2017年6月6日 コックさんの日企画 ヒ・ミ・ツのDIY大作戦☆
水の二月(六月)六日。
この時期は『水の季節』と言うだけあって、魔大陸でも雨が多い。
今年は特に雨が多いみたい。
ここ一週間、ずっと雨続きだ。というか、ここ何回かのお休みが全て雨だ。
ただし、魔大陸は地球と違って便利な生活魔法があるので、一手間増える面倒はあっても洗濯物に困る事はあまりない。湿度で不快指数が急上昇する事もあまりないのはありがたい。
では何が困るか。
…ぶっちゃけ、お休みに暇を持て余し始めております。
外出はまず保護者の許可が出ない。まぁ、行く当てだってほとんどないんだから当然と言えば当然だけど。
保護者同伴だったらまだいいんだろうけど、そんな都合よく私の面倒を見てくれる人が一緒の休みになるわけもなく。
獣舎に遊びに行ったら何故か騎獣と雨を使った水遊びになり、どういう連絡網で知られたのか速攻で連れ戻されてお風呂へ直行命令。
ディルナンオカンのお説教も頂きました。まぁ体調崩しでもしたら大事になっちゃうし、それは小さくなりながら甘んじて受け入れ。
その時に雨の日の獣舎行きも制限をかけられました。トホホ。
同じ理由でお外遊びも却下されてしまい、現在お部屋なう。
落書き帳はあれど備品として買って貰った物だから、やたら使う訳にはいかない。
レシピ帳のまとめと見直しも終わっちゃったし。
厨房も忙しいから、目的無く使わせて貰うのはとても気が引ける。何より、静かなる注目ががが。
部屋で出来る遊びの代表格と言えばカード遊びだけど、一人で出来るモノって限られるし。
読書にしても、ちょっとずつはいいけれどもずっとは中々に目が疲れる。そしてそこそこ普通サイズの本でも子供にはとても重いので物理的にも疲れたりする。
一日中寝てるのは生活リズムが狂うから、頂けないしなー。
…………どうしたもんだろうか。
---あれから四半刻(三十分)、ところ変わって現在部屋を飛び出してみましたユーリでございます。
どこに向かっているのかと言うと、使わなくなった備品等の倉庫があるらしい場所。
ベッドの上でゴロゴロしながら何かないかを考えていた時に、ふと前に小耳に挟んだ事を思い出したので早速行動してみました。暇だったから元気は有り余っている。
他の部隊のお仕事のお邪魔をしない様にしながら、まずは目的地を探してみたいと思います!
設備部隊とか鍛冶部隊の資材置場だとか倉庫が密集してる方角だから、元々の人気も少ない。
時々人の気配や声を感じては息を潜めてこっそり隠れてみる。
奥に行く程通路は細く入り組んでいるので、隠れる場所にはあまり困らなかったり。そんな通路は当然ながら薄暗いので、それだけで何だかドキドキする雰囲気も楽しんでみたり。
…ミステリーツアーというか、なんかお宝ないかなーなんて探検気分でワクワクは増すばかり。
そんなこんなでちょこちょこ進み続けて四半刻。
どうやら目的地らしい場所を無事発見しました!
まずは左右、そして後ろをキョロキョロと確認。
人気なーし、よし!
踏み台になりそうな放置されていた小さな空の木箱を扉の前に置いて、そっとドアノブを回してみる。
ギギィ…と微かな音を立ててその扉は開いた。
鍵が掛かってなくて、本当に良かった。
鍵掛かってたらそれでこの探検自体が終わりだもんね。
安堵の息を吐いた所で扉を開くと、部屋の中をキョロキョロ確認してから踏み台を降りる。部屋の入口のすぐ内側に踏み台を隠してっと。
隙間を残して扉を閉めたら掌の上に小さな小さな灯りをともす。
それを掲げてみれば、暗闇の中に薄っすらと埃を被ったダンボールの様な紙に包まれた物が整然と並べられている部屋が浮き上がる。
どうにかダンボールの下の方を少しだけ持ち上げてみると、木製の家具類らしい表面が見えた。
程々に広い倉庫をぽてぽてと歩いて回ると、奥の壁際にぽっかりと空いた空間が。
そこにも家具類があったのかもしれない。不自然にぽっかりと空いていた。
他にも持ち出したであろう家具類を覆っていたであろうダンボール、梱包などに使う麻紐等も隅に纏められている。それらが置いてある前の壁には『勝手に利用可』の張り紙。
他には特に目ぼしい物は何も無い。
……無いんだけど。
「……これは、ある意味いいモノみつけたでしゅね」
ぐるりと部屋を一周した所で、ニンマリと笑ってしまう。
いい事思い付いた!
