを心配させないで。これでもすごい不安なんだから。それと、さっきの携帯番号はおれのだから」
「うん。わかった」
不安に思ってたのが自分だけじゃないと知って安心した。
これからは何かあれば優也に電話とかできるのがすごく嬉しい。
「優也。私も優也のこと大好きだよ」
そう言うと優也は私の肩へ顔を埋めながら「その顔、反則」と呟いた。
書いてる私は楽しいんですが、これが小学生の言う台詞か!?という気もします(笑)優也の精神年齢は愛美よりも上ってことで。ちなみに優也くん、男の子なので色々我慢してることもあるんです。