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10月31日ハロウィン企画 とりっくおあとりーと

私が今いる魔大陸にも、一応は季節が存在している。一年は日本と同じく十二ヶ月です。

ただ日本ほど気温の変化が激しい訳では無くて、むしろ比較的過ごしやすい春や秋の陽気が続いている。そんな中にも季節特有の変化がある訳で。


春は、土の季節。色んな植物が一斉に成長を始めるから。日本の感覚だと二、三、四月。

夏は、水の季節。梅雨じゃないけど、雨が多い。やたらジメジメはしないけど。日本の感覚だと五、六、七月。

秋は、火の季節。日が他の季節よりも長くて、収穫が沢山だ。日本の感覚だと八、九、十月。

冬は、風の季節。気温は穏やかでも冷たい風が吹く。だから、朝晩は少し寒い。日本の感覚だと十一、十二、一月。


各季節に三ヶ月。それぞれの季節の後に一月、二月、三月…と言った感じで月を呼んでいる。

一ヶ月は基本四週。但し、各季節の三月だけは五週。

そして一週間は七日。これは日本と一緒。但し、ここでは曜日という概念は無い。

因みに、現在は火の三月。…つまり、日本で言う十月な訳で。


私は今、とある企みを持って鍛冶部隊に向かっている。

娯楽の少ない北の魔王城に、一個くらい日本的イベントを持ち込んでもいいと思うの。







「こんちはー!」


やってきました、鍛冶部隊。受付のお兄さんにあいさつすると、笑顔で出迎えてくれた。


「カラフふくたいちょはいますか?」

「カラフ副隊長だね。ちょっと待ってくれるかな」

「あい」


勿論待つさ。何の約束も無くやって来たのは私だからね。

入口に用意されているベンチによじ登り、大人しく座ってカラフさんを待つ。


待つ事五分。

受付のお兄さんが戻ってくると同時に、中からカラフさんが出て来た。

ベンチから飛び降りると、カラフさんに駆け寄る。


「お待たせ、ユーリちゃん。アタシをご指名って聞いたけど」

「おねえちゃま。いそがしいのにゴメンなさい。来てくれてありがとーございましゅ。おにいちゃまもありがとー」


いつも通りド派手な衣装を違和感無く着こなしたカラフさんにお礼を言うと、何故かカラフさんと受付のお兄さんが鳩が豆鉄砲を食らった様な表情で絶句した。

え。何かマズイ事したっけ?


「---…ちょっと、アンタ、今の聞いた!? 他のヤツ等に見習わせたい!! …あら、いけない。つい本音が。それに、ユーリちゃんならいいのよ。むしろよく来てくれたわね。歓迎するわっ」

 

漸くカラフさんが口を開いたと思ったら、カラフさんが受付のお兄さんを振り返って叫んだ。それを聞いたお兄さんも勢い良く頷いてるけど、そんなに荒む様な事が? 

怖いから聞かないけど。


「おねえちゃま、今日はきれいな赤と黄色の服。いまの季節にぴったりなの」

「んまぁ! 本当に良い子ね、ユーリちゃん。そうよー、今日のコンセプトは紅葉なのよ。

 それで、アタシを呼んだ用事は何かしら?」


話をすり替えついでに、カラフさんの衣装を褒めておく。これ、基本です。

カラフさんに頭を撫でて貰ってニマニマしていたら、カラフさんが用件を聞いてくれた。


「あのね、おねえちゃまに作ってほしい服があるのー」

「あらあら、お安い御用ね。どんな服なのかしら?」

「えとね、黒いマントととんがりぼうしなの」


北の魔王城の周りの集落で探したんだけど、コレ! って言うのが無かったんだよね。

だから、カラフさんにお願いに来たんだけど。


「…何に使うの?」

「あのね、今月のさいごの日にそれを着てお菓子をもらいにいくのー。『とりっくおあとりーと』なの」

「何かイベントなのね。面白そう。そういう事なら、詳しく話を聞こうじゃない」


お。カラフさんが食いついた。

興味津々で鍛冶部隊の中に通してくれる。


…そう、私が企んでいるのは、ハロウィン!

