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12月25日クリスマス企画(裏) 今日は”クリスマス”(オルディマ視点)

「じんぐるべーる、じんぐるべーる、じんぐるべーのべー」


厨房でケーキを仕上げていると、食堂のホールから少し調子外れで良く意味が分からないが楽しそうな歌声が聞こえてくる。そんな歌声に、色々準備に動いていた面々が微かに笑みを浮かべる。


歌声の主は、北の魔王城最年少隊員にして我が調理部隊が誇るアイドルのユーリちゃんだ。


ユーリちゃん曰く、今日は”クリスマス”らしい。

何でも”クリスマスツリー”を飾り、家族や仲間とケーキや丸鶏のローストなんかを食べ、夜には良い子の所に”サンタクロース”がプレゼントを持ってくるとの事。何かの本で読んだらしい。


その為、オレがユーリちゃんにケーキが食べたいとおねだりされた訳だが。

その話をこっそり聞き耳を立てて聞いていた調理部隊の面々がそれぞれ材料費を出してくれたので、少し良い材料でケーキをクレームとショコルの二種類焼いて全員で食べる事になった。


因みに今のユーリちゃんは”サンタクロース”を模した真っ赤な生地を基調に白いファーで飾られた帽子に上着とズボンを身に纏い、黒いモコモコ素材のブーツを履いている。鍛冶部隊の服飾担当部門の力作だ。きちんとプレゼントの入った袋まで持っている姿はとても可愛らしい。


そして、食堂にはユーリちゃんが農作部隊に頼んで貰ってきた背の低い木に、鍛冶部隊の服飾担当部門の部屋の隅っこにお邪魔して作ったという小物が飾られた”クリスマスツリー”が八本飾られている。

単調で素っ気無かった食堂を華やかに飾る”クリスマスツリー”に他の部隊の隊員達も興味を持ち、いつの間にか”クリスマス”後の”クリスマスツリー”の貰い手まで決まっていた。


男ばかりの職場でのイベントなど飲み会位だ。これはこれで楽しいが、華やかさなど無縁もいい所。

そんな中でユーリちゃんは一つ一つ自分で動いてイベントを起こしている。どれも聞いた事の無い、珍しいイベントばかり。

ユーリちゃんの可愛い衣装を作れるという事で、カラフ副隊長がユーリちゃんを全面的にバックアップしている。それに合わせて裏でエリエス隊長に申請書が回り、エリエス隊長から書類部隊に本部を置く『ユーリちゃんを見守り隊!』へと情報が回って親衛隊が暗躍する。更に親衛隊から詳細が会報として発行される訳だ。

だからこそ家族を持つ隊員でも参加したり出来、それを家族に紹介も出来る。ユーリちゃんの起こすイベントのお蔭で家庭内で株が上がった隊員も少なくなく、それが噂で広まって更に親衛隊員を増やしていたりする。




ケーキの準備を終える頃には他の面々が中央の二つのテーブルを合体させ、”クリスマスツリー”の移動や食器の用意も終えていた。


「ユーリちゃん、準備出来たから食べようか」

「はぁーい!」


厨房からホールへと出る途中にユーリちゃんに声を掛けると、元気の良い返事が返って来た。


ニコニコ笑顔でケーキを喜ぶユーリちゃんの前で切り分けると、それぞれに回していく。

美味しそうに食べてくれるユーリちゃんのその食べっぷりと表情が何よりのご褒美だ。


オッジじいさんがユーリちゃんにクレームのケーキに乗せていたベルチを「あーん」で食べさせれば、ユーリちゃんの表情が更に輝く。

…羨ましいが、オレの分はもう食べてしまって無い。オレだけじゃなく、隊長と副隊長もそう。

三馬鹿は恐ろしく悩んでいる。それはもう、ウザい程に。

思わず殴り付けてしまった。


そんな中、アルフだけは自分の分を食べただけでは足りなかったらしく、残りの乗っていた皿を抱え始めていた。甘い物を好むし、この中の誰よりも食べ盛りの頃だ。仕方ないだろう。

更にはラダストールとディオガにもそれぞれ違う種類のケーキを一つずつ譲られ、嬉しそうに笑って受け取った。…見てるだけで微妙に胸やけがする。

思わず苦笑していると、ラダストールから受け取ったクレームのケーキに乗っていたベルチをユーリに「あーん」で譲っていた。他人に食べ物を譲るなんて昔では考えられない行動を取る辺り、アルフもすっかり兄が板に付いて来ている。

