2017年6月6日 コックさんの日企画後日談 秘密基地のその後
あれから数日後。
ジョットさんとヤエトさんと共に、正式にロイスさん直々のお呼び出しがございました。
場所は秘密基地のある件の備品管理倉庫。
三人揃って指定された時間に大人しく出頭すると、そこにはロイスさんとエリエスさんが。
…この二人が目の前に揃うと何か不思議な緊張感があるよなー。
ここに医療部隊のヴィンセント隊長が揃うと、もう圧倒的なくらいだけど。
「来ましたね」
私達の姿を認め、ロイスさんが静かに微笑む。
「———先ずは三人の処分からお伝えしましょう。エリエス」
「はい。まず、ユーリ。貴方はディルナンと共に始末書の提出を命じます。
それからジョットとヤエト。貴方達は一ヶ月、一割の減給処分および始末書の提出を命じます」
ロイスさんが口火を切ってエリエスさんに促すと、エリエスさんが手元の紙から処分を読み上げた。
え。ちょっと待って。
「…ボクが一番わるいのに、何でボクはげんきゅうされないんでしゅか?」
「貴方の場合、基本他部隊の管轄場所への無断侵入のみが問題となっています。休日の自由時間で行った事ですし、貴方の作成した物は利用自由とされているダンボールを使った子供の工作の範疇ですから。そしてここ最近の状況も鑑みて情状酌量の余地があると判断されました。対してジョットとヤエトはいくら処分家具を利用してとは言え、業務時間中にこの規模の物を無断作成したんですから十分に処罰対象になります。まぁこちらも多少の情状酌量があり、尚且つユーリの実力判断の一端を担っていた事から一番軽い処罰に留められていますがね」
小さく手を上げてから質問をすると、エリエスさんが答えてくれた。
「随分と処分が優しいとは思ったんだよなー」
「な。三ヶ月は減給されると思ってたぜ?」
私の後ろでは、ジョットさんとヤエトさんがそんな事を言っている。
「所でよ、コイツはどうするんだ?」
そのまま続けてジョットさんがログハウス風の秘密基地を示しつつロイスさんとエリエスさんに問い掛ける。
「解体するならすぐでも出来る様に道具持って来たぞ」
ヤエトさんも左腕に抱えた工具箱を示しつつ言えば、ロイスさんとエリエスさんが一瞬目を見合わせて何故か溜息を吐いた。
この思い掛けない反応に、思わず小首を傾げる。
「———……この秘密基地は、存続となりました」
「「「…………は?」」」
そして告げられたロイスさんの言葉に、思わずジョットさんとヤエトさんと共に間の抜けた声で問い返してしまった。
何ですと? 今、まさかの秘密基地存続って言いました??
「出てらっしゃい、ユーノ」
状況が飲み込めずに三人で顔を見合わせていると、ロイスさんが名前を呼ぶ。
それと同時に秘密基地の扉が内側から開かれた。
…え?! 何で内側から開くの??!
頭の上でハテナが乱舞していると、薄暗い秘密基地から出てきたのは数日前に秘密基地の去り際にカラフさんが秘密基地の番人にと取り出してくれて設置しておいたメイドさんな真っ白ウサギのぬいぐるみ。
ちょっと待って、このぬいぐるみってば自動歩行してるんですけどっ???!
「この子がこの秘密基地の管理を担当するユーノです」
ロイスさんがぬいぐるみをユーノと紹介すれば、ウサギさんってばスカートの裾をちょこんと摘まむ様にしながらメイドさん式のご挨拶までしてくれる。余りの衝撃に私も普通に会釈を返してしまった。
あ。何かぬいぐるみから嬉しそうな雰囲気が放出されている気がする。
非現実的な光景に思わずパチパチ瞬きをしていると、ジョットさんとヤエトさんがぬいぐるみを見て盛大に頬を引き攣らせていた。
「ちょっと待てや、ロイス。こいつぁ何の冗談だ」
「いやいやいや、警備魔術にしても最強すぎて笑えないだろ!」
ヤエトさんは兎も角、ジョットさんがここまで取り乱すのは珍しい。
「何を言ってるんですか。魔王様もこの秘密基地を利用されるのです。この程度の警備魔術は必要でしょう。だからこそカイユ様ご自身がこの秘密基地にいたユーノに自己判断で動ける様に防衛機能を搭載したんです。まぁ、普段は持っている箒と清掃魔術を駆使する単なるメイドウサギですが」
「「マジでかっっ!!!!!」」
大人のやり取りを大人しく見守っているとロイスさんが爆弾発言をかまし、ジョットさんとヤエトさんがお腹の底から叫び声を上げた。
…………今、ロイスさんってばカイユ様も利用されるって言った?