一度倉庫を撤退し、またこっそりと部屋に戻ってきた所で机に向かう。
まずは計画をしっかり立ててっと。
取り出した落書き帳に、まずは太めのペンでタイトルをキュッキュッキュッと。
『秘密基地大作戦』っと。書き上げて、まずは一つ満足。
子供の頃、学校の裏山に何人かでダンボールだとか床材用の雑誌とか集めて小屋とも呼べない物を作ったよなー。
あの何とも言えない狭いスペースにぎゅうぎゅうになって、次はツリーハウスだなんて無茶もいい物を作ろうと子供の知恵でああでもないこうでもないと話して。
雨が降ったら結局すぐにへたっちゃうのに、何が楽しいのか飽きるまで何度も作って、小屋(仮)の横にツリーハウスの材料だなんて枝を集めてみたり。まぁ、当然ながら流行なんて所詮は一時的なものだったけど。
飽きたら、ちゃんと片付けましたとも。
そして次のブームがやってくる。一輪車、竹馬、鉄棒、雲梯、縄跳び、ドッジボール。王道ではかくれんぼに警泥…泥警とも言ったりするよね。友達やら近所の幼馴染と駆け回ったもんだわ。
何だか懐かしいなー。大きくなるに従って駆け回ることなんて殆ど無くなったし。
おっと。話が逸れた。
まぁ、倉庫の中だから外と違って天気は全く関係ないし、幼児サイズの小さな小さな小屋を作るだけのつもりなんだけど。暇つぶしには中々にいい案じゃないだろうか。
材料は倉庫にあったダンボールを拝借しようと思うから、持っていく道具をよく考えて忘れ物がない様にだけしないとね!
何せ往復半刻。とんでもない時間のロスになってしまう。
「お昼を食べたらいざ実行でしゅね!」
久しぶりのウキウキ気分で鼻歌を歌いつつ、使いそうな道具をあれこれ書き出し始めた。
パスタなお昼ご飯を食べて一刻ほどお昼寝した後に真っ先に向かった先は、設備部隊。
目的は作成に必要になるであろう道具を借りる為ですとも。何せ外出できないから、自分では道具を全部揃えられないし。
それに数がいっぱいあるだろうから、借りてもご迷惑にならない筈。
「こんにちはー!」
作業部屋にそっと顔を出しつつ挨拶すると、青いツナギの面々がそれぞれ答えてくれる。
「おう、ユーリちゃん」
「ヤエトたいちょ。…ジョットたいちょも!」
そんな中、何故か入口の一番近くにいたのは、設備部隊隊長のヤエトさんと鍛冶部隊隊長のジョットさん。
何やら図面を台に広げて二人で相談してたらしい雰囲気。
隊長二人で話し合うって、どんな設備なんだろう。きっと聞いてもよく分からない自信しかないけど。
きっとすごいもの作るんだろうなぁ。
「こんな時間に一人でどうした?」
「えと、いくつか道具をかしてくだしゃい!」
「道具? …設備部隊のか??」
「あい」
丁度ヤエトさんが声を掛けてくれたので用件を伝えると、ヤエトさんが目を瞬かせる。
「…今回は何がいるんだ?」
「えーっと……」
そんなヤエトさんに代わって聞いてくれたのはジョットさん。
その目はどこか面白そうにも見える。
取り敢えずメモに写してきた道具の名前を伝えると、二人がチラッと顔を見合わせた。
「何か紙類でも加工するのか」
「…まぁ、どれも変なモンじゃないな」
「えへへー」
あれ、ちょっと借りれるか雲行き怪しい感じ?
「……まぁ、刃物の扱いには十分に気を付けるんだぞ」
「…くれぐれも怪我には気を付けろ。ヴィンセントの説教食らいたくないなら、な」
「! ありがとうございます!!」
背中で冷や汗を流していると、少しして二人が許可の言葉を口にした。
危ない。計画が早速頓挫する所だった。
用意してもらった道具を持ってきた袋に入れ、もう一度お礼を言って部屋を後にする。
よし、目的の道具も手に入った所でいざ秘密基地作成開始ー!
