3、おれの彼女になってください。ってマジですか?
愛美視点と優也視点があります
それからは特に会話もなく数分後には優也の家についた。
門を開け、そのまま中へ入ろうとした優也に思わず声をかけてしまった。
「ゆ、優也っ」
「ん? 何?」
引き止めたのはいいけどどうしたらいいのか困ってしまった。何か話そうと必死で会話を探してみるけどこうして隼人がいない状況というのは今までなくて、聞きたいことはあったけど何をどう聞いたらいいのかわからない。
「愛美。ちょっと来て」
庭の方へ歩いていった優也が何かを見つけたかのようにしゃがみ込んで手招きで私を呼んだ。私はいいのかなと思いつつ、自転車を停めて優也の家へ入り、隣へしゃがんだ。
暗くて何があるのかよくわからない。
「優也? ここに何かあるの?」
「う・そ。何もないよ。そういえば、さっき言い忘れたことがあるんだけど」
そう言うとぎゅっと抱きしめてくる。
そして耳元で囁くように言う。
「おれ、ガキだけど、愛美のことホントに好きだからおれの彼女になってください」
何。この可愛い生物は…。身体中が熱くなるのを感じながら、私も優也を抱きしめ返した。高校生のくせに小学生に恋した私よりも照れたように言う優也こそ可愛いすぎて犯罪だよ。
そんなことを思いながら私は「お願いします」と返事をした。
それを聞いた優也はもう一度ぎゅっと強く抱きしめてから立ち上がった。
「明後日楽しみにしてるよ」
何かを含んだように笑いながら手を差し出す。私はその手をとって立ち上がった。
門のところまで見送ってもらい、姿が見えなくなるまで見送り続ける優也を本当に愛おしく感じた。好きでいていいんだと思ったらすごく安心した。私って単純なんだろうか?
寒いはずなのに寒さを感じないほどさわやかな気分で自転車をこぎながら頭の中では優也からの言葉がリフレインしている。
まさか優也も私を想っていてくれたなんて信じられない。隼人の姉としかみていないと思っていたから……それなのに私を好きだって思ってくれたのが本当に嬉しい。
だけど何だろう? 何だかすごく変な感じ。嬉しいのに心のどこかで「本当に良かったの?」と問いかける自分もいる。
高校生と小学生で恋愛関係とかっていいのかな? 小学生が思う「つき合う」と高校生の思う「つき合う」っていうのは違う気がするし…やっぱりこれってダメじゃない?
隼人とかお母さんたちが知ったら、どんな顔されるんだろう…?
幸せなはずなのに不安になる自分がいる。
誰かと想いが通じ合うのってこんな感じだっけ?
不安な気持ちを吹き飛ばすように夜道を思い切り自転車をこいだ。
絶対にありえないって思ってたことが現実になってあまり実感なくて不安になってるだけなんだ、きっと…うん。絶対にそう。
そう言い聞かせながら家路へと急いだ。
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愛美が見えなくなるまで見送り優也は家の中へと入った。
ずっと言えなかった想いを勇気を出して伝えて良かった。同じ想いを愛美も抱いていたことを知らなかったから、一年間ずっと言えなかった。
だけど最近の愛美の様子を見ていたら、うぬぼれてもいいかもしれないと思えてきた。だから思い切って告白した。
高校生の愛美が小学生の自分を本気で相手にするなんて思わなかったから、愛美の「私も優也が好き」という言葉は信じられなくて奇跡が起きたとか思ったくらいだし……。やっぱり自分の思った通りだって思えたら、今までの不安や不満なことも全部吹き飛んだ。おれだけの愛美になったって思ったら嬉しくて仕方ない。
年上なのにすごく可愛くて、こんなおれでも守りたくなるような人。
そんな愛美とつき合うことができるなんて今のおれには何でもできるかもしれないなんて思ったりもしている。
誰かと想いが通じることがこんな嬉しいことだっていうのを初めて感じた。
先に帰っていた母さんは上機嫌なおれに「何かいいことでもあった?」と聞いてきた。おれは愛美のことを言おうかどうしようか一瞬悩んだ。でもたしか父さんも母さんより年下だったと前に聞いたことがある。
「おれさぁ彼女できた」
母さんは驚いた顔を見せたが、すぐに嬉しそうというか楽しそうな顔をした。
嫌な予感。
「へぇ? 小学生のくせに生意気。でも母さんは嬉しいよ。あんたは男の子なんだから相手の女の子悲しませることしちゃダメだよ。まぁあんたは私似だから大丈夫だと思うけどね」
母さんが言いたいことはよくわかる。父さんとのことで嫌な思いをしたからおれにはそうなるなってことだよな。
「ところで…彼女って同じクラスの子?」
「……いや、違う。年上だし」
その言葉にさすがの母さんも驚いた様子で、しばらくの沈黙の後に言った。
「小学生がどこの年上と知り合うのよ? あんた変なことしてないでしょうね」
変なことって何だよ…っていうか愛美のこと母さんも知ってるんだよな?
言ってもいいのかな…愛美が嫌がるかな…。
「変なことはしてない。同じクラスの友達の姉ちゃんだよ」
「あんたは、やっぱり私の子だね。まさか私と同じ道を歩むなんて…でもなおさら大事にしなよ。絶対泣かせる真似しちゃダメだからね」
「わかってるよ。おれは母さんの子だから大丈夫」
まだまだ子供だけど愛美のことは一年も想い続けてたんだから、泣かせるとかそんなこと絶対ありえない。
小学生とキスしちゃうとかつき合うとか高校生の愛美にとっては不安なことがいっぱいな様子。
優也の両親もかつては愛美と優也と同じ関係。