そんなアルフに結局は己の欲に負けた三馬鹿が嫉妬の余り殺気を放ち始めた。

だが、ラダストールとディオガに殴られてそれ所では無くなっていたが。




ケーキを食べ終わり、粗方の片付けを終えた頃、ユーリちゃんが何やらゴソゴソと動いていた。

テーブルに箱状の何かをプレゼント袋から取り出している。


「メリークリしゅ・・マス! あい、プレじぇ・・ントどーぞ」


何事かと思っていたら、ユーリちゃんが可愛らしい掛け声と蕩けそうな笑顔と共に一緒にオレ達に一つずつそれを渡してくれた。三馬鹿が鼻血を噴いている。

見た事の無い構造の箱に思わず全員が箱を見詰める。


「あけてくだしゃい」

『…開ける?』

「あい。かいたいできます」


そんな中、ユーリちゃんが告げた言葉に、思わずマジマジと更に見詰めてしまう。

プレゼント包装に良く使われる紙箱とは全く構造が異なる。表面を触れてみると、微かな凹凸があった。恐らく折った紙を組み合わせて形を作り上げているのだろう。

試しに色の違う部分をいじってみると、一か所が外れた。だが、驚いた事に組み合わせは何枚もの紙によるものらしく、一つだけでは上手く中身が取り出せない。

どうにかして中身を取り出すが、この技術はかなり高度だ。オレが開けるのを見て、爺さんや隊長が続いて来る。


「凄いな。これ、ユーリちゃんが作ったのかい?」

「あい。がんばりましたー」


思わず作り手を確認すると、ユーリちゃんが控えめにはにかむ。

これだけの技術、未だ嘗て見た事が無い。鍛冶部隊や設備部隊は興味を示すんじゃないだろうか?

中身を取り出した後に再び箱に戻していると、じいさんが先に中身を読んでいた。


「…オルディマの横で作ってたヤツか」

「じーちゃ、見ちゃやーよって言ったのにー」


じいさんの言葉に、組立て終えた箱を手に二枚の紙を開く。

一枚は「いつもありがとう」と書かれた手紙。もう一枚は、「おかしこうかん券」と書かれていた。

誰かの悪影響らしいダジャレが入っていたが、鼻に詰め物をした間抜け面の三馬鹿には受けている事だしここは敢えて流させて貰おう。


…そう言えば、オレがケーキを作っている横でユーリちゃんも何か作っていた。

用意された材料は良くスープの具に使われる挽肉具材を包む皮とポムルジャムと甘味用のスパイス、板状のショコルとバナナンだった。

何をするのかと、怪我をしないかと心配しつつもユーリちゃんの作業を許したのは隊長だ。

そんな中、ユーリちゃんはポムルジャムと少量のスパイスを混ぜた物、小さく切ったショコルとバナナンをそれぞれ皮に包みこんでいた。ちゃんと違いが分かる様に包みの形も変えて。