再びコソコソしながらやって参りました、目的地の備品倉庫。
周囲を再度確認してー、よし!
今度は中に入ったら扉をきっちり閉めてっと。
迷いなく奥のスペースへ向かうと、まずはスペースの寸法の確認から。
その場にあった麻紐の先を、部屋の隅っこにガムテープで固定。それから大体この辺までーという所まですみに沿って伸ばして、カッターでカット。それで縦の寸法と横の寸法の長さの紐を作ってっと。
これで大体の大きさを測れますよー。
まずは床板代わりの一枚。
適当な大きさのダンボールを取り出し、一角に測ったばかりの二本の紐をガムテープで固定して片方の紐をまっすぐ伸ばします。固定したのとは反対側、伸ばした先の紐の位置に筆記具で印をつけます。もう一本も同じようにして。
固定していた紐を外して今度は長い紐で印を付けた所に短い紐を、短い紐で印を付けた所に長い紐を固定して再度同じように印を付ける。
後は長い定規で印に線を引いてカッターで切れば出来上がり。
床板サイズだと私一人の秘密基地には高さが高いので、壁材用のダンボールの計測に短い紐をこのくらいかなーと適当にカット。切り出したダンボールは一度壁に立てかけて避難し、端材は邪魔にならない隅っこへ。
今度は手間を減らす為に折り畳まれたダンボールの中から二枚選んで、他を片付けてから一枚を作業用に広げる。
折られたダンボールだと一枚で縦横の二枚分の壁ができるから、二枚の作業だけで済む。固定に使うガムテープも半分で済むし。
一枚を切り出したら、待機してたダンボールを広げ、底辺と折り目に合わせて重ねたら切ったダンボールに沿って筆記具で印を付けてカット。
四辺の壁材用ダンボールができた所で綺麗な方のダンボールをチョイスして、私一人が屈んで入れるサイズに定規でこれまた適当に入口を作る。
これで良しと端材を元のダンボール類の場所に戻し、ガムテープ以外の道具を袋に片付ける。
そんなこんなで出来上がったパーツを確認して、ハタと気付く。
…屋根作ってないじゃないの、私。
もう一度ダンボール置場をゴソゴソ物色してみれば、床板用のものより一回り程大きいダンボールを発見。
もうこれを出来上がった上に乗せればいいやとそのままで利用決定。だってもう一度採寸して切るの面倒なんだもの。
床板用ダンボールと一緒に壁に立てかけて、今度こそ組み立て作業に入る。
壁材二枚をガムテープでくっつけて少し避難。床板用のダンボールを部屋の隅っこに合わせて設置したらその上に壁材を乗せる。まぁ、ちょっとのサイズ誤差はご愛敬という事で。
最後に、屋根用のダンボールをどうにか乗せれば、『秘密基地』の完成!
「できまちたー!」
完成したところで一人拍手。
のはずが、何故か後ろから他にも拍手音が……?!
「おー、立派なダンボールの家が出来たじゃねぇか」
「中々の手際の良さには驚いた」
恐る恐る振り返ると、そこには何故か赤いツナギと青いツナギの巨体が。
「ジョットたいちょとヤエトたいちょ!?」
何故に隊長が二人もこんな所にいるの!?
「最近ユーリの元気がないってディルナンが心配してた所にご機嫌で設備部隊に来たんだ。何かあるのは確実だろ」
「でっかいカッターを持たせたから、心配でなー」
ジョットさんは完全に面白がってるけど、ヤエトさんはただ単に良い人だった。うん、知ってた。
面白がりと心配性の二人が実はこっそり私の後を尾行して様子を伺ってた、と。
忙しい隊長二人が何をしてるの。
「ボクの秘密基地…」
でも、折角の秘密基地が出来上がった途端にもう秘密じゃないってこれ如何に。
思わずしょぼんとしたのは仕様がないと思うの。
「おっと、コイツは秘密基地だったのか?」
「確かにここは隊員用の家具置場だからな。入隊試験がない限りごく偶に掃除に入る以外は殆ど出入りがないし。むしろよくユーリちゃんがここの存在を知ったもんだ」
「そいつは悪い事をしちまったな」
私の呟きを拾った二人が顔を見合わせてそんな会話をする。
「………だったら、この三人でもっとスゲェ秘密基地を作っちまうか」
そこで、ヤエトさんが思いがけない提案をしてきた。
え。何それ。
「ここの家具も大分古くなってきたから、半分くらいは処分する方向で動いてるんだよな。だから、処分する奴を材料にしてやればスペースも出来るし中々面白いモン出来るんじゃねぇの?」
「ふむ、とっておきの秘密基地か。…いいじゃねぇか」
あれ、この二人が本気で秘密基地作成に乗り気なんだけど。
良いのかな。
でも隊長二人が良いって言うんだから良いんだよね?