本来はケルト的収穫祭兼お盆(超乱暴な短縮だけど、私はそう解釈した)

日本では完全にお菓子と仮装のイベントですよ。お菓子をくれなきゃイタズラしちゃうぞー。

べ、別にただ単にお菓子が欲しいってだけじゃないもんっ。…多分。




カラフさんとハロウィンの話をして、衣装の話をしていたら、いつの間にか服飾担当部門の人達まで集まって靴や小物の話まで出てきてデザイン画が起こされていた。

更に、ジョット隊長までひょっこり顔を出し、イタズラ用のグッズを作成してくれる事になった。

カラフさんに至っては、面白そうだからエリエスさんに正式に企画書を出すとまで言ってるし。

…なんだか話が大きくなってきたかもしれない。







カラフさんに衣装相談に行ってから、あっという間に月末でございます。


あれから、と言えば。

書類部隊に行ってみれば本当に企画書が出されていて、私が月末の夕食後辺りに仮装してお菓子を貰いに練り歩くという小さなイベントは笑顔のエリエスさんによって許可印が押され。

そのついでにエリエスさんによってコーサさんにイベント内容が伝えられ、コーサさんが何やらハイテンションでどこかへ走り去り。


休みの日にはカラフさんに呼ばれて衣装が作成されていき。


何故か結構イベントが認知されていて、色々な人に声を掛けられ。

ディルナンさんには、何故か調理部隊は最後に来る様に言われてみたり。


仕事休みの今日が、いよいよ本番です!




「ユーリちゃん…何て、何て可愛いのっ」


カラフさんを筆頭に服飾部門の方々に着替えを手伝って貰い、鍛冶部隊で着替え終わるとカラフさんに抱きつかれた。


現在の格好は白いドレスシャツに、オレンジのかぼちゃパンツ。上には黒い飾り付きのおしゃれマント風な上着。

頭の上にはジャック・オー・ランタンの形をした帽子がちょこんと乗っかってます。

最初にお願いしたとんがり帽子の代わりに、靴先がとんがり型の黒い靴。

そして、手には貰ったお菓子と私が配るあめちゃん、そしてジョット隊長作のイタズラ兵器を入れる為のジャック・オー・ランタンのカバーが付いたバスケット。因みに、このカバーはバスケットに入りきらなくなった時に外すと簡易リュックになるとの注釈付。素晴らしい。


流石はプロ集団。拙い説明でかなりのクオリティーの仮装が用意されたよ。


「カラフふくたいちょ、『とりっくおあとりーと』!」

「ふふ。『ハッピーハロウィン』だったわね」


さて、秋は夜長でも私のおねむは早い。

早速カラフさんに決まり文句を告げると、カラフさんがポケットから可愛く包装されたミニクッキーの袋を出してくれた。


「じゃ、アタシも。ユーリちゃん、『トリックオアトリート』」

「『はっぴーはろうぃん』なのー」


用意していたあめちゃんは、私の贔屓にしているお菓子屋さんのあめちゃんです。果汁たっぷりでジューシーかつ程良い酸味もあって美味しいんだよ。値段はあめちゃんにしては少しお高めでも、満足度はプライスレス!


この調子で服飾担当部門の人達とお菓子交換をした所で、いよいよ出発。

…と思ったら、入口の所でジョット隊長と武器・防具担当部門の人達が待ち構えていた。

普通にお菓子交換をして、いざ他の部隊へ出陣。


……ジョット隊長の作ってくれたイタズラ兵器を使う機会が早く訪れないかなぁ。







ちょこまか色々な部隊に顔を出すと、何故か沢山の人が待ち構えていた。

あれ。この時間、もう夜勤の人だけの筈だよね?