そこまでした所で容器に綺麗に並べて亜空間に収納していたのを確認している。

あれが恐らくこの券のお菓子だろう。


それにしても…「見ちゃやーよ」の一言に、じいさんの顔がユルユルに緩んでいる。毎度の事ながら、じいさんの振りをした別人かと本気で疑いたくなる。

頬を膨らまして不満を訴える姿も恐ろしい程に可愛いから、気持ちは分からなくもないけど。

そんなユーリちゃんの頬を隊長が右手の親指と人差し指で挟み込んで潰すと、ユーリちゃんが「ぶふっ」と空気を漏らしつつ変顔になった。

これにはユーリちゃんが隊長に抗議するが、隊長は謝りつつも笑っている。周りも思わず釣られて笑っていると、ユーリちゃんが見る見る内に真っ赤になった。


「たいちょーなんか、キライー!」


更にはそのままユーリちゃんが叫んで食堂を飛び出して行ってしまった。全員がお礼を言えず仕舞いの状態で。


『隊長』

「あ? …ちょっと待て。オレが悪いのか!?」


八つ当たりに、全員で隊長に襲い掛かってみた。







抵抗する隊長に全員がどうにか一撃を入れた所で、ユーリちゃんがいないある意味好機にこの後を考えてみる。


「プレゼント袋を持ってったから、多分他の部隊にもプレゼントを渡しに行ったと思う。戻って来たらまずは一も二も無くお礼を言わないとね」

「詫びもしないとな」

「んじゃ、もういっそ宴会でもやるか?」

「ここは隊長に良い酒出させるで決まりだろ。ついでに隊長の部屋で待ってりゃユーリも帰って来る」

「それでさっさと疲れさせて寝かせてからプレゼント用意してやればいいんじゃないか?」

「ユーリの寝る時間を考えて、あと半刻か一刻位で他のヤツ等もプレゼント持って部屋に来るしな。似非”サンタクロース”だが」

「ユーリ、本気で”サンタクロース”を信じてるっスからね。」

「一生懸命”クリスマスツリー”用意してたし。いい出来だったよなー」

「おねだりするなんて事が稀だしなー、ユーリちゃん。ケーキだけであんなに喜んでなー」

「ユーリちゃんの所に”サンタクロース”が来なくてどこに来るんだよ」


それぞれ言いたい放題だが、大体の方向性はこれで定まってくる。


「じゃあ、隊長の部屋で宴会の準備。ユーリちゃんが戻ってきたら宴会開始で、ユーリちゃんが寝たらプレゼントの設置。それでいいかな?」

『了解』


話をまとめると、全員が頷いて動き出した。







隊長の取って置きの酒をしっかり冷やし、人数分のグラスを用意した所で、隊長の部屋を見回す。


ユーリちゃんが来る前は、この部屋はある意味宴会部屋だった。

隊長が好きで集めた酒が空いているスペースに並び、適当に座って良く飲んだりしたものだ。


だが、今は隊長の必要最低限の家具の他にユーリちゃんサイズの小さな家具も置かれている。

ユーリちゃんがいる為、並んでいた酒類やグラスも新しく用意された収容棚にきっちり収められ、ユーリちゃんの手が届かない様になっていた。


「随分変わりましたね、この部屋」

「あぁ。酒の色が綺麗つって興味深々で手を伸ばそうとするから全部しまえるようにした。オレが飲んでると纏わり付いて来るし。やらんけどな」

「ユーリちゃんが?」

「飲食に関しては貪欲だからな」

「確かに」


妙な説得力のある隊長の言葉に、思わず頷いてしまう。というか、オレだけじゃなく全員がしっかり聞いていたのか頷いていた。


すると、そこでいきなり部屋の扉が開いてユーリちゃんが入ってきた。

部屋の中を見て、目を真ん丸にしている。


『メリークリスマス! プレゼントありがとう』


打ち合わせ通り一番最初にお礼を全員で言い、ユーリちゃんを出迎えるとユーリちゃんの表情が輝く。

そんなユーリちゃんを出迎え、グラスを持たせ、一口分だけ乾杯の用意をしていく。勿論、初めて飲む訳だから度数はこの部屋にある酒の中で一番低い物を選んである。


初めてのお酒にキラキラ目を輝かせるユーリちゃんにやはり相好を崩しつつじいさんが乾杯の音頭を取った。…その内、この爺馬鹿じみたじいさんが普通になる日がくるのだろうか?


グラスの中身を呷った所でユーリちゃんを見てみると、一瞬で顔が真っ赤になった。

余りの事にユーリちゃんに近付くと、真っ赤になったユーリちゃんがにへらーと笑う。


「ユーリちゃん!?」

「おるしゃんー…」


危ないのでグラスを取り上げると、何やらユーリちゃんが抱き着いて来た。

そのままオレの足に抱き着いて立った状態で器用にもすやすやと寝息を立て始める。


「…ユーリちゃん、実は下戸?」


思わず呟くと、部屋中に微妙な沈黙が落ちた。

十秒程して、今度はそれが爆笑に代わっていく。


「疲れさせるまでも無かったな」

「もうその格好のまま寝かせてやれよ」


思い掛けないユーリちゃんの体質に、隊長がユーリちゃんをオレの足から引き離してベッドに連れて行く。

そこへ、部屋の扉がノックされた。副隊長が対応に出ると、少ししてプレゼントを手にした他の部隊の面々が姿を現す。


「乾杯で一口飲んだだけでぐっすりだ」


副隊長の言葉に、医療部隊のヴィンセント隊長とバクス副隊長が飲んだ酒を確認して笑う。


「これでそこまで酔えるとなると、二日酔いになるかもしれんな」

「薬を用意しておきますか」

「二日酔いの薬の中で一番不味いのが良いだろう。大人になるまでは飲みたくないと思える様なのが、な」

「ついでに隊長の小さなお説教が付けば完璧でしょうね」


ユーリちゃんの担当医師としての二人の言葉に、ディルナン隊長が頷く。


「そうしてくれ。懲りれば部屋で飲んでる傍でちょろちょろしなくなる」

「任せておけ」


会話する横で、他の面々はユーリちゃんの寝顔を見て和んでいる。

カラフ副隊長は「来年の衣装もバッチリ可愛く仕立てるから任せておいて!」と気合が入っていた。

そんなカラフ副隊長に、周囲から意見が飛び出して行く。

サンタクロースをユーリちゃんじゃなく、オレ達で着ようというものだ。


そして最後に設備部隊のヤエト隊長と鍛冶部隊のジョット隊長を中心に、ユーリちゃんのベッドの頭側の上辺りにプレゼントの山が築かれていった。







翌朝、案の定起きれず二日酔いの症状を訴えたらしいユーリちゃんに隊長の代わりに医務室へ連れて行く。

体調不良でプレゼントの山には全く気付かなかったらしい。


医務室でヴィンセント隊長が昨夜言っていた通りにユーリちゃんに治療を施しつつ脅していた。その効果は十分で、体調不良が少しは改善されてもユーリちゃんは別の意味でぐったりしつつ「もうお酒はのみましぇん…」と半ベソを掻いていた。




仕事が終わってから隊長に抱き上げられる様にして何とか部屋に戻ったユーリちゃんを見送り、他の面々で顔を見合わせる。

プレゼントに気付いたユーリちゃんは一体どんな反応を示してくれるだろうか。

明日が楽しみだった。


あぁ、それとプレゼントをいつ交換して貰うかも考えないとな。

[補足説明]

クレームのケーキ:クレーム=生クリームを使ったケーキ。主にショートケーキ。

ショコルのケーキ:ショコル=チョコレートを使ったケーキ。

ベルチ:イチゴの事。

バナナン:まんまバナナ(笑)


お菓子交換の所は年明けにでも書きます。

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