希望と絶望のシャッフル
希望と絶望のシャッフル
人気のない住宅街に小さな一戸建てがある。見た目は至って普通。豪華でもなく、みすぼらしくもない。しかしその家には、外観とは極めて不釣り合いな地下研究室があった。
暗闇の中、ディスプレイの明りに照らされた博士は眼鏡を光らせた。
「やっと長年の研究が実を結んだ……」
完成したのは、二人の人間のの中身を入れ替える装置だ。冷蔵庫ほどもある金属の物体からは、パソコンへ繋がるコードと、無骨なヘッドギアのコードが二本伸びている。
早速友人に見せつけようと、壁に取り付けてある受話器に手を伸ばした、その瞬間。重たい扉が軋みながら開かれた。
「動くなよ」
鮮やかな青色のキャップを深く被った若者が、刃渡りの大きな凶器を携えて現れた。
「おや、どこから入って来たんだ」
「無駄口を叩くなっ。受話器を置いて、両手を挙げろ」
博士は受話器を壁にかける時、そっと赤いボタンを押した。
「おっと、防犯ブザーを押しても反応しないよう、電線は切っておいたからな」
若者はそう言って刃物を一振りした。
「あんたが世にも奇妙な発明をしたことは分かっている。俺はそれを悪用しようと思って来た。さあ、そいつの使い方を教えな」
「ほう。この手際の良さといい、目的を明確にするところといい、今時珍しい若者。いずれ牢屋に入れられることになるとは、社会も良い人材を失ったな」
「ごたごた言ってると、こうだ」
「分かったから、刃先を向けないでくれ」
博士は使い方を説明した。使い方は簡単、ヘッドギアを二人が着けたらパソコンのエンターキーを押せぱ良い。
「じゃあ、俺とあんたでこの装置を使うぞ」
「なに」
「これで発明による莫大な収入は俺の手元に集まるのさ」
「くそ、長年の研究がこうもあっさり……」
「お疲れ様でした。さあ、エンターキーを押すぞ」
頭に電流が流れる。若者は刃物を投げ捨てた。
かくして二人は入れ替わった。白衣を着た中年の男は、即座に刃物を拾い上げ、小さく振り回した。
「ほら、通報されたくなかったらさっさと帰りな」
「ああ、何もかも終わった」
青い顔をした若者は地下室を後にした。
後はこの装置を世間に公表するのみ。金が集まったら再び誰かと中身を入れ替えるか。出来れば俳優のような顔の良い男が良いな。そんなことを考えていると、一階からドアを荒々しく叩く音が聞こえた。玄関に駆けつける。窓から覗くと、スーツを着た強面の男が立っていた。先程出て行った博士の知り合いだろうか。取り敢えず鍵を外した。
「こんにちは」
「おい。約束は守ってもらうぞ」
「は?」
「とぼけんじゃねえっ。来週には絶対に返済の目処が付くと息巻いていたのを、忘れたとは言わせねえぞ。さあ、訳の分からん研究費と称して今まで借りてきた分、全額返してくれるんだろう? あんたの年齢じゃ、一生働いてやっとの額だがな」
まったく、大層な置き土産をしてくれたものだ。
恐らく、今まで書いた文章のなかで最もくだらないのではないかと自負しています……誇ることではないですね……
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