ヤエトさんが部屋の中の家具を見て回り、使える使えないの判別を行う。使えないとすぐに判断された家具は部屋の四分の一くらい。ヤエトさんがポケットに常備しているらしい赤ペンで外のダンボールに印を付けてた。
他の家具は設備部隊の副隊長であるルチカさんの判断も仰ぐとの事。そりゃそうだ。
その間にジョットさんが軽々と家具を動かして取り敢えず使えると判断された物は入り口側に、不要というか秘密基地の材料になる物は秘密基地側に移動させていく。二人とも作業が早い。
それが終わった所で屋根を外したダンボールの秘密基地に入り、三人で作戦会議です。
…隊長二人が結構無理矢理通った入口はさり気なく変形してしまったけど。高さが二人には足りてないから外から頭丸見えだけど(笑)
私の落書き帳の新しいページに使える家具の書き出しと共にそれから取れる木材のサイズが書き込まれ、更に不要家具を除いたスペースも併せて新しい秘密基地のサイズが計算されていく。
流石はプロです。
何かちょっとしたログハウスでも出来そうな勢い。
更にはどこかからヤエトさんが工具を持ってくるなり、ジョットさんが一気に家具類を解体し始めた。解体した木材は厚さで分け纏められていく。
それをヤエトさんが更に選別し、必要な木材に最小限の凹凸を付ける加工をして釘を使うことなく木材を接いでいく。
その間、私がしている事と言えばさっき作ったダンボールの秘密基地と家具類を覆っていたダンボールのお片付けですよ。出来るだけ平らにしてダンボール置場の他のダンボールと合流させておきます。
三者三様に動いている間に、ログハウス風な秘密基地の外壁が仕上がっていく。
外に見えるのは、美しい茶色の木目が見える板を接いだ物。壁に面しているのは、少し厚みのある中敷き等に使われていた板を接いだ物。
必要な面積が確保されたら、残る木材は厚さの揃った物は床板に、その他余りは屋根へと加工されていく。
終盤では解体を終えたジョットさんがヤエトさんが凹凸加工をした板を接いで、それをヤエトさんが組み立てていたので作業時間が恐ろしく短縮されていた。
最後に入口として箪笥に付いていた取っ手付きの扉が取り付けられれば、ジョットさんとヤエトさんの手が止まる。
そんなこんなで、僅か半刻で小振りながら立派なログハウス風の秘密基地がその全貌を表した。
「ま、こんなもんか」
「だな」
ヤエトさんとジョットさんは及第点だなと言わんばかりの反応だけど、これ、最早立派な建物だから。
とても倉庫の一角にある秘密基地には見えない!
思わず感動して前から横から下から眺めて感嘆の息を吐き、秘密基地の中に突撃して思わず歓声を上げる。
屋根に巧妙に隙間を作って、真っ暗にならない様に工夫されている。無駄にハイスペック!
「しゅごいですねー!」
「…そろそろ夕飯の時間か」
「折角だから三人で飯食って、完成記念の茶でも乾杯するか」
秘密基地を堪能した所でジョットさんとヤエトさんに突撃すると、ヤエトさんが懐から懐中時計を取り出して時間を確かめる。
それを聞いたジョットさんの提案に反対の声が上がる筈もなく。
三人で手早く残っていた片付けをして、倉庫を後にした。
今日も絶品なお魚メインの夕飯をしっかり食べた所で、厨房で三人分のお茶の準備だけさせて貰った。
そのまま出来たばかりの秘密基地がある倉庫へと三人で抜き足差し足忍び足。
無事に倉庫に戻った所で秘密基地に入り、中に小さな光球を浮かべて明かりを確保する。
「ここまで作ると、折角ならテーブルとか寝転がれる場所も欲しいよな」
「そこまでやるとなると、警備魔術も付与したいがな」
床に直に座りつつお茶の準備をしていると、ジョットさんとヤエトさんがそんな会話を始める。
準備ができた所で小さなチョコレートを添えて二人に渡せば、いざ乾杯!
