2、思わぬ展開・・・についていけなくなりそうです
今日は日勤で夜には帰ってくるってことで、暗くなり始めた頃に優也は帰ろうとした。一応年上らしく帰り際声をかけてみた。あわよくば二人で並んで歩きたいっていう下心はあるんだけど…ね。
「暗くなってきたから、自転車で家まで送るよ」
私服に着替え、寒さ対策にニット帽を被り自転車の鍵をちらつかせながらそう申し出てみたんだけど……。
「いらねー。一人で帰れるし、それに…まあいいや。とにかく大丈夫だから」
まあ…小学高学年の男の子が誰かに家まで送ってもらうなんて恥ずかしいのはわかる。だけど、私だってちょっとは二人になりたいというか…何と言うか。下心じゃなくて純粋な気持ちはある。
「優也が襲われるとかありえないから大丈夫だって」
そう言ってケラケラ笑いながらリビングに入った隼人を無視して私は「コンビニ行ってくる」と言い残して優也の後を追った。
自転車で追うとあっという間に追いついた。
たかが二十分だけど、この時間が欲しかった。
「…何で来たんだよ」
優也は無愛想に言いながら大きなため息をついた。
そんなに私と一緒は嫌なのかと落胆しつつも「コンビニ行くだけだから」と隼人についた嘘を優也にも言った。
「コンビニね…まあいいけど」
またまた無愛想に言いながらも突き放されることはなく安堵した。
優也も私を同じペースで歩いてくれるし。そのさり気ない優しさが嬉しい。
「優也ってさぁ……あ~、やっぱり何でもない」
質問したいことはあったけど、聞くと怒られるような気がして聞けなかった。
年頃の男の子だしぜったい聞いたら嫌がる…隼人ならともかく。
「何?気になるから言って。眠れなくなったらどーすんだよ」
「いや、絶対怒るし言わない」
「別に怒らねえよ。おれの睡眠を邪魔する気?」
「本当に怒らない? 眠れなくなったら私が添い寝でも…」
「しなくていいから!! それに愛美の質問くらいで怒らないよ」
その言葉が何だか「特別な存在」に聞こえて私は密かに嬉しくなった。
私なら何を聞いてもいいってこと?
「えっと…優也って身長、どれくらいかなと」
一五八センチの私と並んでちょっと低いだけだから小学生にしては高い方だと思うんだけど。
「……一四三だけど?」
もう少し大きく見えたけど意外。隼人よりも小さいのか。
「そうなんだ。まぁ男の子はこれからだもんね」
一人で納得してると優也の拗ねたような声が聞こえた。
「チビで悪かったな。だけど中学入ったら絶対愛美よりデカくなるし」
自信満々で言う優也が可愛くて無意識で頭をなでていた。
「はは、期待してる」
「……絶対馬鹿にしてんだろ?どうせ、おれは愛美よりチビだし?小学生だし、子供だけどさ」
そこまで言うと優也は急に立ち止まった。家まではもうすぐ。
「優也?」
下を向いていた優也を覗き込むようにして見ると、優也は勢いよく顔を上げた。
街頭と街頭の間でそんなに明るさはなくて表情がよくわからない。
「愛美。あんまおれを子供扱いしてると後悔すんぞ」
そう言ったかと思うと瞬時に唇に何か当たる感触。
驚きすぎて何が起きたかもわからず、目は開いたまま動けなかった。
え? あれ? もしかして、キス……されてない?
左腕で頭を下げられ、少しかがんだ状態の私は背伸びした優也により何故だかキスをされていた。咄嗟のことで頭が真っ白。
ようやく開放された私はアホみたいにパクパクしていた。
言葉に…ならないしっ。
「小学生でガキかもしれねーけど、おれも一応男だし? 送らなくていいって言ったのに追ってきた愛美が悪い。これでも夜道を一人で帰らすわけには行かないって思っただけなのにさ。それなのに来ちゃった愛美のせいだから…」
優也が何を言っているのか理解ができない。
私の頭が悪いせい?
「……おれ、愛美のこと好きだから。だから心配だったのに付いて来たから。ごめん、本当はそれが嬉しくてつい、キスしちゃった……」
と上目遣いで見上げられる。その目は心配そうにしていて。
か、可愛すぎる。ヤバイ、これはヤバイ。
「聞いてる?」
顔を覗き込まれてあまりの近さに真っ赤になりながら何度も頷いた。
突然の思ってもいなかった告白に心臓が飛び出そうなくらいバクバクしている。
「ゆ、優也。あのね、私も優也が好きっ」
改めて優也からの言葉を繰り返すと自然と涙が出てきた。
年上すぎてありえないとか思ってたのに、まさか同じ想いだったなんて。
嬉しくて嬉しくてその場で大泣きしてしまった私をぎゅっと抱きしめながら何度も背中を撫でる。
「知ってる。愛美はすっげーわかりやすいから」
耳元で笑いながら言う優也がすごく愛おしく感じた。
同時にバレていたという恥ずかしさがこみ上げてきたけどね。
小学生男子と高校生女子の恋愛スタートしました。
告白前にキスしちゃう優也が若い証拠です(笑)