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7、バイト先での偶然の出会い

午後の授業も相変わらず優也のことばかり考えていて気づけば放課後になっていた。今日はこれからバイトがある。もちろん優也とは会うことはできないけど……私はかばんの中からニット帽を取り出しそれを被る。これだけで優也が側にいる気がするから不思議だよね。


「愛美チャン。にやけてるぞ」

帰り支度をしていた私に香苗がからかい口調で近づく。

「べ、別にっ。にやけてなんかないよっ」

「まあまあ、つき合いたてなんだからいいじゃん」

「もうっ! バイト先に行っちゃうよ」


私たちは同じケーキ屋さんでバイトをしている。なぜケーキ屋さんにしたかというと高校に入ったときに香苗が「バイトするならケーキ屋さんでやろうよ」と誘ってきたから。ちょうど駅前に新しくできた可愛いケーキ屋でバイトを募集していたのだ。制服もお店の雰囲気も可愛くて店長はまだ二十代の女の人。店の奥にはテーブルもありその場で食べることもできる。若い男女に人気のある店でよくカップルも来ているのを見かける。

私もいつか優也と…行けたらいいな。なんて思ってみたり。


「お疲れ様でーす」

私たちは二人揃って店員の入り口から更衣室へ向かう。

フロアは五人でやっていて、今日のシフトは女の子三人と男の子一人。バイト仲間は高校生から大学生までで全員が仲良し。

更衣室へ入るともう一人の女の子で同じく高校二年生の明那(あきな)ちゃんが朝の香苗と同じくニット帽を指摘する。

「あれ? 制服にニット帽って珍しいね」

そんなに私が私服以外で被ってたら珍しいのかな。バイトでしか会わないのによく見てるな。少し感心してしまう。

「弟くんに借りたんだってさ」

香苗が着替えながら言う。

「最近寒くなったもんねー。うちの学校もニット帽、マフラーの子が増えてきたよ」

明那ちゃんは特に何の疑問も持たずに納得したみたいだった。

私は小声で香苗に「ありがとう」とお礼を言った。さすがに香苗以外に優也のことは話づらい。別に優也とつき合うことを恥ずかしいとか思ってるわけじゃないんだけど…何となく理解されにくいんじゃないかと勝手に思ってるだけ。


私もお店の制服に着替え、二人に続いてフロアに出る。

ここの女の子の制服は黒の膝より少し上のスカートに白い半袖のブラウスで胸元に赤のリボンがついていて赤色で周りにレースがついた腰に巻くエプロン。男の子は黒いズボンに白いシャツ、黒いネクタイに紺色のエプロン。

制服が可愛いだけあって若い子のバイト希望者は多いらしい。


私の今日の当番はウエイトレス。香苗と男の子が一人一緒だ。明那ちゃんはもう一人の男の子とレジ係り。レジはその場で食べた人のお会計と持ち帰る人のお会計などで忙しい。ウエイトレスはそれよりは少しだけ楽なのだ。

まだ私たちはそんなに忙しくなくて他愛もない話をしながら外を見ていたら、見慣れた人が歩いていて思わず目を見開いてしまった。

その親子はどんどんとお店へ近づいてくる。

私はドキドキしながら、その二人を見ていた。


カラン、カラン――。


お客さんが来たことを知らせるための鈴が店内に鳴り響く。

私は咄嗟に香苗の後ろへと隠れた。

香苗はその様子を不思議そうに見ていたがすぐに察したようだった。

「もしかして…噂の彼氏くん?」

私は無言で何度も頷いた。

まさか優也と優也のお母さんが来るなんて思いも寄らなかった。


「ショートケーキとチョコレートのケーキを一つずつ下さい」

真剣にケーキを眺めていた優也ママが二つのケーキを指差しながら注文する。

「あ、それとろうそく二本いただけますか?」

思い出したかのように注文する様子に私は思い切り顔をあげた。

ろうそく二本って…。

その瞬間、優也とばっちり目が合ってしまった。さすがに優也も私がいるとは思ってなかったようで、驚いていた。が、すぐに顔を逸らしてしまった。その横顔はほんのり赤い。

それまで私の盾になっていた香苗が突然カウンターへと向かった。

「ろうそくってお誕生日ですか?」

そう香苗が尋ねると、優也ママは息子の頭を豪快に撫でながら嬉しそうに言う。

「そうなのよ。今日この子の十二歳の誕生日なんだけど、なかなか仕事が忙しくて今までまともに祝ってあげれなかったから」

優しいんだけど少しだけ悲しそうに微笑む姿に優也の普段の生活が見えた気がした。

私は香苗の隣に立って「おめでとうございます」と二人に言った。

「あら? 愛美ちゃん、久しぶり。大きくなっちゃって!すっかり素敵になったわね。いつも優也が隼人くんたちにはお世話になってます」

優也ママは私を見て懐かしそうに微笑んだ。

「母さん、ほらもう行くよ」

まだ何か話しそうな勢いの母親を引っ張る優也の慌ててる様子が可愛くて思わず笑いそうになってしまった。


二人が出て行った後、香苗が「彼氏かっこいいじゃん」と小声で言ってきた。私はそれが嬉しくて香苗に思い切り抱きついて「ありがとう」と言った。


優也の誕生日が今日だってことを偶然にも知れて良かった。明日はケーキと何かプレゼントを用意しなきゃな。


優也と優也ママとのほのぼの話しを入れたかったんです。

ちなみに優也は11月22日(いい夫婦)生まれです。

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