「かんぱーい!」
ニコニコしながら音頭を取れば、二人もカップを掲げて乗ってくれる。
あー、労働の後のお茶は美味しい!
「———……アンタ、仕事サボって何をしてるんですか」
「———……ちょっと隊長ぉ、随分と楽しそうじゃぁないかしらー?」
ぷっはーと満足の息を吐いていると、それはおどろおどろしい低い声が二人分背後から聞こえてきた。
これには私は勿論の事、ジョットさんとヤエトさんまでもがギクリと肩を震わせる。
三人で恐る恐る扉を振り返ると、僅かに開いた扉の隙間から怒りの形相のルチカさんとカラフさんのお顔が…!
「ル、ルチカっ、ここここれはだなっっ」
「おう、カラフ。…ちっともご機嫌麗しくねぇな」
ヤエトさんは滅茶苦茶怯えてる。ジョットさんは乾いた笑いを浮かべて目を泳がせていた。
ヤダ、副隊長最強説が濃厚ですかー?(棒読み)
「———……ユーリ、お前も何をしているのかと思えば」
そしてそんなお二人の後ろにもう一人。
よく聞き慣れた、けれどいつもより確実に一オクターブは低い声。
「たいちょ……っ!」
私の心のオカン、ディルナンさんですよねー。
やっぱり秘密基地なのにすぐに秘密じゃなくなったって言うね。知ってた!
「ユーリちゃんが来てから姿が見えないと思ったら、何一緒になって遊んでるんですか。アンタ幾つですか。つーか、かなり良い給料貰ってんだからそれに見合った仕事しろや」
「何でこんな楽しそうな事に私を呼んでくれないのよ! 隊長ばっかりズルイじゃなーい!!」
「設備部隊と鍛冶部隊の連中が一体何人お前を追って隊長が行方不明だって厨房に訪ねて来たと思ってるんだ! 遊びの範疇を完全に逸脱してんじゃねぇかっ!!」
ルチカさんの正論が耳に痛い。ごめんなさい。元凶は私です。
カラフさん、ちょっと論点ずれてると思う。知ったら貴方まで参加してたんですか。
ディルナンさん、ご尤もです。やっぱりこれは不味かったですよねー。
「…もうこれ、我々で処理出来る範疇超えてますよね」
「取り敢えず、エリエス隊長に報告かしらねぇ」
「むしろロイスもだろ。どーすんだよ、コレは」
心底呆れたと言わんばかりの扉の外の三人の言葉に、基地内の三人で思わず顔を見合わせる。
そしてテヘペロっとばかりに揃って笑ってみた。
当然ながら、速攻で外の三人にそれぞれが天誅を食らった。
ディルナンさんの拳骨、痛い…………。
私が痛みに悶絶している内に、カラフさんが書類部隊へエリエスさんを呼びに出て行く。
そしてしばらくしてカラフさんと共にやって来たのはエリエスさん、と副隊長のマルスさんも。
「…カラフに呼ばれて来ましたが、状況が全く読めません。説明を求めます」
ログハウス風秘密基地を見て微かに眉を顰めたエリエスさんの言葉に、全員の視線が私に集まる。
ですよねー。
「えと、ボク、今日お休みだったんでしゅ…」
視線での催促に、大人しく事の成り行きを話し始める。
一人きりの休みで、天気のせいで出掛ける事も出来ずに暇を持て余していた事。
前に噂で聞いた人気のない場所にある家具などの備品保管の倉庫の事を思い出し、暇つぶしに捜索の探検に出た事。
見付けたこの倉庫で、自由に使っていいダンボールを見付けた事で秘密基地の計画を立てて実行した事。
その際道具を借りた設備部隊にいたジョットさんとヤエトさんが心配でコッソリ様子を見ていてくれた事。
出来上がって早々に秘密基地なのに秘密じゃなくなった事に落ち込んでいたら、ジョットさんとヤエトさんが倉庫内にあった処分予定の家具を使って一緒に新しい秘密基地を作ってくれた事。
完成記念にお茶をしていたら三人に見つかって今に至る、と。
「…成程。状況は良く分かりました」
話し終えると、エリエスさんが溜息交じりに頷いた。
「まず、ユーリ」
「あい」
「勝手に他の部隊の管理する場所に入ってはいけません。ましてや人気の無い、貴方よりも大きな物が保管されている倉庫です。何かあったらどうするつもりだったんですか」