でもそのお蔭で、バスケットの中はどんどんお菓子で一杯になっていく。


因みに、『トリックオアトリート』の一番最初のイタズラの餌食は外警部隊の騎士の兄さんが何人かなった。

ジョット隊長お手製のイタズラ兵器、その名も『お髭ペン』。…実体は単なる(似非)油性マジックだけど。それで、お菓子をくれなかった人の鼻の下に紳士髭をプレゼントするのです。くふふ。

後で洗っても中々落ちずに苦労するが良い!




始めに向かった書類部隊ではエリエスさんとマルスさんまでは順調だったが、隊員の執務室ではお菓子くれたのに、何故か凄く良い笑顔でイタズラまで要求されて執務室から出られなくなるかと本気で思ってプルプルしたり(エリエスさんとマルスさんが助けてくれた)

医療部隊ではヴィンセントさんが抱っこしたまま三十分近く解放してくれずに困ったり(バクスさんにようやく抱っこ権が移ってすぐに逃亡)

近習部隊の兄様方は超高級お菓子くれたり(流石は魔王様直属)

近衛部隊ではお菓子を貰えない上にイタズラまで出来ずに半べそかいてみたり(あ、見かねたお菓子をくれた近衛騎士の兄様達がイタズラに協力してくれたので、何だかんだで遂行してきました)

設備部隊ではヤエトさんに大きなお菓子を渡されそうになってルチカさんがヤエトさんをどついて助けてくれたり(気持ちは嬉しいが、持ち切れない)

騎獣部隊では何故か騎獣達にまで食事で出たらしい小さな肉片を差し出され(騎獣達もハロウィンに参加!? お返し代わりに食べて貰い、レツはもふもふ毛並みを撫でまわしておいた)

他にも色々あったが楽しくあちこちの部隊をまわってきた。


そして、いよいよ最後の調理部隊。

ここに辿り着く頃には、バスケットもジャック・オー・ランタンのリュックも一杯になっていた。


「『トリックオアトリート』!」


お決まりの文句を口にしつつ食堂に突入すると、いつものメンバーが勢揃いしていた。

『ハッピーハロウィン』を一斉に返され、左右に分かれた先にあったテーブルにはオレンジ色のジャック・オー・ランタンの形の小さなケーキを中心に、包装されたクッキーやパウンドケーキ、マカロンといった様々な麗しの手作りお菓子達。


「ふわああぁぁぁ!」


美味しそうな甘い匂いに、じゅるりと涎が出て来る。


「ケーキはオレとジジイとシュナスから。クリルは三馬鹿で、簡易ケーキはオルディマとアルフ、マカロンはラダストールとディオガからだ」


ディルナンさんの言葉にテーブルに近付いてみると、凄く凝った作りのお菓子達が出迎えてくれた。

ケーキ、本当に凄いよ。ケーキのジャック・オー・ランタンの上に乗ってる飴細工の小さなジャック・オー・ランタンとか、コウモリの形にデコレートされたチョコとか、食べるのが勿体ないぐらいだ。


「ケーキだけは特別に今日食って、風呂に入って寝ろ。明日は仕事だぞ」

「あい!!」


ディルナンさんの指示に慌てて椅子によじ登ると既に補助椅子がセットされ、フォークも完備されていた。

勿体無いとは思ったけど、思い切ってケーキの端を切り崩して口に運ぶ。

濃厚な甘いカボチャクリームのスポンジケーキ。間に刻んだビターチョコが少し入れられ、アクセントになっている。


「おいちーい」


あまりの美味しさに口に含んだまま言葉を漏らすと、全員が笑みを浮かべる。


「オレ等も食べるか」


シュナスさんが言い、配膳口から同じケーキを人数分持ってくる。


全員でケーキを食べ終わると、遂には全員で『トリックオアトリート』合戦が始まり、何故かちゃっかり準備していた面々とは別に三馬鹿トリオの兄さん達が『お髭ペン』の餌食になった。

しかも、ディルナンさんとオッジさん、シュナスさんとオルディマさんによってかなり凄い顔になっていた。

…アレ、明日には落ちるかしらん(汗)

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