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5、友人への報告

学校へ着くと中学からの親友でもある、香苗(かなえ)が私の頭の上にあるニット帽を指差しながら「どうしたの?めずらしいね」と声をかけてきた。私服では冬になると被るけど学校に被って行ったことはない。しかもグレーのニット帽は持っていないことを香苗は知っている。


「あー、寒いから…」

歯切れの悪い言葉に香苗からの鋭い指摘が入る。

「うそだ。愛美がそーゆう色を持ってるのも珍しいし」

どっちかっていうと可愛い明るい色が好きな私が暗い色を身につけているのも滅多にない。そのことも香苗はよく知っている。

「……今朝貸してくれた」

朝の優也とのやり取りを思い出し、赤くなった私に香苗は「その反応怪しいし。いかにも男物を誰から借りたのよ。隼人くんは持ってなさそうだし」とさらに追い討ちをかけてくる。

「まぁ、昼休みにでも詳しく話すよ」

そうはぐらかして教室へと向かった。


香苗は中学のときから恋多き女の子で何人に告白して何人に振られ、何人とつき合ったのかわからないくらいたくさんの恋をしている。そんな香苗が高校に入って好きになったのは体育の先生で十歳年上。猛アピールしているのに振り向いてくれない先生を一年以上想っている。普段から「年の差なんて関係ない」「先生と生徒とか関係ない」「好きになったのがたまたま先生だっただけ」と言う香苗なら優也とのことを話しても平気な気がする。


ニット帽をかばんにしまい、授業を受ける。

授業中も優也のことが頭から離れず、今は小学校で何をしているのかなとかずっと考えてしまっていた。私…相当重症かもしれない。いつもはそんなに気にしてなかったのに気持ちが通じただけで何をしているのか気になって気になって仕方なくなるなんて。

しかも余計なことまで考えてしまう。もしかしたら今日も誰かに告白されちゃってるんじゃないかとか…ね。本当に私でよかったのかなとか。考え出したらキリがない。

優也のことばかり考えていたらあっという間に昼休みになっていた。

午前中はほぼ無意識で授業を受けていたらしい。


「愛美。ずっとぼけーってしてたけど、大丈夫? 話は聞くから屋上でお昼でも食べようか」

こんな寒い日に屋上でご飯って…まあいいか。

お弁当を持って香苗と一緒に屋上へ向かった。ドアを開けた瞬間風が強く吹いて凍えそうになったけど、なるべく機械とか置いてあって高さのある入り口近くで風をよけながらお弁当を広げる。


「で? ニット帽とぼけーってしてたのは関係あるの?」

卵焼きをつつきながら香苗が直球で聞いてくる。

「うん。まあかなり関係ある」

「何よー! まさか彼氏でもできた? たしか好きな人はいるって言ってたよね? 誰だか教えてくれなかったけど」

そうだった。香苗にも優也が好きだってことは言ってなかったんだ。小学生を好きになったなんて言えなかったんだっけ。

「……これから話すことは香苗だけの秘密にしておいてよ。他の子じゃ絶対ひくと思うし」

「うんうん。もちろん、あたしが口堅いのは愛美も知ってるでしょ?」

たしかに香苗は人の秘密は絶対言わない。ついでに悪口とかも言わないいい子。

だから香苗になら話してもいいと思えた。


「私ね…ずっと気になる人がいて、最近になってその人が好きだって思い始めたんだ。だけど告白なんてできる相手じゃなかったし、一生言うつもりなかった」


優也を好きだって気づいたのは半年前くらい。気づくと目で追ってたし家に来ると嬉しくなって、「あぁ好きなんだな」って思い始めた。今から思えば一年前に久々に会ったときに「かっこいい」と思ったときから好きだったんじゃないかって思うけど。


「一生言うつもりないって…あたしはそんなの耐えられない」

香苗はそーゆう子だっていうのは十分知っている。

「だけど言ったら相手を困らせるというか、もう会えなくなる気がして怖くて言えなかった。私がそんな風に見てるなんて知られるのも怖かった」

友達の姉に恋心を抱かれてるなんて知られたくなかった。

だからなるべく強気で年上らしく振舞っていた。


「でも昨日、その相手も同じように想っててくれたってことを知って、いつからそう想ってたのか知らなかったけど、それがすごい嬉しくて私も勇気を出して自分の気持ちを伝えたんだ。それで、つき合うことになった」

「愛美可愛いー! あたしに相談してくれたら色々相談に乗ったのに。で、その相手っていうのは? 同じ学校なの?」

私は香苗の反応が少し怖かったけど、ドキドキしながら思い切って告白した。


「…弟の友達。小学六年生…なの。だから、言えなかった。小学生を本気で好きだなんて怖くて言えなかった」


私の様子を伺うように黙って話しを聞いていた香苗は大きなため息をついた。

そして呆れた様子で言う。


「小学生だから何? たかが五歳違いでしょ? 男なんてあと数年で変わるんだから大丈夫だよ。愛美はそーいうところが真面目すぎ。あたしなんて十歳上の先生だよ? まだ片想いだけどさ」


そう言うと頭をポンポンと軽く撫でられた。

受け入れてもらえたことが嬉しくて泣きそうになったけど我慢した。


「そーいや愛美って今日バイトでしょ? あの帽子って、彼なりの愛情表現じゃない? 他に男が近寄らないようにするための対策なんだよ。あきらかに男物だし、彼氏から借りましたって感じじゃない?」


まさかあのニット帽にそんな意味が込められてるなんて、気づきもしなかった。

どこでそんなことを覚えてくるんだかわからないけど…嬉しすぎて、朝よりも会いたい気持ちが増してしまった。


年の差を気にしてるのは愛美だけのようです。

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