「ごめんなしゃい……」
淡々と告げるエリエスさんに反論などある筈もなく。
大人しく小さくなって謝るしかない。
「……まぁ、こうも雨が続いていて行動制限がかかった状況の子供という点では情状酌量の余地はいくらかありますが。ディルナン、貴方の監督不行届きでもあります」
「面目無い」
更にエリエスさんの矛先はディルナンさんにも向かった。
うぅ、本当に申し訳ない。
「対してジョットにヤエト。設備部隊と鍛冶部隊の長たる貴方達が一体何をしてるんですか。業務時間にやる事ではありません」
「「ついなー」」
そして、エリエスさんの視線がジョットさんとヤエトさんに向かうなり、急に鋭さを増した。
それに対する二人は何故か軽い。
え。倉庫内に一気に冷気が広がったんだけど。寒い。
「だってよー、ちょっと見てくれよ、コレ」
そんな冷気など物ともせずに、ジョットさんが動く。
向かった先は、ダンボール置場。
そこから取り出したのは、畳んで片付けただけの私が作ったダンボールの小さな秘密基地。
それと、計測に使った麻紐。
「ユーリがここにあった麻紐とダンボールを使って一生懸命作ったんだぜ。こんなちっこい体で中々の手際だったぞ」
「ちゃんと床板と屋根まで付いてたんだぜ。凄くないか?」
ギリギリのスペースだけど、全員の前で床板を敷いてから外壁を広げ、屋根のダンボールを乗せて完成形を披露する。
「これを、ユーリちゃんが一人で?」
それに食いついたのは、何故かルチカさん。
「凄ぇよな。まず麻紐でスペースの縦横の寸法測ってからそのままダンボールの採寸に使ってるんだぜ? この外壁部分だって何枚も切らなくて良い様に折り畳まれてた大きめのダンボールの折り目使って二枚で済ませてんだ。これを三十そこそこの幼児が半刻程度で作っちまったんだからなー」
「……まさか、ここまでの完成度とは思いませんでした」
ヤエトさんがポイントを解説してくれてるけど、ルチカさんや、微妙に歪なんでそんなに見つめるのはご勘弁頂きたい…!
「こんなん見せられたら、オレ達だって負けてらんねぇと思うだろ?」
「設備部隊としては、致し方ない部分があるのは認めます」
ヤエトさんが胸を張れば、ルチカさんが不服そうな、それでいて悔しそうな表情で答える。
え。致し方ないの!?
「凄いわー、ユーリちゃん! 全体的に物を作る才能があるのねぇ」
「でっかくなったら、本格的に設備と鍛冶も小物系技術者として狙いにいってもいいぜ?」
カラフさんがダンボールハウスをべた褒めしてくれるけど、いや、そんな大層な物じゃないですから。
ジョットさん、私ずっと言ってますけどこのまま調理師になりたいんですってば。それに不器用には自信があります!
「ユーリ、またお前はそうやって他の部隊長を誑しやがって…!」
ディルナンさん、無いから! そんなつもりは一切無いから!!
「……また意外な才能を発掘したと言う訳ですか」
「オレは認めたぜ?」
「同じく」
そんな中流れを見ていたエリエスさんが冷気を収めて言葉を発すると、ジョットさんとヤエトさんが揃って頷いた。
何故だ。解せぬ。
「…マルス」
「……始末書と一番軽い減給処分くらいが精々でしょう」
「でしょうね。ロイスに持ち掛けても同じ反応ではないかと思いますよ」
頭を捻っていると、エリエスさんがマルスさんに相談していた。
そして、エリエスさんが再びきちんとこちらを向く。
「取り敢えず、状況は分かりました。恐らく三人およびディルナンは始末書、それと三人にはいくらかの減給処分を科す事になるとは思います。詳細およびこの秘密基地の処理についてはロイスにも相談してから追ってお知らせします」
「あい」
「「了解」」
そして告げられた言葉に、三人揃って答える。ディルナンさんも頷いていた。
「では、解散です。……ユーリは書類部隊も譲るつもりは一切ありませんからそのつもりで」
「……う?」
だから、何でそうなるの?