ユーノちゃん起動の犯人はまさかのカイユ様??
うそーん。そりゃ、ジョットさんとヤエトさんも叫ぶわ。私も遅ればせながら叫びたい。
「更にこの備品管理倉庫には特殊魔術が設定されました。倉庫の管理部門である設備部隊の隊長・副隊長及び秘密基地作成に関わった者、私とエリエスの引率なくして辿り着けない仕様になっています。
更にユーノには戦闘魔術の他にカイユ様の戦闘様式も設定されているので、不法侵入者を感知した瞬間に戦闘態勢に入ります。その際色々と汚れても良い様に毛色が漆黒に変化しますので、ユーノが黒い時は敵と認定されたと判断して下さって結構です」
…………もうロイスさんの説明が頭に入ってこない。色々と現実逃避してるんだろうな。
汚れても良い様に真っ白ウサギが真っ黒ウサギになるのかー。色々とって何で汚れるんだろうね(遠い目)
「カイユ様の戦闘様式って…今、持ってる箒でか?」
「えぇ、そうです」
「そこまでするなら、その箒の柄にいっそ仕込み刃作るか?」
私が遠い目をしている間に立ち直ったらしいジョットさんがロイスさんに何やら確認してる。
そんな事したら下手したら増々汚れちゃうのにね、ユーノちゃん。
「カイユ様はこの秘密基地で何をしていらっしゃったんだ?」
「寝転んで寛いでいらっしゃいましたね」
「分かった。やっぱり寝転ぶのにもう少し加工する。それと茶の一杯も飲める様に準備しとくか」
「あぁ、もし加工するのならばくれぐれも端材を利用する様にとのお達しがあります」
「流石はカイユ様。秘密基地の何たるかを良く分かってらっしゃる」
ヤエトさんもヤエトさんで確認してるし。
魔王様、それでいいのか。ノリ良すぎる。
「あぁ、勿論ユーリは自由に利用して大丈夫ですよ。基本、カイユ様が利用するのは夜中ですから」
「…真夜中の怪談…………」
大人達のやり取りを呆然と見ていると、ロイスさんがそんな事を告げたので思わず思った事が口から零れ出た。
すると、大人四人が目を見合わせる。
「それはいいですね」
「情報操作は基本ですから」
「だよな。ユーリが小耳に挟むくらいだ。他に似た様な事を実行する阿呆がいてもおかしくない」
「これで無意味に近寄るヤツは激減するんじゃないか?」
えええぇぇー。まさかの真夜中の怪談案を採用って。本当にこれでいいのか、北の魔王城。
内外問わずに相変わらず静かに物騒です。
思わず眉をハの字にしていると、大人しく待機していたユーノちゃんがトコトコと私の前にやって来た。
よしよしと頭を撫でられ、その手の毛並みのモフモフっぷりに思わず抱き着いてみる。
はぁーん。めっちゃフワフワのモフモフのサラサラやーん。
「ボク、ユーノちゃんとお昼寝にきましゅ!」
「「「「……カラフにブランケットの依頼も追加しよう/ましょう」」」」
ユーノちゃんの感触に思わず宣言すると、大人四人が揃いも揃って告げた。
そして更に時は過ぎ。
地図にあるのに辿り着けない倉庫の噂が実しやかに囁かれ始めると、人気の無い倉庫周りで異様に強い漆黒のメイドウサギに追いかけられる恐怖体験もちらりほらりと出現し。
止めに真夜中に恐怖の漆黒のメイドウサギを従えた漆黒の幽霊の目撃談まで語られ。
気付けばその三つのお話は北の魔王城の怪談に仲間入りしましたとさ。ちゃんちゃん。




