10、優也誕生日②~優也side~
家に帰り母さんの作った料理とさっき買ってきたケーキでささやかな誕生日祝いをする。この感じはすごく久しぶりで意外と嬉しいもんだった。母さんはお祝いだからと言いながらワインを空ける。酒に強い母さんはご飯を食べ終わってもまだソファーでテレビを見ながらワインを飲んでいた。
時刻は七時半前。昼間、隼人に聞いた愛美の携帯番号を自分の携帯へ登録し、試しにかけてみる。たしか、あのケーキ屋の閉店時間は七時だったはず。
少ししてから不安そうに愛美が電話に出た。
おれが隼人から勝手に携帯番号を聞いたと言うと、驚いていたけど同時に嬉しそうな声が聞こえた。
電話ごしの愛美の声は普段より少し高めに聞こえる。それがすごく可愛くて会いたくなってくる。
「今どこ? 家?」
会いたくてそう聞くと、愛美からの返事は意外なものだった。
「ううん。家の近くの公園」
はっ? 冬のこんな時間に公園かよ。愛美の家の近くの公園は小学生の通う塾が側にあり、この時間だと帰り時間になってたりするから人気はあるから心配ないといえば心配ないけど。
でも学校帰りにバイトへ行った愛美って制服なんだよな?
おれはこの寒い夜にあんな格好をしている愛美のが心配だった。
「こんな時間に公園かよ。すぐ行くからそこで待ってて」
電話を急いで切り、リビングでいまだにワインを飲んでいる母さんの後姿へ「でかけてくる」とだけ声をかけて、自転車を飛ばした。
今までの中で一番スピードを出したんじゃないかと思うくらい急いでこいだら、十分もかからずに公園へと到着した。
制服のままでベンチに携帯を握ったままの愛美が座っていた。
おれは自転車を停め、愛美の前に立った。
「ホント愛美って警戒心とかないのな。そんな格好でこんなとこにいるなよ」
急いで来たから多少息切れしているのと心配のあまり怒ったような言い方になってしまった。それを聞いた愛美は落ち込みながら「……ごめんなさい」と謝ってきた。
あー、そんな顔させたいわけじゃないんだけどな。
おれは途中で買ってきたホットココアを愛美に差し出した。
「別に。怒ったわけじゃないから、おれは心配しただけなの。そんな落ち込むなよ」
こんなことでおれは怒らない。ただ愛美は自分のことがわかってなさすぎて鈍すぎて、すっごい心配なだけ。自分がどれだけ可愛いか気づきもしてないし。
差し出したココアを不思議そうに眺めているから、途中で買ってきたことを言うと素直に受け取る。
「ありがとう」
「どーいたしまして」
そう言って愛美の隣へと座った。
「そういえば今日誕生日だったんだね。おめでとう」
バイト先でのことを思い出したのか愛美が改めて言う。おれはそれだけですごく嬉しくて、今すぐにでも抱きしめたい衝動を必死に抑えた。
「これで一つ愛美に近づいたな」
心の中で思ったことを口に出すと、すごく嬉しそうに笑う。
ヤバイ。その顔は可愛すぎる。誰にも見せたくねーな。
「そうだね。明日さ優也の誕生日のお祝いもやろうよ。張り切って料理作っちゃうよ」
そう言いながら小さくガッツポーズを作る愛美がどうしようもないくらい可愛くて大好きで……おれは本音を告げた。
「……愛美と二人っきりがいいな。隼人をさっさと寝かせてからやる?」
ずっと言いたかったおれの本音。誕生日は好きな人と二人がいい。邪魔者(隼人)はいらない。おれだけに笑った顔や照れた顔とかを見せて欲しい。愛美に比べたら小学生のおれなんてガキにしかすぎないだろうけど、おれは愛美にもっとたくさん触れたい。愛美の全てが欲しい。ずっとそう思ってきた。だから自分の誕生日くらいこの愛しい人へわがままになてもいいよね?
「……えっと、私も優也と二人がいい…かも」
真っ赤になりながら恥ずかしいのか俯きながら言う愛美がヤバイくらい可愛くて、おれはぎゅっと抱きしめた。もう離したくない。ずっとおれのものでいてほしい。
「可愛い。じゃあ隼人が寝たら二人でやろうか」
嬉しい気持ちを抑えつつ、耳元で言うと、おれの腕の中にいる人は小さく頷く。
「愛美、好きだよ」
心の奥からそう思って、抱きしめる腕を緩め、キスをする。少し長めにしていると愛美が力強く抱きしめてきた。
「優也。私も優也のこと大好きだよ」
満面の笑みで照れながら言う愛美。
「その顔、反則」
おれは愛美の肩へ顔を埋めながら行き場のない想いを感じた。
頼むから、その笑顔を他の奴らには見せないでほしい。
お願いだから――おれ以外にそんな風に笑わないで。
誰かを好きになるのが苦しいということを初めて知った。
恋愛とは時に苦しくなるものです。それだけ相手のことが大事ってことだけどね。
優也くんは誕生日と同時に一つ大人になりました。