そう思っている間にもエリエスさんとマルスさんはさっさと倉庫を後にする。
お仕事忙しいだろうに呼び出しちゃったもんな。今度ちゃんとお詫びに行かないと。
「調理は当然ながら、書類に医療に騎獣・農作・清掃、追加で鍛冶と設備かー。モッテモテだな、ユーリ」
「ジョットたいちょ…ヤエトたいちょも、迷惑かけてごめんなしゃい。ルチカふくたいちょも、カラフおねーちゃまも、たいちょもごめんなしゃい」
「オレ達はやりたいからやったんだ。気にすんな」
そんな事を考えている時にジョットさんにウリウリと手荒く頭を撫でられ、取り敢えず周囲に謝罪する。
すると、何故かヤエトさんにまで頭を手荒く撫でられた。
他の三人は仕様がないと言わんばかりに苦笑してる。本当に申し訳ない…。
「取り敢えず、秘密基地はロイスの判断が下るまでこのまま保留かー」
「じゃあ、この秘密基地の番人でも置いておきましょうかー」
ジョットさんが秘密基地を見つつ呟くと、カラフさんがそれに答えつつ亜空間から何かを取り出す。
それを見て、倉庫内に沈黙が落ちた。
………カラフさんが取り出したのは、私とほぼ同サイズの真っ白いウサギのぬいぐるみ。
メイドさんなフリフリ衣装を身に纏い、柄の長い箒までその手に持っている。
待って、私ってばこの衣装に見覚えがある。
「…なんじゃこりゃ」
「前にユーリちゃんが近習部隊のお手伝いで可愛いメイド服姿になったのを見て、衝動的に作っちゃったのよぅ☆」
ジョットさんが場を代表して聞けば、カラフさんがキラッ☆なポーズで答える。
似合うな、カラフさん。
「あー…爺共の接客でロイスに呼び出された時のか」
「超絶可愛かったわー。あれは永久保存版の可愛さだったわぁー」
カラフさんの言わんとしている時を思い出したらしいディルナンさんが言えば、カラフさんがウットリと何かを思い出しながらうんうん頷いていた。
「そーいや、ユーリちゃんが出てくとあの狸爺共が途端に大人しくなるよな」
「大人しいというか、好々爺してるな」
「そりゃロイスも是非とも利用したいだろう」
隊長三人が何かを思い出している間に、カラフさんからぬいぐるみを強奪したルチカさんが秘密基地に入ってぬいぐるみを設置した。
「…家具の廃材からよくぞこんな無駄に高機能なモン作りましたね」
「どうせならテーブルとか寝っ転がれる場所が欲しい所だが、恐らく解体処分だろうな」
「…………さ、そろそろ戻りますよ。午後の仕事が丸々残ってるんですから、気合い入れて処理して下さい。オレはもう上がりますから」
「はぁ? ちょ、ルチカ待ってくれ!」
「じゃあ、オレ達はこの辺で失礼します」
そこまで終えた所で、ルチカさんが挨拶をしつつヤエトさんの襟元を掴んで引き摺る様にしながら倉庫から出て行く。
ルチカさんの方がヤエトさんより二回りくらい小さいのに、凄い力だなぁ。
「オレ等も戻るか」
「そうねぇ。隊長は仕事は大丈夫なのかしらん?」
「オレは今日は大した仕事を持ってねぇからな。他のヤツ等の確認作業が滞ってるくらいじゃねぇか?」
「何それ。隊員達が可哀想じゃないの!」
ジョットさんもそんなヤエトさんを見送って口を開けば、カラフさんと夫婦漫才の様ないつものやり取りをする。
「オレ達も戻るぞ。ったく、他のヤツ等にすっかり片付けを押し付けちまったじゃねぇか」
「あぅ……」
「美味いデザートの賄賂なら受け付けてやる」
「あい! 頑張りましゅ!!」
私もディルナンさんに促され、茶器なんかを回収してから四人で倉庫を出て行く。
その途中にディルナンさんに言われた言葉に手を上げて答えると、ジョットさんが声を上げて笑った。
「お、それいいな。鍛冶部隊も受け付けるぜ」
「設備部隊も受け付けてくれましゅかね?」
「受け付けないと思うか?」
思いません!
毎日食堂の片付け部隊に来てくれるの、実は設備・鍛冶部隊で半分近くを占めてるの知ってる!!
それにしても始末書か。
書き方を調べておかないとなー。とほほ。